31 / 92

第一章 第21話 魔女のハート-2

「アキト! どこだ?!」俺達は2階の全部屋を探し回った。 「くそっ! 別の空間に飛ばされたのかも!?」 「なんだと?!」 「まさか……」  一瞬、俺とクロードの頭の中では異世界に戻ってしまったのかもと愕然とした。 「……いや。ひとつの時代に一人しかこちらからは異世界移転出来ないはず。ならばまだこの世界にいるはずだ」  クロードの言葉に幾分、冷静さを取り戻す。 「そ、そうだな」  気を取り直すもアキトが触っていたはずの壁がどうしても見つからない。それにところどころに手を加えられた後があり、魔力を流しても反応しない部分がある。不完全なのだ。まるで意図的に塗りつぶしたような感じさえする。 「くそ! なんで先代は改装なんかしたんだ!」 「せめて文字が読めれば……エドガー。王様ならココにある文字がよめるのか?」 「そうか! そうだな。可能性はある。親父に直接会いに行こう!」  王の間の前は厳重に門番の見張りが立ちはだかっていた。 「エドガーだ。父上に至急ご相談があり参上した。会わせてくれ」 「いけません。王様はご病気の為一日数時間しかお会いすることはできないのです」 「そこをなんとか入れてくれってんだよ!」 「だめといったらダメです!規則なのです。いくら皇太子だといっても無理です」 「エドガー、まかせろ」  クロードが門番に呪文を唱えると、壊れたマリオネットのようにへたり込み寝てしまった。こいつ、こんなこともできるのか? 「今のうちだ!」 「おう!」 ◇◆◇  なんだ?ココはどこだ? 煌びやかな部屋の中を進む。ぼんやりとした意識の中で、僕の足は勝手に動いている。ベットが見えてきた。 誰かの寝室なのか? 「『ジーク。ジークベルト起きているんだろう?』」  僕の唇が勝手に動く。僕の声なのにそうでないような、誰かの声が重なっているように聞こえる。 近くに寄ってわかった。ベットに横たわっているのは王だ!   僕は王の部屋まで移動したってこと? 意識はあるが身体が勝手に動く。どうしても動きを止められない。――でもこの後何をしなければいかないのかは理解できている。  つまり半分は僕の意思でもあるのだ。だけどダメだ。それはできないっ! だって相手は王だ! 「誰だ?……アキト?」王が目を覚ました。 「『アキトの身体を借りてきたよ』」 「な……? 『マリアか?! マリア・マグダレーナなんだな!』 」 「『久しぶりじゃないか。あんたはいつ覚醒したんだい?』」 「『アキトに会った時だ。自分が何者だったのかを理解した』」 「『会いたかった……』」 「『ああ。ああ。この日をどれだけ待ち望んだか』」  僕はベットの上に乗り、僕の腕が王の身体を抱いた。王は僕を愛おしいもののように抱きしめる。  胸がきゅうっとなった。自然と涙が頬を伝う。恋しい。愛しい。会いたかった。再会のくちづけを交わさなければ。僕はきっと本能でわかっていたんだ。彼とくちづけなければいけないことを。  「『愛している。あんたに会えなくて辛かった。この何十年、何百年間ずっとあんたへの想いだけが募っていた』」僕の身体の中のが言う。 「『私もだ。もう一度会ってお前と口づけを交わすことだけを願って今日までとどまってきた』」  王の中の勇者も答える。 「『あんたの、この身体は昔のジークに似てるよ。金の髪に青い瞳。……』」 「『アキトもマリアによく似ている。私の事をまっすぐに見つめる澄んだ瞳だ』」    僕が似ているだって? 僕の中の魔女は僕に由来がある人なのか?  そうだ。約束の誓いを果たそう。王の逞しい腕に抱きしめられ胸が歓喜にあふれる。熱を持った唇が僕に重ねられると自然と涙があふれる。舌を絡めあい。濡れた音だけが部屋に響く。  胸の奥が熱い。せつない気持ちがせりあがってくる。  ダメだ! 相手はエドガーの父親だ!  身体の奥が疼くように反応する。誰か止めてくれ。このままだと僕は王と……。体の中に熱い塊が暴れまくっている。どうしよう! クロード。早く僕の熱をとってくれ。  ……僕はエドガーに嫌われるだろうか?   

ともだちにシェアしよう!