64 / 92
第二章 9話 竜騎士
・一部ちょっとだけ事故の怪我表現があります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
診療所に運び込まれたのはがっしりとした大柄な男性だった。
琥珀色の髪が汗でぺったりと額に張り付いている。
左肩からぐちゃぐちゃに腕がつぶされていた。地割れと落石のせいだという。
村を守るために下敷きになったらしい。
「アンバー隊長は子供をっ。子供を助けようとしたんだ!」
普段なら土の性質を持つ魔力で切り抜けれるところを子供を庇って怪我をしたのだと。
「診せてください!」
僕はすぐさま傍に寄り触診をはじめた。これは塗り薬で収まるなんてもんじゃない。かろうじて、骨と皮が繋がってるだけのありさまだった。血まみれで出血もかなり多そうだ。
「ぐぅぅっ……」
アンバーが苦しそうに唸るとほんの少し目を開いた。え?この目は竜眼……?
「これはひどいのぉ。このままだと肩の筋肉も壊死してしまう」
ダレンさんが眉をひそめた。
「ダレンさん!僕に治癒魔法をかけさせてください」
「アキトっ」クロードが心配そうに声をかける。
「クロ。見守ってて」
アンバーの肩に手を置いた途端ぬるっとした感触に少し動揺する。かなりの血の量だ。ほんとに僕にできるだろうか?……。そんな僕の戸惑いがわかったのかクロードが僕の背中をやさしくさすった。その手のぬくもりに落ち着きを取り戻し、僕は一気にアンバーさんの肩から治癒を流し込んだ。
出血を止めてから腕を再生するんだ。緊張して冷や汗が流れる。力が抜けていくみたいだ。でもクロードがいてくれる。そう思うだけで続けられた。
じわじわと光がアキトからアンバーへと移っていき、最後にあたりがぱあっと光ったあとにアンバーの腕は元どうりの姿となった。
うぉおおおおおおっ!すげえええええっ!
周りに居た団員たちは雄たけびをあげた。
「っ……子供は?……村は?」
アンバーはうなされる様にうわ言を繰り返す。
「アンバーさん?今は身体を治すことに専念してください!」
「隊長!無事っす!ちゃんと助けましたよ!」
その後はアンバー隊の団員たちの治療に回った。
僕とクロードは隣同士にぴったりと身体を寄せ合って座り、治癒やけがを診た。
なるほど、初日に診療所を立ち寄った時に人手が足りないと言われたのはあながち嘘ではないようだ。
けがを診る合間に団員さん達とも話が出来た。
どうやら、漠然とした言い方だが竜騎士さん達はこの世界を守っているらしい。
ここ二日で話を聞く限りでは、僕の中では砂漠に緑を増やす緑化や災害に駆け付ける救助隊のイメージが強い。
そんな竜騎士の中でもアンバーは大きな身体の割にとても穏やかな性格らしい。
「ありがとう。まだわからない事多いからいろいろと教えてね。皆ともっと仲良くなりたいんだ」
アキトが団員達と話してるそばでいきなり高らかな声が響いた。
「なるほどなるほど!君は僕たちの事が知りたいのか?僕に興味があるんだな?」
「へ?」
見上げるとそこには白髪の青年が立っていた。紺色の団員服に腕章や飾りが沢山ってことは隊長格?髪の色が隊長の名前だとしたら……。
「ホワイト隊長??」
「そうとも!あぁっ。僕の名前はこんなにも有名なのだな?知らぬものがいないなんて。この麗しき僕の美貌がそうさせるのであろうか?」
ホワイトさんは優雅な身のこなしで胸を張り僕の前で一礼をした。確かに白い肌、青い瞳。どことなくラドゥさんに似た美しい容姿は高貴な人としか言いようがない。……ないけれど。
