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第二章 10話 鍛錬

 クロードについては相変わらず僕がそばにいないと獣人に戻れない。だが魔力供給のせいか少しは落ちついたようで、自分の意志で小さくなれるようになった。つまりは黒猫の姿になれるのだ。  その魔力供給はといえば。。毎晩続いている。そう毎晩だ!  えっと。嫌じゃないんだ。嬉しいし伴侶とは愛しあいたいし、仲良くしたい。魔力が循環すると熱も出ないし、力がみなぎるから治癒力もたまるし……。  でもでも、周りの視線がツラいんだ!なんだか魔力供給のエッチした次の日って僕がエロいらしい?自分ではわからないんだが、どんどん艶が出てるらしいんだ。エドガーは部屋から出したくないとか言い出すんだ。バカバカ!そんなのまるわかりで余計に恥ずかしいだろ!  気を取り直して。今日僕はエドガーと共に朝の鍛錬に出る。  その間、クロには悪いが黒猫の姿にになってもらうことにした。  侍従のバレットが部屋で面倒を見てくれることとなっている。  せっかく鍛えるためにここに来たのにまだ一度も誰とも剣を交えてない。  それに、しばらくクロードとべったりな日が続いてたので、たまにはエドガーとも一緒に行動したかったのだ。 「緊張するよ。いつもは目覚めてすぐ診療所に向かってたからさ。」 「そっか。鍛錬場へはまだ行ってなかったな。むさ苦しいぞ」  エドガーが苦笑する。 「剣の握り方から教えてよね。握ったことないんだ」 「よし。俺が優しく丁寧に握らせてやるからな~へへ」 「なっ。なんだよソレ!言い方がいやらしいんだよ!馬鹿エド!」 「はっはっは!わりぃ!一緒に行けるのが嬉しくってさ」    冗談を言いあってたのはそこまでだった。  鍛錬場に着くと一気に空気が変わる。  カンカンッ!キインッ!ドサッ!  剣が交差する音、大勢が組み合い移動する風の流れ、掛け声。  皆、額からは汗を垂らし競いあうようにぶつかりあっていた。実践さながらの気合いのいれようだ。  普段の団員達のふざけた感じなどいっさいない。これが本来の竜騎士なんだと感じた。常に命をかけた任務に突き進むために、毎日の鍛錬には手を抜かない 「凄い。これじゃあ毎回怪我するわけだよ。」 「まあ、お前に治してもらえるってわかってるから安心して怪我が出来るんだよ」  ……なんだよそれ。ちょっと嬉しいじゃないか。僕って役に立ってるの?  ここに来て王宮に居た時って本当に何もしらなかったんだなって思う。  いや、王都の人たちも知らない人の方が多いんじゃなかろうか。  竜騎士たちはこの孤高の砦のような場所からこの世界を見ている。  各地に起こる異変や魔物の発生などをいち早く察知して対処にあたっているんだそうだ。  そしてその取りまとめを現王族がする。決して竜騎士だけにさせてるんじゃないんだ。  僕たちは知らないうちに彼らに守られていたんだ。  とりあえず訓練用の模擬剣を貸してもらう。 「うっ。重い……」 「すまねえな。ココの奴ら、図体がデカいの多くて軽い剣がないんだ。腕の筋肉がつけば少しはマシになるともうがしばらくは我慢してくれ」  エドガーの指導の元、背筋を伸ばし脇をしめて素振りをしてみる。何度か振ってるうちに、遠巻きに人が集まってきた。アキトが参加してることに気づいた団員らが覗きに来たのだ。 「おやぁ?なかなか筋がいいじゃないか」  レッドが声をかけてきた。 「そうなんだよ。俺もちょっと驚いてるんだ」とエドガーが答える。 「もぉっ!からかわないで下さいよ!!」  僕が赤くなって叫ぶと二人がガハハと笑う。 「照れてる。