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第31話
「お前と、……その、……き、キス以上のこととか、してみたい……」
言ってしまった、と洋は思う。冷房がきいた部屋なのに汗がじわりと滲み出て、ドキドキしながら恵士の返事を待った。
「……俺が、不安なのは……」
すると彼はポツリポツリと話をしてくれる。
自分はもちろんゲイだから洋に欲情するけれど、洋はそうじゃないから、洋が勃たなかったらどうしようと思っていたこと。経験がないから下手かもしれないこと。そして、洋を抱きたいと思っているけど、自分がそっちで洋は怒らないか、ということだった。
やはりと言うべきか、あの強い瞳は洋に欲情していた目だったとわかり、洋は顔がカッと熱くなる。
「じゃあ、……試してみる……?」
自分でも、声が掠れてしまったのは自覚した。洋だって、自分が恵士相手に勃つのかはわからない。けれどキスができるなら……その先もできるのでは、とも思うのだ。
けれど恵士は躊躇ったようだ。眉を下げる彼に洋は微笑むと、身体をピタリと合わせて隣に座り、彼の手を握った。
「好きだからこそ……触れたい、触れられたいっていうのは自然だと思う」
俺は、恵士の髪に触れたいって思ったのが、意識したきっかけだったよ、と微笑むと、恵士の顔が近付いた。
「……」
ちゅ、と遠慮がちなリップ音がする。一呼吸おいてもう一度キスをし、またさらに一呼吸おいて三度唇が重なる。
はあ、と恵士は息を吐いた。それがこちらにもわかるほど震えていて、洋まで緊張してしまう。
「やばい……」
そう言って、恵士は身動ぎした。どうした? という視線を向けると、彼は気まずそうに視線を逸らす。その仕草に嫌な予感を覚えた洋は、恵士の手を握る手に力を込めた。
「何? やっぱ無理とか?」
「……」
そう尋ねてみるけれど、恵士は黙ったまま視線を泳がせるだけだ。洋は彼の頬を両手で挟み、自分のほうへ向けた。
「……っ」
すると、恵士の顔がみるみるうちに赤く、熱くなっていく。そして彼が消え入りそうな声でごめんと謝るので、なんでだ、と洋は笑った。
「こっ、これ以上、くっついてたら……っ、暴走、しそうで……っ」
慌てる恵士に洋は微笑んだ。大事に扱おうとしてくれている、それだけで嬉しい。洋は恵士の唇を食むと、そこを合わせながら囁いた。
「……うん。恵士にならいいよ」
「あ、あ、煽らないでよ……っ」
「煽ってない。……本当に」
洋はくぐもった声を上げる。心臓が大きく動いていて爆発しそうだけれど、柔らかい唇で吸われているだけなのに、ふわふわと意識が微睡んでいく。
ドキドキするのに心地いい。そんな不思議な感覚に陥ったのは初めてだ。
すると、恵士の手が洋の太ももを撫でる。男だからもっと直截的な場所に触れられるかと思いきや、その手は迷ったようにそこを撫でていた。
「……いいよ……」
吐息のような声が出て、恥ずかしいと思いつつ自ら恵士の手をそこに持っていく。まだ柔らかいそこをズボンの上から撫でられ、生まれて初めて他人に触れられた感触にぞくりとした。
軽くキスを繰り返しながら、洋も恵士の下半身に手を伸ばす。鼠径部を撫でると恵士は肩を震わせたが、洋は躊躇わずその手を中心に持っていった。
「あ……」
「……すげぇ……」
やはりと言うべきか恵士のそこはすでに熱く、これ以上ないくらい硬い。指で形をなぞるように撫でると、彼から甘い吐息が出てきた。
「ぁ、……っ洋、だめだよ……」
もぞ、と切なげに身体を捩らせた恵士。余裕がなさそうな声に気分を良くした洋は、初めて他人のプライベートな部分に触れたことなど、どうでもよくなっていた。
「どうして?」
洋が触れる度に苦しそうな顔をする恵士に、ドキドキが止まらない。もっといじめてみたらどうなるのだろう? そんな気持ちが湧いて出てくる。
「すぐ、いっちゃいそう、だから……」
「……ふーん?」
洋はそう言って恵士の下着の中に手を忍ばせた。中は熱く、すぐに目的のモノを握ると、恵士は小さく悲鳴を上げる。
正直、男の身体に触るのに、それほど抵抗がなかった自分に驚いていた。自分にも同じようなモノがあるわけだし、扱いも大体わかる。それよりも、恵士の顔がどう変化するのか、そちらのほうが気になってしまった。
「ここ、こうしたらいい?」
「えっ、あっ、……っ、だからっ、だめだって……っ」
「どうして? 気持ちよくない?」
膝を閉じようとする恵士をやんわり制し、ズボンからそれを取り出す。彼は洋の肩辺りのシャツを握り、その手を小刻みに震わせていた。
ゆるゆるとそこを扱くと、先端からトロトロと先走りが溢れてくる。はあ、と熱っぽい息を吐いた恵士は、洋の耳を甘噛みしてきた。
「……っ」
「……ごめ、……もう……っ」
