86 / 92

第二章 28話 浄化-1

 王は寝室で眠っていた。青白い顔で生気がない。  これは逆恨みなのかもしれない。  この人は騙されたのだ。母上に。この私に。  自分の息子だと思い込まされて。第二皇太子の地位まで与えて。  そのうえでまさか反逆されるなんて思いもよらなかっただろう。  思えば長かった。少しづつ兄上を手伝うふりをして公務を奪って行った。  出来るだけ貧困層が多い地域を厳選し反乱がおこる要因を植え付けた。  民からの陳情も握りつぶした。わたしは非道になったのだ。    父だと信じていた時期もあった。私が真実を知るまでは。  父上は身分や種族、分け隔てなく接する人だった。  だが、私が青龍の命を奪ってからはよそよそしくなってしまった。  まるで腫れ物にでも触るようになってしまった。  あえてその時の記憶がないようにふるまっていたせいか痛まし気に見られる時もあった。  屈辱的だった。すべての原因は貴方にもあるのに。  野心を捨てきれてない男の傍に母上を置いた自分自身を呪え!  あの男は自分の血筋を王家に混じらせようとした。男は先王の息子という呪縛に繋がれていた。    そして私は先王の野心と切望という呪いを受け継いでしまった。  王族を破滅させ自分が王になるという闇の呪いだ。  だがそれも今日で終わる。    王の寝るベットに近づこうとしたその時。 「遅かったな」 「っ!起きてらしたのですか?」 「お前が来るのを待っていた」 「そうですか。私の手にかけられたくて待っていたのですか?」  ラドゥは皮肉気に嫌味を言ったつもりだった。  「そうだ」 「え?存じて……いたのですか?」 「何をだ?わたしに毒を飲ませていた事か?王都を破滅させようとしたことか?」 「ぐっ……全部知っていたのですね?」 「全部ではない。獣人を魔物にするとは思っていなかった」 「それは……ツッツファーレですね?!」 「そうだ。ツッツは王族の影で手足だ。知りたくないことまで教えてくれるのが玉に瑕だがな」 「知りたくない事?まさか母上やわたしのことも?」 「あぁ。そうだ。伴侶に何があったのかも知っていた。知っていて産んでくれと言ったのだ」 「何故だ!そんなむごいことを!」 「それでもかまわないと思った。できた命を壊すことなどできない」 「貴方は身勝手だ!そのせいでどれだけ私たちが苦しんだかっ!」 「すまない。ラドゥ」 「何をいまさら!今になって謝るのか!?」 「お前の好きにしてもいい。だが、これ以上犠牲者を出したくはない」 「わたしとて、こんな大ごとにはしたくなかった。それもこれももう全部終わりだ!」  ラドゥが王の首に手をかけようとする。 「兄貴っ!やめろ!早まるな!」     ふいにラドゥは後ろからエドガーに羽交い絞めにされた。 「なっ?!離せ!離すんだ!!エド?!」  いつの間にか寝室にはエドガー達が入り込んでいた。  移転ルートを通って最短距離で駆け付けたのだ。 「アキトの言った通りだったな。兄貴は親父のところに向かうはずだって」 「何故止めるのです?エドっ!わたしは父上を手をかけようとしたのですよ?!」 「してねえだろ?手をかけてねえじゃねえか!」 「はっ!離せ!来るのが早すぎます!っ」 「早いってどういう意味だ?」 「王殺しの罪ということで消してほしかったのですね?」  アキトの後ろにいたクロードが顔を出した。 「クロ?お前なんだかワイルドな顔立ちになったな?」  エドガーに言われ慌ててクロードは口元を隠す。 「そうだ!その獣のようにコーネリアスも魔物になってしまうのですよ!」 「僕の伴侶を獣呼ばわりするなんてっ。そんなに消してほしいなら消してあげる!」 「え?!アキト?よせ!」 「エド。離れて」  アキトはそのまま指先に力を集め弓を引くポーズをとった。

ともだちにシェアしよう!