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第24話
とはいえ、洋も白川もお付き合い自体が初めてだ。何をすれば良いのだろう、と洋は考える。
(男女のデートなら? 遊びに行くとか? おうちデートとか?)
なんせ大学でも、可能な限り一緒にいるのだ、話し合う機会はいくらでもある。……あるけれど。
「なあ、洋と白川、喧嘩してからちょっと仲良くなったよな」
「えっ?」
洋たちが付き合いだしたことを知らない哲也が、無邪気にそんなことを言ってきた。
白川と話し合った結果、やはり彼は性指向をカミングアウトすることは躊躇われる、と言ったので黙っておくことにしたのだ。もちろん、事情を知っている直樹にだけは、このことは伝えてある。
(だから今までと、何も変わらない。会うのも今のところ大学だけだし)
お互いバイトや用事があって、大学以外で会う時間は限られる。そこで、やはり口実をつけて二人で会うには、デートがいいと思って考えていたのだ。
「そうだな。雨降って地固まるってやつ?」
洋は笑う。けれど、表に見せているほど、洋の心の中は穏やかではなかった。
付き合えば何かが変わると思っていたのに、白川の態度の変化はほとんどない。正直、落胆しているのだ。
(わかってる。俺が勝手に期待してただけだし……)
これが男女の付き合いでも同じなのだろうか、と洋は思う。もし洋が女性とお付き合いして、相手が付き合っていることを公にしたくない、と言ったら、洋は理解を示すつもりだけれど。
(でも、男女なら隠す必要ないって思うよな。……あれ? そもそも男同士でも一緒じゃないのか?)
洋自身、白川に惹かれていった経緯は極自然だった。今までの恋と同じように、「この人といたい」といつの間にか思うようになっていたのだ。ただ今までと違うのは、明らかに今回の恋のほうが、烈しい感情に苛まれた。
「……」
洋はスマホを取り出すと、隣にいる白川にメッセージを送信する。
【今度、デートしたい】
着信に気付いた白川がスマホを見た。わかりやすく息をのんだ彼は、慌ただしくスマホをタップする。
【四人じゃだめ?】
【なんだそれ。デートじゃないじゃん】
目の前にいるのに、スマホのメッセージで繰り広げられる会話。本当は直接話したいけれど、哲也の前では憚られる。
【四人ならいつもと同じじゃん。なんの変わり映えもない】
そう打ち込んで送信しながら、洋はなるほどなと納得した。せっかく両想いになれたというのに、白川は相変わらずだ。想いを募らせた女の子も、こんな感じでヤキモキしたのかな、と思う。それなら彼に対して、強く出るのも理解できるし、でも、だからといって、自分も同じようにしてはいけないよな、と自制する。
(あと一ヶ月もすれば夏休み。でも、それまで待つのも嫌だ)
「……なぁ、蛍見にいかね?」
「唐突に何?」
洋の提案に直樹がつっこんでくる。洋は笑って、蛍の見ごろがもう始まっていることを説明した。
「いや、だからってなんで蛍? 男だけで?」
哲也までもが変な顔をしている。洋は頷いた。
「そう、この四人で。ばあちゃんの実家辺りが有名な観賞スポットでさ、よく連れてってもらってたんだよ」
「確かに綺麗ではあるだろうけど……」
渋る哲也に洋はさらに説得する。ロマンチックな雰囲気にはもちろんなるけれど、それ以上に綺麗で感動するから見て欲しい、と。
「……現地までどうやって行くの?」
直樹が助け舟を出してくれた。車で行くのが必須なので、誰か車を借りられないかと洋は話す。
「俺、免許は取ったけどペーパーだから」
「それでよく提案したよね。……いいよ、俺が実家の車借りるし運転する」
「サンキュー直樹!」
やはりこういう時に頼りになるのは直樹だ。楽しみだな、と言いながら、洋はスマホで白川にメッセージを打ち込む。
【これでいいか?】
【なんかごめん……】
白川が嫌だと言うのなら、自分の意見を無理やり通すわけにもいかない。それならいっそ四人で行って、強制的に良い雰囲気になれるスポットへ行けばいいのだ。
(まだまだあるぞ、花火大会、プラネタリウム、映画館……!)
全部薄暗い場所になるけれど、明るい場所ではいい雰囲気になると、途端に白川が照れるのが目に見えている。とりあえず、薄暗いところで目を逸らさず洋を見てくれたなら、大きな進歩になるだろう。
「どういうつもり? 男だけで蛍見に行くとか……」
その日の帰り際、やはり何かを察したらしい直樹が、洋と二人になった時に聞いてきた。洋は眉を下げると事情を説明する。
「ああ、なるほどね」
すんなり納得した直樹は、なぜかスマホを取り出した。どうしたんだろうと思っていると、画面を見せられる。
「実はカラオケ行った日、その前からかなり動揺してたみたいだったから」
そこにあったのは白川と直樹の、メッセージでのやり取りだ。白川が洋と二人で遊びに行くことになったと説明している。
【ど、どどどどどうしよう! ふたりでとかむり! なおきたすけて!】
自分とのメッセージではこんな長文にならないぞ、と洋は苦笑した。漢字への変換すら忘れているようで、彼の動揺っぷりが垣間見える。
そのあと直樹は白川を宥めているけれど、最終的には哲也も呼んでみる、と折れていた。
「カミングアウトしたのも、好きな人と話したのも、ましてやつるむようになったのも、初めてだって」
なるほど、と洋は眉を下げた。ほかにも白川は直樹とやりとりをしているようだが、大抵は洋のことらしい。
「でもさー、やっぱ付き合ってんだからさー、二人で遊びたいよ」
洋は口を尖らせてそう呟くと、直樹は「そうだよね」と同意してくれる。でも、と彼は続けた。
「洋は白川を意識した時、その気持ちをすんなり受け入れられたんだ?」
それを聞いて洋はドキリとする。思い返せば確かに驚いたものの、白川のことばかり考えていることに抵抗はなかった。好きだという気持ちは止められなかったし、その気持ちに男女差はない。むしろ白川ほど意識したことはなかったくらいだ。
「女の子はかわいいと思う。けど、友達以上にはどうしても思えない。でも同性相手ならその気持ちは軽く越えられるって言ってた。……自分が同性愛者だって気付いてかなり動揺したって」
白川の性格ならそう考えるだろう、と洋は思う。自分ではなく直樹にそんな相談をしていたことに嫉妬するけれど、こうでもしなきゃ白川のことを知ることができないから彼には感謝だ。
「そう聞いてね、俺も考えてみたんだ。恋愛対象は男かもしれないって。……やっぱりよくわからなかったけど」
なるほどね、と洋は頷く。洋も哲也も恋愛がしたいタイプだから、そう考える二人が不思議だけれど楽しそうだ、と直樹は言った。
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