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第二部 最終話 これからの未来
凜は帰るまでずっと姫抱きをしようとしたので、それは必死に阻止した。赤髪の男が少年をお姫様抱っこなんて目立ちすぎる。
ふたりで手を繋いで帰ってきて、靴を脱いだ瞬間にまた姫抱きをされた。
「わっ」
「もうここならいーでしょ?」
凜は優しく微笑んで、悠をリビングまで運ぶ。そしてソファに座って、悠を膝の上に乗せた。
「助けるの遅れてごめんね」
「……いいよ、助けに来てくれたんだから、それだけで」
正直、今も震えがおさまらない。友達だと思っていた、自分より一回り大きな男に押し倒されて、迫られて。
「震えてるのに?」
「っ……」
凜には全てお見通しらしい。弱さを晒して彼に縋ると、凜は背中をあやすように叩いてくれた。
「ご、め……」
「怖かったんでしょ。あのチワワ体格だけはデカいもんなあ」
びくともしなかった。あのまま凜が来なければ、何をされたかわからない。
「もうだいじょうーぶ。ね?」
「うん……」
「でもさ、ほんとによかったの? 学校のコース? 変えるって」
「考えてはいたんだ。踏ん切りがつかなくて……けど、いつまでも父さんのための夢に頑張り続けるのも、疲れたから」
「いーんじゃない? 学校やめるわけじゃないんでしょ?」
「うん、調理師の資格取れるコースにする」
調理師コースでは一般的な料理の基礎から教えてくれる。そこでなら、悠がやりたいことに近いものを学べるはずだ。
「もっと料理の腕磨いて、凜にうまいって言ってもらえるように頑張る。それでいつか……」
「いつか?」
「小さくてもいいから、自分の店を持てたらいいなって、思ってる」
「いいね、どんな店にするの?」
「まだ何も考えられてないけど……食った人がほっとするような、どこにでもあるけど、うまい料理を出したいと思ってる」
「最高、おれ常連になっていい?」
「なってくれるのか?」
「すぐにおれ以外の常連もできるだろうけど、一番最初はおれじゃなきゃだめだからね」
凜は頬や目尻、耳や鼻先にいくつも口づけを落としてくれる。
「学校通って、修行して……金貯めてってなるから、きっとすごい時間はかかるけど、それでもいいなら」
「えー、おれ援助していいでしょ?」
「お客さんとの癒着になっちゃうから、駄目だろ」
「じゃオーナーになる。ユウちゃんの店、早く通いたいもん」
凜の手が優しく頬を撫でる。悠の夢を応援してくれる、誰よりも強くて格好いいヒーローは、悠をそっと包み込んでくれた。
「店持っても、ユウちゃんのメシのファン一号はおれだからね?」
「わかってる。俺だって、誰よりも凜にうまいって言って欲しいと思ってるよ」
刻まれた恐怖を拭うように、彼に触れて未来を語る。
「腹減ってないか? おやつ作るから」
「おやつ? なぁに?」
「ホットケーキミックスあるから、ホットケーキでどうかな?」
「やったっ!」
子どものように喜ぶ凜に、悠はそっと口づけを落とした。
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