「そして貴方はこのむさ苦しい場所に咲いた一凛の華!我が友!我が同胞を救った勇敢な癒しのきみ!さあ、僕の手を取って!落ち着いたところで僕との将来を語り合おうじゃないか!」
「はあ?」
なんだか騒々しい展開についていけない。
「こらっ!アキトを困らせるな!バカ白!」
振り向くとレッドさんとエドガーがやってきた。診療所の中は満員だ。
「ほらほら!治療が終わったやつは出ていけ!自分の部屋で報告書をまとめて待機しとけ!」
ぞろぞろと団員が出ていく中、レッドがホワイトの前に出てきた。
「なんだレッドか。お前みたいな放蕩者が僕を差し置いてもうこの可憐な華と懇意になったのか?」
「っるさいわ!アキトはエドガー団長の伴侶殿だ」
「エドガー団長?……ユリウスの弟君か?」
「はじめまして。エドガーだ。よろしく頼む」
エドガーが片手を差し出すとホワイトが強く握りしめた。握手というには強すぎたが、エドガーはひるまずホワイトの目を見据えてにやりと不敵に笑った。
「ほぉ?……ふっふっふ!いやぁ面白い!そうかそうか。この僕に敬服するというのであるな?うむ。よかろう!しかしだな!今まで僕は次の団長はユリウスを推していたのだ!貴殿はこの僕に自分がユリウス以上の人材であると認めささなければなるまい!期待しておるぞ!はっはっはっは」
高笑いを残してホワイトは診療所を出て行った。
「相変わらずじゃのぉ」と呆けた声を出すのはダレンさんだ。
「変わった方ですね?」
「はあ、すまねえなアキト。ホワイトは悪い奴じゃあねえんだがナルシストでよ」
レッドさんが頭をぽりぽり書きながら眉を下げて謝る。
「へ……へええ」
でしょうね?そうでしょうね?それに黙っていれば凄い美青年だし!
「アキト大丈夫か?クロも様子はどうだ?」
エドガーが心配げに聞いてくる。
「ああ、アキトといれば問題ないようです」
「そうか。よかった」
「団長、アンバーの様子を見たいのですが……」
レッドが不安げに聞いてきた。
「アンバー隊長なら奥のベットで休んでいただいてます。どうぞ奥へ」
薬師さん達が奥へと二人を連れて行った。
アンバーさんにおいては大まかな怪我はその場で治したが出血が多すぎたので様子を見た方が良いと無理に起こさずいる。ちなみに意識はまだ戻ってないようだ。
「アキト。ダレンからアンバーを助けてくれたと聞いた。ありがとう」
しばらくしてレッドが頭を下げてきた。
「いえいえ!当たり前のことをしただけです!……隊長同士はとても仲が良いのですね?」
「ああ。俺らは……その、血がつながってるんだ」
「え?そうなのですか?ご兄弟ですか?」
「あ~、まあな。ちなみに隊ごとに髪の色が違うってのも関係してる」
「それは魔力別とか?でしょうか?」
「え?よくわかったな!その通りだ。赤っぽい髪のやつらが俺の遠縁で火の魔法を使う。青っぽい髪のやつらがコバルトの遠縁で水の魔法を使う。他の隊も髪の色が似てる奴はだいたいそうだ。もちろんそうでないやつもいる。ココは実力が優先されるからな。隊は属性魔法ごとに分かれているんだ」
「遠縁の方々も多くいらっしゃるんですか?」
「そうだな。多い。その中でも俺らの血族の血が濃い程髪の色が濃くて魔力も強いんだ」
「そうなのか?俺も初めて聞いたな。」
エドガーも不思議そうに耳を傾けた。
「ははは。コバルトなんぞはアキトの髪をみて自分の弟か?って勘違いしそうになってたぜ」
「え?僕の髪??」
「ああ。コバルトは濃紺だろ?アキトの髪の色が自分と似てると思ってたみたいだ。この世界でアキトの黒髪、黒い瞳は珍しいからな」
「ふむ。……なるほど」
アキトのとなりで今まで黙っていたクロードが一言唸った。
ともだちにシェアしよう!

