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昔話をしよう

 今回やや重めです。地雷の人も多いかもしれないと思うので先に内容を伝えます。  父親(血の繋がりはない)からの性的な暴力を受けるシーンがあります。    *** 「カイラ君、ご飯できたよ」  キッチンから香ばしい匂いを漂わせながら、服の袖を捲っているヴェルトがカイラに呼びかけた。 「あっ、はーい!」  リビングの方で魔導書を読んでいたカイラはトテトテと駆けてダイニングへ。  既に配膳が済んでおり、テーブルには様々な食事が並べられている。  主食のパンに温野菜のサラダ。適当に切り刻まれた野菜がふんだんに入れられたスープに、ハルキオンから貰った牛肉のステーキにワインとブドウジュース。  食べ盛りなカイラの為に作られた、栄養バランスの整ったメニューだ。  2人は食卓に着き食事を始める。 「ヴェルトさん……このお肉、凄く美味しいです!」  ステーキを1切れ口にしたカイラは思わず頬に手をやった。  程よい噛みごたえと溢れる肉汁。  味付けは塩胡椒のみでしっかりと火を通す。最もシンプルな調理方法がこの肉にとってはベストだった。 「そうだねぇ。カイラ君、僕の2切れあげるよ」  と言いながら、ヴェルトはフォークで自分のステーキを2切れカイラの皿へ移した。 「いいんですか……!」  子供らしく、カイラは肉を前にして興奮し目の中に星を浮かべる。 「うん。カイラ君食べ盛りなんだからさ、たくさん食べな?」 「えへへ、ありがとうございます!」  「いいんだよ」と微笑み、ヴェルトはワインのボトルを手に取った。 「ずっと禁酒令出されてたけどワイン貰っちゃったし……もう良いよね?」 「……飲み過ぎはダメですよ」  この前の|淫乱なショー《エアセックス》を思い出したカイラはやや強い口調で返す。 「分かってる」  ヴェルトは慣れた手つきでワインの栓を開けた。    *** 「ヴェルトさん……お酒弱いんですか?」  酒に酔っているヴェルトの代わりに皿を片付け終わったカイラは、リビングのソファにいる彼の隣に腰掛けた。 「そうかもねぇ」  既に顔を赤くしているヴェルトは間延びした声で答えた後、カイラを抱き寄せ自分の足の間に座らせた。 「ヴェルトさん、今日はもうお酒飲まないでくださいね? これ以上飲むとまた記憶なくしますから」  と言いながらカイラはヴェルトの胸へ背を預け、安心したように息をホッと吐いた。 「分かったよ」  自分に身を預けてくれるカイラを愛おしく思ったヴェルトは彼の体に両手を回す。カイラは彼のしっかりとした腕に触れた。 「お酒……といえば、ヴェルトさんあれ以来お友達と会ってないんですか? ほら、僕に禁欲させてた時に会ったお友達ですよ」  途端にヴェルトの体がほんの少し強張ったのを感じ、カイラはちらりと背に目をやる。 「お互いに大人だからね。頻繁には会わないさ。でも……いつか会わなきゃなぁって」  妙な言い回しだとカイラは更に不思議がる。 「ヴェルトさんのお友達って、なんて名前なんです?」 「ガゼリオだよ。君の元先生なんでしょ?」 「そ、そうです……えっ、ヴェルトさんってガゼリオ先生のお友達なんですか!?  ヴェルトと向かい合うように座り直し、「世間って狭いなぁ」とカイラはしみじみ呟いた。 「どこで知り合ったんです? 冒険者と学校の先生って接点無いような気がするんですけど」  ヴェルトはうーんと唸ってから口を開いた。 「僕の幼馴染なんだよ。一緒に孤児院で育ってね?」 「待ってくださいヴェルトさん……孤児院?」 「あぁ……言ってなかったっけ? 僕、親いないの。……そんな悲しそうな顔しないでよカイラ君。たまたまいないってだけだからさ?」  寂しさを埋めよう自分を抱き締めてくれたカイラを愛おしく思いながら、ヴェルトは彼の頭を撫でてやる。 「でもまぁ、ガゼリオは里親が見つかって幸せだろうね。勉強させてもらって、学校の先生にまでなったんだから」 「里親……つまり、親になってくれる人が見つかったって事ですか」  胸に埋めていた顔を軽く上げて上目遣いでヴェルトに訊ねると、「そう」という軽い肯定の言葉が返ってきた。 「名前は忘れたけど……偉い魔法研究家の先生なんだって。教科書の編集もしてるってガゼリオが話してたから、もしかしたらカイラ君もお世話になったかもね?」 「そ、そんなに凄い人なんですか?」 「結構前に家の前を通りかかったけど、けっこう大きかったよ。……家に呼ばれた事はないけどね? あんな家に住める人が立派じゃない訳がない」 「あの……ヴェルトさんは? 里親は見つかったんですか?」 「僕は可愛げがないからね。引き取られずに追い出されたよ。……だからカイラ君、そんな悲しそうな顔しないでよ」  親がいない。  10年ほど前に初恋の人を亡くした。 (なんだか……ヴェルトさんの性格がちょっと暗めな理由が分かった気がする) 「ヴェルトさん。いつでも僕に甘えてくれていいんですからね?」  カイラに優しく頭を撫でられたヴェルトは鼻で笑った。 「じゃあ今甘えちゃおうかな」  「ふぇ?」と間抜けな声を上げたカイラを流麗と評するしかないほど鮮やかにソファへ押し倒す。  それと同時に貞操帯が緩むのを感じ、カイラは期待の籠った甘い声を上げて、 「待って♡ 待ってください♡」  両手でヴェルトの胸を押して止めた。 「うん?」 「あの……ソファ、汚しちゃうので……」 「じゃあベッドに行く?」  カイラが恥ずかしそうに目を逸らしながらもコクリと頷いたのを見下ろし、ヴェルトは立ち上がってひょいと彼をお姫様抱っこした。 「わっ♡ わっ♡」 「しっかり掴まってなよ?」  いつもより視線が高い事に興奮し声を上げるカイラを、ヴェルトは姫を攫う怪盗の如く2階の寝室へ連れ去った。

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