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第28話
「え、ちょ、……稜っ?」
いいよと言ったものの、それから何度も口付けてくる稜に、真澄は戸惑った。追ってくる唇を避けて彼を見ると、目が据わっていてドキリとする。
その彼が、額を合わせてきた。
「真澄……もう一回。……だめ?」
「もう一回……って」
さすがに一度達したら、真澄は満足してしまった。恥ずかしくて顔を外すと、そこに見えたものに、ますます恥ずかしくなる。
稜の怒張が、また張り詰めていたからだ。
「同じ男だからかな。真澄の手、すごく気持ち良かった」
そりゃあ、どこをどう触れば良いのか、同性なら分かりやすいだろう。こんな時でもストレートに言う稜に、真澄は顔から火が出そうだった。
「は、恥ずかしいよそういうの……」
「どうして? 俺も真澄を気持ちよくしたいし、伝えるのは大事だと思うけど?」
それは確かにそうだ。けれど、伝え慣れている稜とは違い、真澄は自分のことを言うのもやっと。真澄が慣れるまで時間がかかるだろう。
「……気持ちよかった?」
そう言って、頬を擦り寄せてくる稜。こういう仕草も真澄は恥ずかしいと感じるけれど、稜はそうじゃないのかな、なんてうっすら思う。
かあ、と顔が熱くなるのを感じた。
「そ、そりゃあ……気持ちよくなきゃ……」
「……そっか」
よかった、と笑い混じりの甘い声で稜は言う。そしてそのまま太ももの内側を撫でられ、真澄は身体を震わせた。
「あ、あの、やっぱりするの……?」
「だめか? 俺一人でしてもいいけど、それじゃ味気ないだろ」
「ひ、一人で……」
思わずオウム返しすると、稜は苦笑した。真澄は一人でしないのと聞かれ、目が泳ぐ。
「あまり、……その、する暇がないというか……」
「……だろうな」
そう言っている間にも、稜の切っ先はどんどん頭をもたげてきていた。話をしているだけなのにどうして、とドギマギしていると「悪いけど」と稜は言う。
「真澄、脚貸して」
「え、……ええ?」
彼の発言にまさかと思い、真澄は身体を引いた。けれど稜は真澄の太ももを撫で続けていて、さらに、柔らかさを確かめるように摘んだ。
「真澄の太もも、挟んだら気持ちよさそう」
「……う」
やっぱり、と真澄は顔が熱くなる。もう一回横になって、と言う稜。真澄も彼が満足するなら、と横になった。
今更ながら、明かりがついているので何もかもハッキリ見えてしまうのが恥ずかしい。稜は本当に、脂肪が無さそうな身体をしているなとか、真っ直ぐ勃ち上がったアソコは自分のより少し長めだなとか思って、目のやり場に困ってしまう。
そして何より、真澄の膝に手を添え身体を寄せてくる稜が、完全に欲情を隠しきれていない顔をしていた。真澄は耐えられなくなり局部と顔を両手で隠す。
(こ、この体勢……ほんとに、してるみたいじゃないか……!)
「あ、やべ……」
切っ先が真澄の太ももに付いた時、稜が声を上げる。どうしたの、と真澄は指の間から彼を見ると、稜は苦笑した。
「このままじゃやりにくい……ローション取ってくる」
「えっ?」
そう言って稜は素っ裸のままソファーを降り、いつものように壁や柱に指先を滑らせて二階へ上がって行った。半身を起こした真澄は、呆然とその行く末を眺めてしまう。
いま稜がやりにくいと言ったのは、恐らく滑りが悪いからだろう。ローションを取りに行くと言ったが、彼はローションを普段から使うのだろうか。……持っていた事が驚きだ。しかも裸で取りに行くとか。
「……っ、ふふっ」
真澄は思わず噴き出す。欲求や興味は普通にあると以前言っていたけれど、もしかして稜は好きな方なのでは、なんて思う。二十代男子なら、これが普通なのかもしれない。
戻って来た稜はソファーまで来ると、真澄が座っていることに気付いたようだ。手を出して、と言われて右手を動かすと、その手を取られた。そこから座面を片手で探り座ると、彼は再び真澄に横になってと言う。
「……もしかして、今までもこうやって?」
慣れた手つきで準備をする稜に、真澄はストレートに聞いてしまう。すると彼は苦笑して「まぁ」と曖昧な返事をした。
「デリケートな部分を触るのはやっぱり怖くて。でも、相手も慣れてないから、どうしたらいいか分かんなくてさ」
なるほど、と思う。相手も未経験なら、それは仕方がないことだろう。
「それで素股……」
「う、……真澄がそれ系の単語を恥ずかしがらずに言うの何なの?」
