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鬼の記憶2
大江駅で、駅を出ると公園があり、そこには大きな鬼の像があった。他にも鬼瓦、モザイク画などがあり、さすが鬼がいると言われているところだと感じた。
「鬼まんじゅうとか鬼そばとか、帰りに寄りたいな。お土産に良さそう」
「そうだな。帰りに寄ろうか」
京都駅に戻ってしまえば、京都市内のお土産になってしまって面白くないけれど、鬼に関するものなら大江に来たのだとすぐにわかるだろう。
公園を見た後は、まっすぐ旅館へと行く。今日は朝早く起きて、天橋立に寄ってからここに来たので、さすがに疲れてきている。
「お、見えてきた。あそこだ」
小さい旅館だと思ってきたけれど、思った以上に小さい旅館だった。大江には元伊勢があるのに観光客は少ないのだろうか。いや、多かったらさすがに無人駅ということはないだろうと真夏は頭を振った。
「とりあえずチェックインしよう。疲れた」
「そうだな。すいませーん」
どうも食堂もやっているようなので、旅館側の入り口には人がいなかった。
兼親の声に宿の人がやってきた。人懐っこい笑顔の中年の女性だった。
「予約してある並木ですけど」
「ようこそお越し下さいました。こちらにご記入いただけますか」
宿泊帳に兼親が記入する。真夏は蝉の鳴き声を聞きながら、この元伊勢旅行のことを考える。この旅行で夢に関する何かがわかるだろうか、と楽しみなような、でも少し怖さもあった。
”何か”を思い出したとしたら、自分は自分でいられるんだろうかと怖いのだ。
真夏がそんなことを考えているとチェックイン手続きは終わったらしく、旅館の人の後について部屋に案内して貰う。部屋は一番奥だった。
「お食事は18時に食堂にてお召し上がりいただきます。それでは、それまでごゆっくりおくつろぎください」
宿の人がいなくなると、真夏も兼親もすぐに畳の上に足を伸ばして座った。
「今日はそれなりに歩いたな。でも、元伊勢を回るのも、大江山に入るにももっと大変だろうな」
「うん。車があればいいんだけどな」
「でもタクシーもあるんだし、元伊勢を巡るのにタクシー使ってもいいんじゃない?」
「内宮と天岩戸神社はさほど距離なさそうだけど外宮が少しはずれるから、それ考えるとタクシーっていうのはありだよな」
2人で明日の予定について話し、タクシー移動にすることにした。
「これで迷子にならないぞ」
「そうだな」
「でもさ、元伊勢に行こうなんて渋いよな。旅行って言ったら夏は海もあるし、温泉とかもっと王道があるのに」
からかうような口調の兼親に真夏は少しだけ笑った。
「いいんじゃない。勉強熱心で」
「まぁな。でも、元伊勢が大江っていうのは何かあるのかな。元伊勢ってキーワードは何かひっかかる?」
「ううん。それに、その頃って別に伊勢参りってなかったじゃん」
「そうなんだよな。今でこそ有名なのにな」
「うん。きっと偶然だよ」
「そっか、そうだな」
窓の外に広がる景色は、どこか懐かしい。
見覚えがあるはずがないのに、初めて来たとは思えない。遠い昔、自分はここを歩いたことがあるのではないか。そんな間隔が胸の奥に広がる。
兼親はそれ以上何も言わず、窓の外に視線をやっていた。
責めないし、笑わない。ただ、そばにいてくれる。それがありがたかった。
夢のことを話しても馬鹿にしないし笑わない。そんな幼馴染みが真夏にはありがたかった。
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