1 / 9
#1
待ち合わせ時刻は20時。今の時間は20時15分。
本当に時間にルーズで腹が立つ。
昨日の夜、急に電話をかけてきて
『20時に駅の東口な!』
そう言うだけ言って、こっちに有無を言わさずガチャ切りしたくせに。
なんでそのお前が遅れてんだよ。
「あれ、夏芽 早くねぇ?」
脳天気な顔して登場しやがって。
いつも緩いTシャツに緩いズボンで適当なの丸わかり。
「てめーがおせぇんだろうがよ」
曲がりなりにも恋人に対する口の利き方ではないと自分でも理解はしてる。
ただそれは高校の同級生のこいつ、須藤 夏希 は自分と負けず劣らず口が悪い。
「おー、こわ。生理?当たり屋?」
「うるせぇ。」
あはは、と適当にかわしてどこに行くかも、何をするかも言わずに勝手に歩いていく。
歩いている間に自分の腹がなっていらいらしてた気持ちがどこかへ行く。
結局のところ俺もこいつと同じ脳天気で、すぐいらつくけどすぐ機嫌がなおる。
なぁ、と声をかけると夏希が振り向く。
振り返ってこっちを見る目は、ぱっちりとした二重で、眼球は黒くきらきらと街の明かりを反射して光る。
可愛い顔。そんなところがまた腹立つわ。
「なんだよ。」
「夏希ん家行きたい。」
えぇ、と困った声を出したあと「まぁいいけど…」と許しが出る。
「じゃあもうコンビニでいーや。早く行こ。」
足早にコンビニへ向かって、酒とつまみを適当にかごにいれる。
夏希はしっかり弁当買ってたけど、弁当食った後にヤッて大丈夫なのかね。
なんて本当は全然心配してないけど。だって心配したってどうせヤるんだし。
なんならその為に家行くんだし。
***
「まてまてまてまて、じゃんけん!」
飯食ってごろごろしてたらそういう雰囲気になったのに、またこいつは。
「はいはい、じゃーんけん…あ。」
仕方なくじゃんけんしたら負け。
嬉しそうな夏希が可愛くていったんは文句も言わず受け入れることにする。
「やった、俺の勝ち!今日俺がタチする番ね!」
「いーよー。んで?何してくれんの?」
んー、と考えながらとりあえず俺の服を捲ってみて、胸を責めてくるけど残念ながら胸は性感帯じゃない。
「ばか、へたくそ。こうやってやんだよ。」
「は、ちょ、やめ…!」
夏希の頭を押さえて無理やり胸を舐めさせようとして、その強引さに夏希の下半身が反応する。
少し強引にしただけで反応しておいてなにがタチだよ。ドMのくせに。
こいつの嫌がる顔とか反抗的な顔とか、感じて泣きそうな顔とかがどうにも好きなようで、そういう顔を見るとゾクゾクと気持ちが昂ぶる。
当たり前だけど優しくしたくないわけじゃない。
付き合ってんだし、好きだけど。
「お前ほんとSだよね…俺ノーマルだから
お前みたいに押し付けたりできねーよ…」
「は?お前ドMじゃん。」
ぐい、と少し痛いくらいに夏希の股を触る。
しっかり反応しといてノーマルなんて笑わせるわ。
「…あ、…んっ…」
「な?お前責めんの無理だって。
今とかちょっと触っただけだぞ。」
ぽやんとした目でこっちを見てきて、これでどう攻めるのか逆に聞いてみたい。
どっちがタチネコ決めるかで毎回じゃんけんしたがるくせに、毎回ネコになってんの自分で気付いてねぇのかな。
高校のときに彼女がいたのも知ってるけど、こいつほんとに経験あんのかなって思うくらいには責めるのが下手。
本人によると「ギリギリ童貞ではないレベル」だそうで。
「夏希、舌出して。」
「ん…」
舌絡めるだけでこんな声でちゃうくせに。
普段くそ生意気なだけにこういうギャップがほんと頭にくる。
もう付き合って2年経つのに、こいつは底なし沼みたいに俺をはめて逃がしてくれない。
それが嫌なわけじゃないけど。
「もう挿れていい…?」
「責めんじゃなかったの?
したいなら自分で乗って動けば?」
下手なのに頑張って動くとこが見たい。
夏希は単純だからこうやって少し煽るだけでノッてくるのを分かってて嫌な言い方をする。
「なっ、うぅ…お前絶対動くなよ!