手を繋ぐのは恥ずかしがるのに、と言われ、真澄も自分の矛盾に笑った。
「何だろうね? 浮気や下ネタの耐性はあるけど、こう……純粋なお付き合いって僕の周りにはあまりなくて」
「……そういうこと」
納得したらしい稜は、手に顔を近付けながらローションを取っている。それを両手で温める仕草も、慣れているようで違和感がない。
真澄は思わず呟く。
「……やっぱり慣れてる」
「……ここまでは、ね」
そう言って、稜は真澄の太ももの内側にローションを付けてくる。そして稜の切っ先にも付け、真澄の脚にそれを挟んだ。
「あー……あったかい……」
はあ、と甘く息を吐いた稜。そのまま動き出すのかと思いきや、彼はローションで濡れた手で、真澄の性器に触れる。
「……っ、ちょ……っ」
びく、と腰が震えた。そのまま彼は手についたローションを真澄に塗りつけるように動かす。達して敏感になっている身体は大袈裟にビクつき、あっという間にそこは再び力を取り戻してしまった。
「……気持ちいい?」
「……っ、僕はもういいって……!」
笑いながら聞いてくる稜に、真澄は思わず下半身に手を伸ばす。すると稜は片腕で真澄の脚を抱えて、もう片方の手で真澄の屹立を握った。彼は腰の動きと手の動きを連動させ、真澄はその快感にソファーを掴んで耐える。
「あっ、あっ、……ダメっ」
太ももに当たる稜の腰と、その間を行き来する稜の熱が生々しい。真澄は声を上げると、稜は目を細めた。
「真澄の声、ホントかわいい……。ゾクゾクする」
「……っ」
上擦った吐息混じりの声に、真澄は堪らず片腕で顔を隠す。隠しても稜からは元々見えないのに、感じている顔を見られるのが耐えられなかった。
揺さぶられる身体で、今している行為をまざまざと思い知らされる。恥ずかしくて、でも気持ちよくて、真澄は全身を震わせた。
「うぅ……嫌だ……やだぁ……っ」
涙声になった自分も恥ずかしい。嫌だと言っているのに、稜は嬉しそうに笑うだけだ。本当に、この人は自分の心を見透かしている。そしてそう思った瞬間、あまりにも早すぎる絶頂の予感に、真澄は今度こそ泣いた。
「稜……っ、もういいっ、……触んなくていいからぁ!」
「……っ、はは……真澄、もういきそう?」
なぜだろう、稜の前では自分は泣いてばかりだ。でも、それをかわいいと言って笑う稜に、自分は救われている。もがき苦しんでいたところから引き上げてくれた彼を、大好きだと思うのだ。
「う、うぅーっ!」
「……っ!」
太ももの内側に力が入り、身体が硬直する。耐えられず精を放つが、稜は気付かないのか擦り続けてきた。
「ああっ! いや! ……もういったから……!」
これ以上の刺激は強すぎる。手を伸ばして稜の手を掴むと、彼は動きを止めた。真澄は小さく唸りながら射精の快感に耐えていると、ごめん分からなくて、と息を切らした稜は眉を下げた。
「う……っ」
すると真澄はなぜか、涙が止まらなくなってしまう。ひっくひっくとしゃくり上げるほど泣いてしまい、自分でも戸惑った。
「ああ真澄っ、ごめん、やりすぎたっ」
稜は慌てた様子で、抱えていた真澄の脚を放して顔を寄せてきた。その様子にさらに胸が熱くなって、余計に涙が止まらない。
「稜〜」
自分でも泣きたくないのに、稜を困らせていると思ったらまた泣ける悪循環。止まらない、と稜に抱きつくと、彼はよしよしと頭を撫でてくれた。密着した肌が心地よくて安心し、それにすら涙が溢れる。
「……感じすぎちゃったか」
いきなり色んなことしすぎたな、と稜は額を合わせてきた。情けないにもほどがあるのに、稜は真澄を咎めない。それが嬉しい。
子供のように泣いても、彼は真澄が、こんなふうに泣けない環境だったと知っているから。
「……もうこの辺にしとくか?」
「ん……」
でもそれだと、稜は満足しないだろう。そう思って「でも……」と真澄は言うと、稜は笑って唇を啄んでくる。
「いいって。機会はいつでもあるし」
な? と額を合わせてくる稜の声と目は、とてつもなく柔らかい。真澄は稜を両腕で引き寄せると、胸を合わせて体重をかけてきた稜は笑った。
「甘えん坊だな、真澄は」
それでも稜は真澄を否定しない。だから真澄は、彼には思い切り甘えたいと思った。ぎゅう、と腕に力を込めると、稜は「いいよ、思い切り泣きな」と言ってくれる。
好き。と真澄は震えた声で言うと、稜は優しく頭を撫で、その手と同じくらい優しく、唇を重ねてくれた。
[完]
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