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第32話
ふっと短く息を吐くと、恵士が唇に吸い付いてくる。同時に彼の指が先端を掠め、小さく声を上げてしまった。
「気持ちいい?」
「ん……っ」
恵士は洋の怒張を慰めながら、間近で顔を眺めて軽いキスをしてくる。すぐに下から濡れた音がし始めて、滑りが良くなり腰が震えた。
「あ、……は……っ」
ゾクゾクが止まらない。人に触れられるのは思い通りにいかずもどかしいのに、容易く絶頂へと駆け上がっていく。
(やばい、何これ……)
自分でやるより気持ちがいい。身体が勝手にビクビク震えると、恵士は触れ方を変えてきた。
「あっ、……それ……っ」
一体どうして彼はこんな手の動きをするのか。自分が初めてじゃないのかと心の中で叫ぶ。
「うわ、洋……かわいい……」
「んぅ……っ」
上擦った声がしたかと思ったら、胸を再び吸われて背中が浮いた。同時に頭の中が白くなる感覚が襲ってきて、洋は恵士にしがみつく。
気持ちよくてゾクゾクが止まらない。足が意味もなくもぞもぞと動き、迫ってくる射精感に喘いだ。
「け、けーじ……、いきそ……」
「うん」
水っぽい音のリズムが少し早くなった。胸から唇を離した恵士は、洋の唇を啄み、舐めてくる。
――こんな、エロいことをする人だとは思わなかった。だって普段はこんなこととは無縁な、人畜無害な顔と性格をしているのに。
次第に洋の思考は霞んでいく。浅く早く出る吐息を飲み込むようにキスをされ、苦しくて声を上げた。
「んっ、んんーっ」
同時に熱が弾ける。勢いよく飛び出たそれは洋の胸を汚し、唇が解放された時には、心臓の音がうるさいほど鳴っていた。
「あー……洋かわいい……」
「ん、ちょ……苦しい……」
射精したあとの独特のだるさに襲われて、洋はもうぐったりだ。しかし恵士は洋の顔を間近で見つめながら、頭を撫でてキスをしてくる。
「ってか、拭かないと……。うぇ、シャツに付いた」
まだ頬や口周りを啄んでくる恵士を制止し、洋は起き上がった。汚れたシャツと胸を拭いていると、恵士の視線を感じてそちらを見る。彼はやはり洋を見ていて、その表情は何か言いたげだ。それに、明らかにうずうずしている。
「えと……、足りないとか言う?」
多分そうだろうな、と思いながら洋は聞くと、恵士は照れながらも素直に頷いた。見れば恵士の足の間のモノは硬さを保ったままだし、洋はまだ「抱かれて」はいないからだ。
「ダメなら次の機会にする、けど……」
案の定引いた恵士に洋はハッとした。せっかくきちんと話し合って始めたことなのに、空気を読ませてしまってはダメだと、反射的に彼の腕を掴む。
「……いい。ちょっと、怖いけど……」
男同士でするセックスは、どこを使うのかは知っている。恵士のいきり立ったモノがそこに入るかなんてわからないけれど、丁寧にすれば受け入れられるものらしい。
すると恵士は洋に抱きついてきた。「ありがとう」という声が震えていたので、洋は彼の背中を撫でる。
(うん。恵士が嬉しいなら俺も嬉しい)
無理だったらちゃんと言ってね、という恵士に身を委ね、洋は彼の足の上に座った。シャツの中に手が滑り込んできて肩を竦めると、そのまま脱がされる。
「……かわいい」
小さく呟いた恵士の声が、欲情を含んだものでぞくりとした。かわいいという形容詞が自分に合っているかはさておき、熱を孕んだ声で言われるのは悪くない。
後ろに回った恵士の手を、受け入れるように少し尻を浮かせる。丸みはないのにそこを丁寧に撫でられ、洋はそのくすぐったさに少し身動ぎした。
「本当に、いい?」
「ん……」
それなら、ちょっと滑りが良くなるやつないかな、と恵士は辺りを見回す。洋は少し躊躇いつつ、ベッド下に手を伸ばしてローションを取り出した。
「……なんでこんなもの持ってるの?」
「……」
洋は顔を逸らす。一人プレイをする時に時々使うなんて言えず、良いから、と小さな声で呟いた。
「あ、じゃあコンドームは……?」
「……使う機会なかったからないよ、んなもん……」
そう言って、洋は顔が熱くなっていくのを自覚する。自家発電しかしたことがないため、他人にここまで触られるのも初めてなのだ、いたたまれないから早くしろ、と洋は恵士に抱きついた。
「……うわ……かわいー……」
「言うなよ、恥ずかしい……」
ごめん、と謝る恵士の口調は軽い。恵士が早速ローションの容器を開けそれを手に取る様子を、洋は音だけで感じ、これからくる未知の感覚に備えて息を吐き出した。
触るね、という恵士ひと声があり、宣言通り後ろに指が当たる。しばらくそこを撫でていたから、もう先に進むのは諦めたのかな、と洋が思ったその時だった。
「……っ」
優しいけれど、それなりの力で指が入ってきた。洋はすぐに異物感に呻き、恵士の肩口に額を押し付ける。
「大丈夫? 痛くない?」
中に入った指が動き、反射的に指を押し出そうと筋肉が動いた。力を抜いてと言われ、洋は息を吐き出しながら恵士の指を受け入れる。痛みは恵士が上手いのかまったくなく、それだけが救いだ、と洋は深く呼吸をした。
(こんなので気持ちよくなれるのか? ……でも、恵士が良いならいっか)
元々そこは繋がるための器官ではない。自分の快感は恵士のためなら諦められる、そう洋は思って、彼が中に入った時のことを想像した。
やっぱり苦しいのだろうか? 恵士はどんな顔をして自分を穿つのだろう? そう思っていたら、後ろが少し熱を持って疼き始める。
(あ、あれ……?)
そういえば深呼吸を忘れていた、と大きく息を吐く。それが自分でもわかるほど熱く湿った呼気になっていて慌てた。
「……洋?」
先程から、洋は恵士の肩に顎を乗せるような体勢なので顔は見えていない。けれど自分の名前を呼んだ恵士の声が、上擦っているのに気付きぞくりとした。
なんだろう? 熱くなってきたと思った後ろがどんどん疼く。次第にそれは明確な身体の反応となって、訳がわからず洋は腕に力を込めた。
「ん? 洋、痛い?」
「い、いたく、ない……」
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