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第二章 竜騎士団編 第1話旅立ち準備

ここからは2章の竜騎士団編がはじまります。  新しい生活が始まる。今日でこの王宮ともしばらくお別れだ。  ……といってもそう何年もいたわけではない。だけど、異世界に飛んできて生活の拠点として暮らしてきた場所だからやっぱり少しセンチメンタルになる。 「どうしましたアキト? 」  背後から声をかけてくるのはクロードだ。 「うん。なんとなくこの数か月の事を思い出してたんだ」  クロードの腕が僕の肩に回る。ついでに尻尾は腰に巻きついてきていてる。  彼は猫科の獣人だ。頭の上には黒い耳がついている。 「その中にわたしもいるのでしょうか?」  甘い低音が背後から僕の耳を犯す。この声に僕は弱い。 「当たり前じゃない。クロは僕の愛しい伴侶だもの」 「なあんだ~?朝っぱらから!またクロが抜け駆けしてんのかぁ?」  ニヤニヤ笑って割り込んできたのはもう1人の伴侶であるエドガーだ。この国の第3皇太子で竜騎士団の団長である。  へへっと笑いながらアキトの正面にまわり、ぎゅっとアキトを真ん中に抱え込むようにしてクロードごと抱きついてきた。 「むぎゅうっ」 「エド。アキトが苦しがってるじゃないか」  そう言いながらもクロードの口元には笑みが溢れていた。 「はいはい。わかってるって」  エドガーは腕を緩めながらチュッチュッとアキトとクロードの頬にキスをすると腕を離した。 「では、今から執務整理に行ってまいりま~す。午後には終わるから待っててくれよな」 「今のうちに竜騎士団についてのおさらいをしましょうか」 「うん。これから行くところだからしっかり予習しなくちゃね」   竜騎士団は王宮にいる近衛兵とは違い、平民、貴族が入り混じった実力重視の集団らしい。もちろん人種もさまざまで人も獣人もいる。別名荒くれ者集団とも言われる。しかし、一度事が起こった時には最前線に立ち、この国を護る最強の騎士団だ。 「竜はそこにいるの?」 「それが詳しくはよくわかりません。私自身、数回しか会ったことはありませんので」  それも飛行してるところだという。それだけ竜は人目にはつかないように行動してるらしい。 「でも、家臣の皆はこの国を制する者は竜騎士団を制す~とか言ってるじゃん?」 「それだけ力がある集団という意味ですね」  竜騎士団長に選ばれるのは伝説の勇者から代々受け継がれる力の剣の持ち主。つまり、王家の血を受け継ぐもの、要するに権力者が騎士団達を束ねてるって事だしね。  それに竜騎士団長前任者は王様だったしなあ。今はその力の剣はエドガーの元にある。  代替わりしたことによって新しい団長を受け入れる体制がまだできていない。  今回の世代交代の発令は急だったし納得できてないものもいるだろう。  エドガー自身まだ団員たちとは会っていない。今回が初めての顔合わせらしい。その中のどれだけの者が受け入れてくれるのだろうか? 「エドガーのお手並み拝見ですね」 「そうだね。でも僕も一緒に手伝うつもりだよ」 「ふむ。アキトがいるなら心強いでしょうね」 「本気で言ってる? 僕に何が出来るかわかんないのに?」 「ふふふ。私も手伝いますよ」  そうだ。三人いればどんな困難にも乗り越えられる気がする。僕って考え甘いのかな?  ちょっとだけ…… 「ん?どうしました?」  クロードの膝の上に乗りあげて抱きついてみた。 「ふふ。甘えんぼさんになってますね」 「うん。クロは僕の安定剤なんだ」  新しい場所。出会い。楽しみもあるけど不安もある。小さい時からずっと傍にいてくれるクロードのぬくもりは僕の心を穏やかにしてくれる。包み込んでくれる優しさに安心する。  おでこをくっつけるとほほ笑んで口づけてくれた。 「ふふふ」 「クロ?どうしたの?」 「いえ、またエドに抜け駆けって言われそうだなと」 「あははは。そうだね」  約束通り午後からエドガーはアキトの元に戻ってきた。 「よし!あとは着替えぐらいでいいかな?」 「いよいよだね!竜は迎えに来てくれるの?」 「へ? 来ねえよ。俺もまだ会ったことはないんだが目立つことは嫌いみたいだぜ」 「そうなのか。ちょっと残念だなぁ」 「悪いが、道中はちょっとした小旅行になるぜ」  竜騎士団が拠点としているドラゴン城は断崖絶壁の上にそそり立っているらしい。  周囲には切りだった崖や洞窟が多くある。竜の住処に適してるらしい。  人里離れた場所にあるため馬車で丸3日ほどかかる。 「アキトはそんなに竜に会いたかったのですか?」 「うん。話してみたかったんだ」 「話かぁ。実は俺はまだ竜については何も知らねえんだ」 「え?エドって竜騎士団長でしょ?」 「あぁ。ん~まあそうなんだがよ。親父が行って揉まれて来いってあんまり教えてくれなかったんだ。ひでえよなぁ」  エドガーのいう親父とは王様のことである。王は即位についてからずっと竜騎士団を束ねてきた。自身が竜に呪われ、病に倒れるまでは常に騎士団と共にあったという。竜と共にあった騎士団の団長がのろわれるなんて余程の事があったのだろう。 「ふふ。僕は、エドと一緒に居れることがうれしいよ」 ふふふとアキトは頬を染めて笑う。 「くう~可愛いぜ!クロ、ちょっと俺のほっぺたつねってくれよ。夢じゃないよな?」 「はいはい」  ぎゆううううっ!とクロードはエドガーの頬をつねった。 「いででで!!うれひい!夢じゃない!」 「あははははは」    本当はわかってるんだ。エドガーも多少は不安を感じてるってこと。でもそれを表に出すと僕が余計に不安がるからこうして明るくふるまってくれてる。クロードもそれに乗ってふざけてくれてる。二人がいてくれるから僕はこうして笑っていられるんだ。

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