かわいいなぁ」 「……可憐だ」  下心がありそうな何人かが手合わせを願ってきたが、エドガーがまだ早いと却下していた。  その後は腕の筋肉を鍛える運動や走り込みをする。 「アキト。隣の魔法戦も観に行くか?」 「え?それって攻撃魔法の練習?」  見たい!僕が出来ないって言う魔法がどんなものかが知りたい! 「それなら、ちょうどアンバーがホワイトと訓練をしているぜ」  レッドが歩きながら話しかけてきた。 「へ?アンバーさんって大怪我が治ったところじゃないですか?!」 「あぁ。だから身体がなまってしまう前に動かしたいらしいぜ」  そこは四方を透明な大きなバリヤーで囲われてるような場所だった。  ホワイトが優雅に舞うとシュバババッと辺りを風が切り裂いていく。 「かまいたちだ!」 「ん?アキト、かま……?なんだそれ?」  レッドが不思議そうな顔をする。そっか、こっちの世界じゃ言わないのかな? 「素早い動きの旋風の真ん中に出来た真空がモノにあたって衝撃が起こるんだよ。身体にあたると皮膚や肉が裂かれる現象がおきる。僕がいたせか……田舎でそう呼ばれてたんです」  巨漢のアンバーが大地を蹴ると地面が隆起しホワイトの風とぶつかって魔法は無効化されていた。  その様子を見ながらもホワイトはダンスを踊るように軽やかに空中をジャンプし、今度は左右から氷のつららを投げてきた。またもアンバーが腕を下から上へあげると瞬時にそれに連動して壁が出来、つららを受け止める。  安定した動きのアンバーに俊敏に駆け回るホワイト。二人の動きは息がぴったりと合っていた。 「ホワイトは2つの魔法が使える。風と氷を操るのさ」 「そうなんだ。凄い……」 「ただのナルシストじゃねえだろ?」レッドが口の端だけで笑う。 「はい。やっぱり隊長格の方は実力が高いんですね」 「エドガー団長も剣の腕はすげえんだぜ」 「え?そうなの?今度見せてよね!」 「ああ。今度な」  エドガーは照れたように笑う。でも僕しってるんだ。エドガーが朝練始めるようになってレッドさんが団長って呼び始めたこと。腕を認めてくれたんだと思う。  練習が終わったのか、アンバーが僕を見つけて片手をあげた。透明のバリア-が消え、微笑みながらこちらに近づいてきた。 笑うと細い目が余計に糸目になる。 「いやぁ、キミがアキトくん?だよね。助けてくれてありがと。。。」 「はーはっはっ!よく来た!どうだい、僕の華麗な舞は?感激したかい?」 すかさずホワイトが駆け寄ってきてアンバーの肩に手を回す。 「はい!とっても綺麗でした! お二人の息がぴったりあっていて素敵でした」 「うむ!そうであろう!我が伴侶を助けてくれただけでなくこんなにも素直とは!どうだ?我が隊にはいらぬか?!この私が直々に訓練してやるぞ!」 「え?あの、ホワイトさんはアンバーさんの。。?」 「ああ、こいつらは伴侶同士だ」 レッドが隣で苦笑をしながらつぶやいた。  アキト達が去ったあと、アンバーは鍛錬場に残ってリハビリをしていた。 「しばらくは無茶しないでくれよ」  ホワイトが声をかけてきた。 「ああ、大丈夫だ。今日はここにいるから次の任務にいってきてくれ」 「今日の任務は昼からだ。それまでこの私が直々に手伝ってやろう」 「ははは。先程から全部お前に手伝ってもらってるじゃないか」 「コホン。当たり前だろうが。この美しくも繊細な宝石のような美貌をもつわたしの伴侶はお前ただ一人なのだから。大切にしたいと思うだろう」 「ありがとう。嬉しいよ」  巨体に似合わずアンバーが細い目をさらに細くして笑う。 「そうか!そうだろう。そうだろうとも!」  ホワイトは嬉しそうにアンバーを見た。

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