あと寝ろ!横になれよ!」
「なに騎乗位?やったー。
なぁ動かねぇから早くして。萎えそう。」
なんてこんな可愛い夏希みて萎える訳ないんだけど。
俺の上に跨った状態のままゆっくり腰を落としていく。
「は、ぁ…っ、ん、」
小さく動いて息を漏らしてるけど、夏希は本当に気持ちいいんだろうか。
少なくとも俺はそこまで良くない。
上に乗る夏希の腰をつかんで動かすとバランスを崩したのか、狙ってやってんのか分からないけどもたれかかってきた。
「や、動くなって…っ、言っ…あっ、あ、やぁっ」
「何?続きは?喘いじゃって言えねぇの?」
俺の肩をつかんで気持ちよくなってる夏希を持ち上げて座ると、恥ずかしいのか肩に顔を埋めたまま見せてくれない。
「なぁ顔見せて。」
「うるせ、わっ、おま…あっ、も…っ
動くの、待ってってぇ…っ」
反抗的な態度にむかついて動くと声を出して、その勢いのまま肩を噛まれた。
「うっわ、お前噛むなよ!
ほんとに萎えたらどーすんだよ。」
「はー?そんなんで萎えるようなしょぼいモンしかついてないんですかぁ?」
「はぁ?腹立つなぁ。
お前が俺の事煽ったんだからな。責任取れよ」
「責任ってなに、な…っ」
体勢を変えて夏希を下に組み敷く形になる。
下から見るのも嫌いじゃないけど、やっぱり上から見下ろす方が好き。
その方が隠そうとする手を制しやすいし、何をするんでも正常位のほうがやりやすい。
「顔隠すなって。」
夏希の手を掴んだままキスをして動くと、結局また喘ぎ始める。
ほんとなんだかんだ可愛いやつ。
「も、お前なん…、んっ、ぅん…っ」
「は?なに?言えよ、なんだよ。」
やっぱりMなんじゃん。
強い言葉で言ったらその分だけ締めるくせに。
気付いてないんだろうけど。
「夏芽待っ、て…っ、イく…っ」
俺より先にイッて、少し遅れて自分も出す。
ヤッてる最中でもやりとりは可愛くないのに終わったあとにキスをほしがる顔は、はじめてしたときからずっと変わらず可愛いまま。
「あ、お前中出しすんなよ。
ちゃんとゴムあったろ!もー!明日も仕事なのにー」
「えー、やだ店長、お漏らしですかぁ?」
声を高くしてそう言うと「うるせぇ」と胸に軽く一発。
さっきまであんなに涙目で喘いでたくせに。
抜いたらあっという間にいつも通り。
まぁ別にいいけど。
時間は23時を回りそうで、帰る準備をすると履いてたジーンズを引っ張られる。
「なぁ帰んの?泊まってきゃいいじゃん。」
「なに、寂しいの?」
別に、と言いながらつかんだ手を離そうとしない。
素直じゃないやつ。
「素直に言ったらいいことあるかもよ?」
「…ガキじゃねーんだぞ。別に平気だよ。
ほら帰れ帰れ。」
手をぱっと離して、半ば追い出されつつ夏希の家を出て外を歩く。
ああいうときの夏希はあとで絶対連絡してくる。
多分じゃなくて、絶対。
近くの公園で時間を潰していると思った通り携帯が鳴る。
着信相手は想像通りの相手。
「なんすかー?」
『もう家着いちゃった?』
声色だけでわかるくらいしょぼくれてる。ほんと馬鹿なやつ。
ベンチから立ち上がって夏希の家へ戻りながら「まだ途中だけど」と嘘をつくと口ごもる。
「なに、なんか言いたいことあんじゃねぇの?」
夏希のアパートの前。部屋はすぐそこ。
『…やっぱり泊まってもらえばよかった……
お前がいないと寝れない…』
答えを出すまでドアの前で待っていて、やっと出した答えに満足する。
「そ、じゃ一緒寝るか」
夏希の 寝落ち? と聞く声と同時にチャイムを押す。
電話越しにも、もう片方の耳越しにも聞こえる音。
「なぁ早く開けてくれますー?」
電話が切られてすぐドアが開けられて、全部開くのを待たずに引っ張ると夏希がバランスを崩して転がってくる。
「おま、あっぶねぇな!」
「うるせぇな、近所迷惑だろ。
おら早くいれろ。風呂入って寝る。」
夏希がうるさい。
寂しかったならそう言えばいいのに。
まぁそういう素直じゃないとこが好きなんだけど。
ともだちにシェアしよう!