え、と思った瞬間、洋の手が白濁で汚される。体温より少し温かい体液に、洋の心臓は大きく脈打った。
(恵士が、いった……俺の手で……)
あまりにも早い絶頂に、からかうどころか全身が熱くなる。自分に欲情するという恵士の言葉が、今更ながら自分事として実感したのだ。
「ご、ごめ……、ティッシュ……」
「あ、ああ……うん……」
恵士が慌てて洋の手をティッシュで拭う。綺麗に拭き取ったあとすぐに、彼の唇が洋の唇を啄んだ。
「……っ」
「次は洋の番……」
唇が熱いと思ったのは一瞬で、すぐに舌が入ってきて慌てる。こんなキスは恵士とはもちろん誰ともしたことがなく、口内をねっとりと撫でられる感触にゾワゾワとドキドキが激しくなった。
(え? ってか、恵士も初めてなんだよな? なんだこれ……っ)
恵士の舌が深く入る度、自分が甘い吐息を出していることに気付いて顔が熱くなる。酸欠なのか感じているのかわからず身体の力が抜け、そのまま床に倒れ込んでしまった。
「は……、けー、じ……」
「……ヤバいかわいい」
「ん……っ」
頭がフワフワして思考が定まらない。部屋に響く音は明らかにキスの音なのに、それをどこか遠くで聞いている自分がいる。
「……気持ちいい?」
「……わか、んな……」
「じゃあ、色々触るね……? 嫌だったら教えて?」
まったく、出会った頃のオドオドした恵士はどこに行ったのか。洋はそう思いながらも上に重なってきた恋人の肩に腕を回した。
恵士の大きな手が、シャツの中に入ってくる。遠慮がちに肌の上を滑り、胸の上で止まった。そこからまた腹まで撫でて、ゆっくりまた胸まで戻ってくる。
「洋の肌……気持ちいい……」
「そう、か?」
「うん。それに、俺相手でも大丈夫そうで良かった」
恵士がそう言ったのは、洋の下半身を見たからだろう。すでにそこはパンツを持ち上げるほど、形が変化している。
「俺相手って……そもそもダメなら、付き合ったりしない」
「そうなの?」
洋は頷いた。好きだと自覚する前も、恵士を「そういう」目で見たことがあるのだ。サラサラの髪だったり、浮き出た喉仏や鎖骨だったり……どうしてそこに視線がいくのか、当時はわからなかったけれど。
「触りたいって思ってたから……。それは欲情に近い感情じゃないのか?」
「洋……」
付き合ってくれてありがとう、と恵士は耳元で囁いた。同時に胸にあった手が敏感なところを掠め、洋は肩を震わせる。
自分で慰めるときに触ることはあるけれど、他人に触られるのは初めてだ。やはり自分で触るのとは違う感覚に、洋は腕に力を込める。
「あ……」
首筋に熱いものが触れた。軽く吸われては移動し、その、くすぐったさに少し快感が混ざった感覚がなんとも言えなくて、刺激を受けるたび洋は身を捩りそうになる。
「……舐めていい?」
「ん……」
洋は恵士を見ると、彼は先程も見たあの強い目をして、洋の身体を見ていた。普段の穏やかな恵士からは、かけ離れた雄臭い表情に、洋はゾクゾクしてしまう。
恵士は洋のシャツを捲った。見えた胸の粒に唇を寄せて、感嘆したような声を上げる。
「……ああ、色薄くてかわい……」
「……っ、おま、……どーせ貧弱ですよっ」
「……かわいいって言ってるのに」
恵士がそう呟いた瞬間、熱い唇に胸の先を包まれて身体がビクついた。腰から何かが這い上がるような感覚に息を詰め、洋は口を手で塞ぐ。
そこを舐められるのは人生初だ。なのに不思議なのは、身体は初めての刺激を快感として受け取り、洋の思考を再び霞ませていく。
「こっちも触るね?」
「……っ、ん!」
宣言通り股間を撫でられ、洋は思わず声を上げてしまった。そのまま服の上から優しく扱かれ、頭がくらくらする。
「プール行かなくて良かった。こんな洋の胸見たら、触りたくなっちゃう……」
ふう、と恵士は息を吐いた。そこは理性でなんとかしろよと思ったけれど、洋の口から出てくるのは熱く湿った吐息だけだ。
すると、暑いと言って恵士はシャツを脱ぐ。洋も脱ごうね、とパンツを下着ごと脱がされ、思わず手で局部を隠した。
「……恥ずかしい……」
「じゃあ俺も脱ぐよ。これならおあいこでしょ?」
そう言って、躊躇うことなく全裸になった恵士は、再び洋の上に覆いかぶさってくる。どうしてこういう時だけ積極的なんだよ、と思うけれど、見えた恵士の足の間のモノが、また硬さを保っていて狼狽えた。
「お、おま……キャラ違うだろ……」
「そう? ……ごめん、洋がかわいくて……」
そこは謝るところなのか? と言おうと思ったら、手をどかされ大事な部分を握られる。温かい手に包まれて息を詰め、そのままゆるゆると扱かれると腰が震えて恵士の肩を掴んだ。
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