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第一章 第21話 魔女のハート-3
「親父ぃい! なにやってんだ!!!!」
「アキトっ!!!」
クロードが門番を眠らせ王の部屋に入ると俺の目の前には信じられない光景が飛び込んできた。
なんと自分の父親とアキトが抱き合って口づけを交わしているのだ。
俺とクロードはすぐに二人を引き離したのは言うまでもない。
「『なんだいったい!あんた達はせっかくの再会に水を差す気かい?』」
クロードに抱きかかえられているアキトが喚く。おかしい。アキトはこんな話し方はしない。それに声が二重に聞こえる。別の声が重なって聞こえるのだ。
「『マリア。仕方がないさ。この子たちの代に変わっているのだから』」
俺が引き離した父王が苦笑する。違う。これは俺の父親じゃねえ。それだけは直観でわかった。
「……あなた方は憑依してるのですか?」クロードが訪ねる。
「『あたしは魔女のハートさ。ほんのちょっとこの子の身体を借りただけさ。久しぶりに愛しい人に会えたんだからね』」
「アキトじゃねえってのか? こっちも親父じゃねえんだろ?」
「『すまない。少しばかりこの身体を借りている。私は君たちの先祖になるのかな?』」
俺の頭はおかしくなったのか? すぐには事態が飲み込めねえ。
「その身体はアキトなのですよ! 彼の気持ちを考えたことがあるのですか? 仮に魔女のハートを取り込むことが出来てもアキトの心はどうなりますか! その方は王でエドガーの父親なのです! アキトはきっと罪悪感を感じて苦しむでしょう!」
「『ならあんた達に手助けを頼もうじゃないか。こうしてジークに会えたからあたしの思念が消えるのも時間の問題さ。だからその前にハートを次期魔女に戻さないといけない』」
「次期魔女なんて言い方。アキトはっ!……。アキトは貴方たちの子なのです!」
「『!っ。そんな?! あの卵は孵化しなかったはずだよ。腐卵として処理されなかったのかい?』」
「腐卵しなかったのです。伝説の勇者と魔女の卵は厳重に保管されていたのです。それをブラッディ・マリーと私で研究所から持ち出し異世界で孵化させたのです」
アキトが勇者と魔女の子だっていうのか? それにクロードが孵化させたって? 異世界なのにどうやって? それに、その伝説の勇者や魔女が、俺の身内や最愛に憑りついてるって言うのか? 俺の頭では整理できねえ。ん? 待てよ。じゃあアキトって年上なのか?
「『まさか? いやそうか……だからすぐにこの体に馴染んだのか。この子が目覚めなかったのはあたしのせいさ。孵化には魔力と愛情が必要だが、あたしらは卵に何一つ与えられなかった』」
「『マリア。もういい。お前のせいじゃない。私たちのせいだ。世界を戻した後、浮かれていた私は卵殻をもらった。あとは帰国だけのはずだった。卵と共に王宮に戻り次第、王家の儀式にのっとりマリアと伴侶契約をするつもりだった。だが……』」
「『そう。何でも叶えてしまう秘宝がたやすく手に入ると今後また災いの元になるからね。秘宝を隠すためにお互いの一番大事なものを手放したのさ。でも、そのせいであたしの本体は愛を忘れちまった』
「『マリアは私に愛する心(魔女のハート)。私ジークは賢者クロウ・リーに戦闘力(力の剣)を。クロウ・リーはマリアに知識(智慧の石)を譲渡し……そして私たちは壊れた』」
「壊れた?どういうことだ?」
「『そのままさ。マリアは愛してもいない男の卵を産み、育てる事さえ拒否した。私は戦闘力をなくし帰り道に魔物に会いマリアを死なせ、自らも瀕死となった。クロウ・リーは力は持っていたが知識を失っていたので戦い方を忘れていた』」
「『クロウ・リーのおかげで私は王都まで戻り一命をとりとめた。だが彼は全身ボロボロになっていた。責任感が強いクロウ・リーは私に力の剣を返還し、一人、闇の世界へと消えて行ってしまった』」
「……なんか悲惨じゃないか……。でも待てよ。俺らがいるって事は王は……」
「『そうだ。翌年に別の伴侶候補と一緒になり卵を作った。王としての役目としては跡取りを残さないといけない。わたしはヤケになって手あたり次第に卵を産ませまくった。馬鹿だったのだ。結局生まれたのは一人だけだったが、不思議とマリアに似ていた。この城を作ったのはそいつだ』」
「『とにかくハートが融合しきれてない。このままだとアキトはハートの熱に負けてしまうだろう』」
「それはアキトがいつまでたっても魔女に覚醒しないのと関連はありますか? 」
「『あるだろうね。しかるべき時期に魔力を与えられなかった為、魔力を吸収できる身体じゃないのさ。魔力が作られても媒介がないと充分に吸収できなかったりする。……現に今もハートと融合しきれてない。
――――――つまりこの子は魔女としては欠陥品なのさ』」
「欠陥品だなんて言うな! アキトは誰よりも純粋で曲がったことが嫌いなやつなんだ!」
「『だから、そんな魔女はいないんだよ。』」
「違いますよ。いなかっただけです。きっと彼は風変わりな魔女になるのですよ」
クロードが当たり前のように言う。そうだ、俺もそう思う!
「『ふっふ、ふはははははっ! 面白いっ! そうだね。そうかもしれない。完璧すぎるモノなんてつまらない。いいね。あんたらにこの子を託してみよう! 』」
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