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第二章 11話 東の森

「アキト見つけた」  鍛錬場を出たところでコバルトが駆け寄ってきた。 「……行こう」 「え?なに?……」  いきなりぶわっと傍から魔力の高まりを感じると、そこには青龍に変態しようとしているコバルトがいた。 「えええ????」  コバルトの腕は伸び、僕の身体はその手に引かれてポ~ンと宙を舞い、コバルトの背に乗っかる。 「な?!こらこら!!待て待て待て!!!早まるな!」  レッドが慌てる。 「おい!確かに次の遠征にアキトを連れて行っていいといったが今日とは言ってねえ!」  目の前の青龍はもう聞こえてないとばかりにバサッと音を立てて空に舞い上がった。 「ああっちくしょう!すまねえ団長」 「追いかけねえと!……お前も竜になれるのか?」  空中で青龍が旋回するといつの間にか他にも竜がついてきていた。  見ると色の濃淡の違いはあれど青みがかった竜たちだった。  その背には見慣れた団員達が乗っている。皆アキトを見つけて驚いていた。 「アキトさ~ん、一緒に視察ですかぁ?」 「危ないっすから隊長のそこの後ろ髪、そうそうそれをしっかり握っててくださいね」 『アキト。ごめん。驚かしたみたいだね。』ぼそっとコバルトが独り言のように言う。 「なんだそうだったのか。でも先に理由を言って欲しかったな」  アキトが返事したことでコバルトが動揺したように揺れる。 『アキトはオレの言葉がわかるの?』 「うん。わかるよ。って竜の言葉なのか?僕には普通に聞こえるんだ。やっぱり僕には竜の血が流れてるのかな?」 『きっとそうだよ。オレ一番年下だったんだ。だからアキトが弟みたいで嬉しいよ!オレアキトを大事に可愛がるよ!』  コバルトの話によると隊長格の4人は実は竜人らしい。  コバルトが青龍。レッドが赤竜。ホワイトが白竜。アンバーが土竜だという。  だから移動は皆実体化して竜になって空を移動してたんだって。そうだよな。こんな断崖絶壁。普通の移動手段は使えないよな。僕は近隣の竜を呼び寄せて乗りこなしてるんだと思ってた。でも本人達が竜だったんだ。  それぞれの隊ごとに髪色の近い遠縁が多いのも竜の子孫達だからという。もちろん、それだけでなく同じ属性の魔法が使える獣人や人間もいる。だから竜になれない子は竜になれる子の背に乗って移動するんだって。  すぐにそれを僕らに教えなかったのは過去の団長の中には竜の姿に怯えて王都から動かなくなった者がいたかららしい。  だからまずはエドガーの人柄や資質を確かめてからと、慎重に吟味中だったらしい。  でもコバルトは僕の能力と水の魔法は相性がいいからすぐにでも一緒に行動がしたいって思ったみたい。 『アキト、怖くないかい?』 「うん。風が気持ちいいよ。空がこんなに青いなんて!飛ぶってすごいね。景色が走りすぎていくよ!」 『フフフ。アキトは可愛いなあ』  青空の下、青龍のうろこが陽に当たるとキラキラと輝いて綺麗だった。うろこは固いけど暖かくて生きてるんだって感じられる。本当に自分は竜の背にのっているんだ!と実感するとワクワクしてきた。  レッドは燃えるような赤い竜だった。幸い、胸のホルダーに収めてある力の剣で俺は竜語が理解できる。飛びながらだがだいたいの内容は聞いておいた。  今から行く東の森は元は魔物が多い場所だったらしい。しかし緑が減ると同時に周辺の町や村に頻繁に魔物が降りてくるようになったのだ。だが、魔物だけが悪いわけではない。住む場所がなくなったから降りてきただけとも言えるのだから。  コバルトが望むように以前のような森に戻せるなら魔物も路頭に迷うことはないのだろう。 「しかし危険すぎる!過保護だと思われるかも知らねえが俺にとってアキトはすべてなんだ。団長になって頑張ろうって思うのもアキトの為に今以上にいい男になりたいからだ。アイツに何かあったら俺は自分がどうなるかわからねえ。そんなヤツなんだよ俺って男は!どうだ?情けねえだろ?もうこんな男は団長って呼べねえかな?」  すると竜の背が小刻みに振動し足がとられそうになり踏ん張ると、自分を乗せた赤竜が笑ったのだと気づく。  くくくっと大きな体で笑ったのだ。 「なんだよ~。笑うなよ。情けねえ団長には背中を預けたくなるような隊長や団員達が必要なんだ。これからこき使うぞ」  エドガーは照れ隠しに憎まれ口をたたいた。  山を越え谷を抜け、しばらく行くと何もない大地が見えてきた。本当に何もないのだ。荒れた土ばかりで雑草すら生えてない。土の色もどす黒い。 『気をつけて。瘴気を含んでいるかもしれない』  なんだ?それは?瘴気だって?何故そんなものが??  少し行くとドロドロとした沼がでてきた。きっと身体に良くないものだよな。  隊員達は手際よく周辺の土をサンプル容器にいれたりしている。 「ここももう生き物が棲める場所じゃないのかな。以前は可愛い魔物達がいたんだよ」と1人の隊員が話しかけてきた。 「悲しいね。どうにかできないのかな?」  青龍から人型に変わったコバルトが嬉しそうに笑った。 「ありがとう。アキトならできる」  コバルトはそういうと僕の手を握ってじっと見つめてきた。  ひゃあ。案外まつ毛がながいじゃん!じゃなくて、なんかドキドしちゃうよ。 「水まく。アキト力を乗せて」 「え?力って癒しの?」  コバルトは手を繋いだまま地面に向け腕を振った。ぶわっとシャワーのように水があふれ出る。それにあわせて僕は緑豊かな大地を思い巡らせて「土よ蘇れ」と目をつぶり祈った。 「おおお!」  隊員達の声がして目を開けると水をまいたかと思われる箇所の色が徐々に明るく変わり、茶色になると緑の苔のようなものが生えてきた。 「やっぱり」  コバルトが満足げにほほ笑む。  え~っと?なにが「やっぱり」なんだ?人型になったコバルトは口数が少なすぎてわかんないや! 「ぐ……。オレはこの森スキだった。枯れて朽ちていく嫌だった。ぁ……アキトなら……その森を元に……で……出来ると……お……オレ……オレ思って」 なるほど、人型になってるときは流ちょうに話せないのか。 「そうなんだ。わかった。だったらもっと効率よくしようよ!上から降らせよう!」

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