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第一章 第32話 *闇を打ち砕け*-2
「エドガー戻ってたのですか?アキトは? 」
「は?。クロードとアキトは一緒じゃないのか? 」
「探さなければ!!」
「この部屋には結界を貼ってあるはずなのに連れ出されたのか?」
「エドガー。今夜は満月です。アキトの魔力が活性化する日です」
「それってヤバいじゃねえか!」
「くそっ! なんらかの闇魔法が関係してるはずです」
「今日は来賓客も多い。下手に動いたらアキトに不名誉な噂も流れるかもしれねえ」
「相手はそこを狙ったんでしょう。許せません」
「もしアキトに手を出していたら」
「八つ裂きにしてやるっ!」
「俺はそういう本性丸出しのクロードの方が好きだぜ」
「うるさいっお前の前だけだ」
「どこだ? 場内は来賓が多い。人目につかずに連れ込める場所って?」
段々とクロードからは闇のオーラが漂ってくる。
「だぁからぁ! その力を制限しろってんだ!アキトの傍にいたいんだろうが!」
「わかっている!わかっているが我慢ができぬ!」
「お前が魔物になっちまったらアキトといられねえんだぞ!」
エドガーが睨みながら小声でクロードに囁く。
「……っ! わかってますよ」
クロードは深呼吸を繰り返すと大きく息を吐いた。
「冷静になりたいのですが、手掛かりが……あれは?」
クロードの視線の先に白いふわふわした蝶が映った。
「エドガー!あの蝶を追いましょう!」
白い蝶はときおり消えそうになりながら城内の中庭を抜け庭外れの温室の中へと入って行った。
「こんな場所に温室なんてあったんだ?」
むせかえるような花の香が充満している。どこかで見たような植物もあった。
「これは以前エドガーの部屋に置かれていた催淫や麻痺作用のある植物では?」
「なるべく息をせず進もう」
クロードが風の魔法を使い体の周りに風圧の壁を作って進んでいく。
「なんだこういうの作れるんじゃねえか」
「これは吸い込まないように一時しのぎだ。相手に触れるときに魔法は切れる」
白い蝶は点滅しながら奥へと消えて行く。
「アキトが居る!」
「クロードわかるのか?!」
「あぁ。直前に自我を護る魔法をかけました。自分の魔法の痕跡くらいわかります」
「自我を? なんだそれ?」
「微量な闇魔法をずっと感じていました。表に現れないならそれは精神魔法ではないかと思って」
ある動きやきっかけで催眠状態に陥るタイプの術や幻影魔法は精神に介入する。
術者の負担も大きいがかけたられたものの負担も大きい。
目覚めるきっかけになるようにわざと耳たぶを噛み痛みを与えたのだった。
何もない壁に白い蝶が浮かんでは消える。
「隠し部屋か! ぶち壊すか?」
「いや、魔力を流そう! 一気に片を付ける!」
クロードとエドガーは壁に手をあて魔力を流した。すると目の前の壁が消え、隠し部屋が現れる。
白い蝶は手前のソファーの上に横たわるバレットの手の中に消えた。
2人が奥のベットに視線を合わせた途端、殺気が部屋中を渦巻いた。
オスマンとドリスタンは動けなくなった。少しでも動くと切り刻まれる予感がしたからだ。
「……アキトに何をしている?」
低く地を這うようなエドガーの声が聞こえる。
ドリスタンはまさに今挿入する寸前の状態で止まっていた。
「ぶ……無礼者めが!わしは王家の血を引く高貴な者であるぞ!」
ドリスタンは振り向けず、そのままの状態で声を張り上げた。
「……もう一度言う。お前はアキトに何をしている?」
黒い重苦しい殺気がドリスタンにまとわりつく。
近づくとベットの上でアキトが意識を失っていた。片頬が大きく腫れている。
「きっさまあああああ!!」
先に動いたのはクロードであった。
あっという間にドリスタンは手足を切り裂かれた姿となった。
「うっぎゃああっわしの手が!足が!」
「待て! コイツを殺すな! 余罪があるはずだ!」
エドガーが叫ぶと、チッとクロードは舌打ちをして肉片に治癒呪文を施す。
ドリスタンは元の姿になるが、クロードは再度切り刻み、治癒呪文、切り刻みを交互に気が済むまで繰り返した。
エドガーはアキトの傍に寄り、その身体を抱き起こす。
「アキトっ。おい!しっかりしろ!」
「ぁあ……。いや……嫌だ!」
「おい!俺だ!エドガーだ!!」
アキトの震えは収まらず、視線は揺れたままだった。すぐさまクロードが飛んできた。
「アキト!アキト。わたしのアキト!」
「クロ! クロなの?」
「はい。貴方のクロードです」
金色の瞳で覗き込まれてやっとアキトはホッとした表情を見せる。
「熱がありますね。私の体液を媒体としてください」
ちゅくちゅくと舌をからめクロードがアキトへ唾液を渡していく。
魔力の相性の良いクロードの体液を媒体としてアキトは自らの活性化した魔力を取り込んでいく。
「治癒をご自身にかけてください。私の治癒は形ばかりなので」
「うん。わかった」
アキトは自分の片頬に手を当て治癒を流す。あっという間に腫れが引く。
「あぁ。腫れが引きましたね。身体を清めに戻りましょうね」
「うん。気持ちが悪いんだ。吐き気がするほど……」
ぼんやりとした表情でアキトは目を閉じた。
「お部屋にもどりましょうね」
オスマンは茫然とその場に突っ立っていた。
恐ろしさと自分がしたことの罪の大きさにただただ佇んでいた。
そんなオスマンをクロードは一瞥し一言告げた。
「今は殺さない……」
その一言でオスマンは我に返り大量の冷や汗を流した。
ドリスタンは床に転がっている。クロードに治癒をかけられたがその姿はつぎはぎだらけだった。まるでフランケンシュタインのようだ。人の形ではあるが切り刻まれた感覚が残っているのか恐怖で顔がゆがみ声も出せない様子だった。
「……クロードお前、俺の分までやっちまったな。俺のこの怒りをどうするんだよ!」
「すみませんエドガー、我を忘れました。先にアキトを連れて帰ります。」
「はぁ~。いいよ。連れて帰ってくれ。ついでに途中で警備の奴らに声をかけてここに来るようにしてくれ」
「了解しました。なるべく早めにお戻りくださいね」
「あぁ。わかったよ。ここを叩き壊して燃やしてから戻る」
「それはいい案ですね」
クロードはにっこりと冷酷に笑うとその部屋を後にした。
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