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第二章 6話 喧嘩両成敗
「おい、アキト。夕飯を食べに行こうぜ」
城の内部は広かった。外から見た外観と中身が違う。ただ単に広いだけでなく空間魔法も使われていて、更に広く感じられた。他の騎士たちの宿舎や訓練場、会議室や食堂もある。
食事は三食。食堂で食べる事になっている。各々好きなものが選べるビュフェスタイルだ。
「よかった。これならクロが食べれそうなものもあるみたい」
黒猫のクロは僕の襟元から顔だけ覗かしている。首に耳があたってくすぐったい。
僕がひとつずつおかずを見せるたびにぴょこぴょこと耳が動く。
食堂につくとエドガーと僕は隣同士に座った。もくもくと食べているとチラチラとこちらを見てくるのがわかる。
「あの初めまして。アキトといいます。よろしくお願いします」
斜め前にすわってる団員に話しかけてみた。
「わっ。声も良いじゃん」
「へ?」
「俺フランク。こっちはジャン」と後ろを指差した。二人とも赤茶色の髪をしていた。
「アンタ魔女って本当かよ?」
「おい!ジャン!お前失礼だぞ!」 フランクが慌てる。
襟元から顔を出しているクロがグルルッと唸っている。
「お前、アキトが俺の伴侶とわかって言ってんのか?」
エドガーがドスのきいた声で睨む。
「なんだよ、声かけたぐらいでキレるなんて。団長さんよぉ。アンタは自分に自信がないのかい?」
「なんだとおっ!」
「おう!やんのかコラァ!」
エドガーのリーチがジャンに向かって繰り出され、それを避けたジャンが机をひっくり返してきた。ジャンはそのままエドガーに襲いかかり、止めに入ったフランクの顔を直撃した。
「てめえ!やりやがったな!」
あっという間にその場は、乱闘騒ぎになってしまった。
「え?エド!エドガーッ」
僕も加勢に入らなきゃと思ったとき、誰かに腕を引っ張られた。
「コバルトさん?」
「ダイジヨウブ。いつもの事」
「へ?そうなの?」
「そう。ケンカして仲良くなる」と少し離れた所に連れていかれると周りの皆んなも笑いながら見ている。そっか。エドガーがどう反応するか様子見してるってことか?
「はは。レッドやられた」
コバルトが楽しげに笑う。僕はギョッとして乱闘に目をやると赤毛の美丈夫が参戦していた。
「え?!レッドさんも?」
散々暴れて殴りあった後、白いコック服を着たグリズリーが、いや、熊獣人がやってきた。
「おい!机と椅子をまた壊したな?お前ら給料から天引きね。あと、皿洗い1週間だ!これは団員も団長も関係ねえぞ!わかったら片付けろ!!」
この人は料理長のルースさんでこの食堂の献立を一斉に賄ってるという。
大きな身体に似合わず、頭の上に丸い小さな耳がピクピクしていた。
「えー?俺もかぁ?しようがねえな」
腫れた顔のまま、頭をポリポリかいてエドガーが笑う。
それを見て団員達も笑いあった。
「喧嘩両成敗だからな!はっはっは!」ジャンが横で笑う。
僕はポカンとその場面を見ていた。なんと清々しいんだ。さっきまで殴りあってたのに。
じゃあ僕は僕のやれる事を始めよう。
「はい。皆さん、怪我を見せてください。まずはエドからだよ!」
僕はエドガーの腫れた顔に手を当て治癒をした。ぱっと一瞬光ると腫れがひく。
それを見ていた団員達が一斉に詰め寄ってきた。
「おっ!俺も!ここ!ここが痛えんだ!」
「はい。はい。順番ですよ」一人ひとり手をかざして次々と治療していく。
「……アキトは本当に癒しの力をもってるんだな?」
レッドの腫れた腕を治していると不思議そうに声をかけてきた。
「はい。僕嘘はつきませんよ?」
「悪い。疑ってた。ココは怪我をする奴らも多い。治癒が出来る奴は多いほうが良いんだ」
「そうなんですね?じゃあ僕の力が必要なら言ってください」
「ああ。それなら明日から診療の手伝いもしてくれないかな」
食後、診療所を訪問した。エドガーがどうしても僕が働く場所を見て置きたいと言うからだ。治癒の力は僕の魔力を元にしてるから心配らしい。
診療所の中は元の世界の病院の診察室のようだ。棚には薬品が並んでいて診察台や簡易ベットなどもある。薬棚には薬草がいっぱい詰まっていた。
「はじめまして。アキトといいます」
「ああ。ワシはダレンだ。専門は治癒と薬学だ。やっと若い奴がきたか」
ダレンさんはシルバーグレイの長髪で肩からローブを羽織ってて、壮年の魔術師?とおもんばかりの容姿だった。他にも薬師さんや治癒師さんがいて本当に人手が足りないのか皆一応に喜んでくれた。
「みゃあ」クロが襟元から顔を出してきた。
「アキトと呼んでいいかな?そいつはお前さんの使い魔かい?」
「いえ、その。本当は僕の伴侶なんです」
「なんと? その猫にはアキトからの魔力が感じるぞ」
僕はこの人なら何か解決策を教えてもらえる気がして本当の事を伝えた。
「ん~。おそらくだが、相手の魔力を最小限に抑制するようにアキトが望んだことで、元々に結ばれていた契約が発動したんじゃなかろうか?」
ハッとした。そうだ。確かにこの城に入る前に僕は強く願った。
【クロード。僕はお前を魔物にはしない。お前の魔力を僕が制御してみせるよ】と。
「では僕は強く願うと相手に呪文をかけてしまうのですか?」
「普通はそんなことにはならないが。アキトの持つ魔力量はかなり高いのかもしれないのぉ」
「クロを元の姿に治せますか?」
「契約を解けばいいだけの話だ。解いておあげなさい」
「えっとぉ。どうやって?」
「これは難儀じゃのぉ」
あぁ。本当に自分が情けない。ダレンさんが言うにはこの城には魔女の部屋がある。そこから契約解除魔法を調べるといいという。だが、その部屋はどこにあるかはわからないという。レッドさんも確かそんなことを言っていた。
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