62 / 141

恋敵

 ここは別邸の書斎。ヴェルトとハルキオンの2人は何か手掛かりとなるような物を探していた。 「幼い頃の記憶で申し訳ないのですが……ここに、隠し扉があるとおじい……いや、祖父が話しておりまして」 「隠し扉ねぇ」 「モンスターや賊が隠れるのにはおあつらえ向きでしょう」 「そうだけどさぁ……すぐに気付くもんかなぁ」  少しの間、2人は無言であちこち探し回り続けた。 「……ねぇ」  その静寂を先に破ったのはヴェルトだった。 「カイラ君から聞いてるよ。夢魔に襲われた事も……その後にカイラ君に何をしてもらったのかも」 「……えぇ」  ハルキオンは本を取ろうとした手を止めた。 「ヴェルトさんと……カイラさん。には、申し訳ない事をしてしまいましたね」 「大人ならさ。もう少し考えて行動できないのかい? あんな子供に扱いてもらうなんて恥ずかしくないの」 「……ヴェルトさんだってカイラさんと付き合ってるって」 「何か言ったかい?」 「何でもありません」  ハルキオンは深い溜息を吐いた。 「確かに今思うと、私はカイラさんの為に……夢魔のぎっ、犠牲になるべき。でした」  頭を必死に回転させ言葉を探す内に、言葉遣いが素に戻ってしまう。 「本当だよ」 「でも……とても、怖かったんです。その……性行為、を。するのが。私は、私の代で、ブラッドムーン家のちっ血筋を、終わらせようと思っています」 「インキュバスとセックスしても子供はできないよ」 「わっ分かってます! ですが……あの夢魔は、恐ろしかった……魔導士である、カイラさんに助けを求めてしまった。ごっ護身用の武器もその時は持ってませんでしたし、体も動かせなくて____」  とハルキオンが何かを話し続けようとした時だった。  深い色合いの腰壁の1つが開かれ、暗澹(あんたん)たる闇の中からツルのような魔法がヴェルトとハルキオンの2人を襲ったのだ。 「ッ!」  気付いたヴェルトが咄嗟に剣の柄を握ったがもう遅い。  ツルが2人の体をぐるぐる巻きにして捕らえ、腰壁の奥へと連れ去った。    ***  腰壁の奥に広がっていたのは、異常な空間だった。  中央にダブルベッドがあり、隅にアルバムが詰められた大きな本棚がある。  壁には「X」の文字のような形の磔台があり、ベッドの隣には革張りされた奇妙な診察台のような物が置かれている。  ベッドの上の虚空に浮かんで2人を見下ろしていたのは……ゾッとするほど美しい夢魔ミキだった。  艶やかな黒髪に黒い瞳。中性的な顔を実に楽しそうに歪ませている。 「ヴェルト! ハルキオン! おっひさ~♡」  未だに魔法で縛られている2人はミキに手を出す事ができず、ただ睨み続けている。 「そんな怖い顔すんなよ。……ヴェルト! お前カイラと付き合い始めたんだってな? しかもこの屋敷まで貰えるって? おめでと~♡ これでカイラといっぱいエッチできるね♡」 「黙ってくれないかな。君の声を聞いているだけで腹が立つ」  とヴェルトは怒気の籠った声で夢魔を黙らせようとする。 「ありゃ、俺ってばそんなに嫌われてんの? ヴェルトがカイラと付き合い始めたのも、ハルキオンの不能が治ったのも、全部全部全部! 俺のおかげなんだぜ? ちったぁ感謝して欲しいね!」 「君に感謝するくらいなら道に落ちてる犬のフンにでも感謝するさ」 「まぁ~下品! やっぱ育ちが悪いからかしら! 育ちが悪いから頭も悪いんだろーなぁ? あんな子供に欲情して腰振って恥ずかしくねーの?」  とミキはまるでどこぞの奥さんのような声色でヴェルトを揶揄う。 「別に……私はその、不能のままでも良かった訳ですが」 「はぁ? 人殺しヘナチョコ童貞チンポが! カイラに扱かれてアンアン善がってただろーがよ! それにあの出来事があってから毎晩のよーに部屋でオナってるクセに!」  ハルキオンに対しては更に激しい口調で捲し立て、咳払いをする。 「まぁ、お前らのおかげでさ? 俺の可愛い可愛いカイラちゃんの蕾が花開いた訳だけどさぁ……マンネリ? というかぁ? 毎日毎日ヴェルトの精気だけだとこう……飽きるのよねぇ。お前いつまで経っても挿入ありのセックスしねーしよぉ。カイラの事とっても大切にしてるみてーだが、俺はそーゆーの求めてねーんだわ」  例えばさ。とミキは続ける。 「ハルキオン……お前の精気は実に旨かった。もう一度味わいたいなぁって……だからさ。『セックスしないと出られない部屋』ってのはどーよ?」  ミキがそう言い終わった途端に、唯一の出入り口である腰壁が閉じられ幾重にもバインドの魔法がかけられた。 「「はぁ!?」」  ヴェルトとハルキオンの両名は目を白黒させる。 「で? どっちが受け(ボトム)になる? ちなみに今回は兜合わせとかの挿入無しのセックスは認めねーから」 「そもそも僕はこんな奴とセックスするつもりないからね!?」 「わっわっわっ私も、そのあのえと、そもそも性行為自体無理というか、いえ決してヴェルトさんの事が嫌いとかそういう訳では」  この2人はとても相性が悪いように見える。ヴェルトとハルキオンではなく、カイラとハルキオンが性行為をするよう仕向けられれば良いように思えるが…… 「ギャーギャーうるせーんだよ犯罪者共がよ! ……ったく、仕方ねーなぁ。お前らがグズグズしてる間にカイラとセックスしてくるかな」 「それは駄目だ!!」 「それは駄目です!」  2人は同時に叫んだ。  ミキがヴェルトとハルキオンを選んだのは、「カイラ」という共通の人質がいるからだ。  カイラの貞操の危機をチラつかせれば、この2人をすぐに手中に収められると踏んだから。 「ならさっさと決めてさっさとヤれよ」  思い通りの展開になり、ミキはにやりと小悪魔的に笑う。 「……2度と下なんてゴメンだよ」  とヴェルトがボソッと呟いた。 「ならハルキオンがボトムって事でいいな?」 「へっ? ボトム? へっ? えっえっえっえっ?」  いまいち意味を理解していないらしいハルキオンは、目を泳がせながら声を上げ続ける。 「異論ねえみたいだな」 「へっ? いやあのそのそもそもボトムって何____」 「ハルキオンに魔法かけたから。後はそのまんま突っ込んでもらえればいーからよ。必要な物はそこのチェストの中に入ってる」  「じゃ、よろ~」と何とも軽い調子のミキが無数のコウモリとなり、虚空に消えた。

ともだちにシェアしよう!