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エピローグ⑥

 水族館を出ると、あたりはすっかり夜の気配に包まれていた。昼間の喧噪が嘘のように、風の音と帰路につく人々の足音が二人を取り巻いている。  駅まで向かうまでの間、長谷は横を歩く矢田の横顔をそっと盗み見る。 「……恵介くん。今日、楽しかったね」 「ですね。俺、今日のことずっと覚えてます」  矢田は長谷と歩幅を合わせ、周りに気づかれないようひっそりと袖口が触れ合う距離まで寄ってくる。  その温もりが胸に沁みた長谷は、小さく笑った。 「また行こうね。今度はもっと、遠くまで」 「……はい。絶対、行きましょう」  互いの顔を見合わせることはせず、ただ並んで歩く。歩道に落ちる二人分の影が、ひとつに重なっていた。  駅の中にある店で簡単に着替えを購入して、矢田の家へと向かう路線に乗り込む。 「別に俺の服着てもよかったんですよ?」 「毎回お世話になるわけにはいかないよ」 「ふうん。俺の家の匂いに包まれてる部長、正直グッと来てたのになあ」 「なっ……!?」 「あはは、冗談じゃないですからね?これ」  にんまりと口角を上げる矢田を見て、長谷は耳まで赤くなるのを誤魔化すように咳払いをした。  駅前の店でテイクアウトをしてから、この短期間で何度も通った道程を歩き矢田のマンションへと向かう。  エレベーターの中で、長谷がぽつりと漏らした。 「今度は、僕の家にも来てくれるかい」 「いいですけど、どうして」 「いや……僕ばかりお世話になってるのは、恋人としてちょっと思うところがあるというか……その、とにかく。恵介くんをもてなしたいんだ、僕も」 「えっ……」 「すまない、重かったかな」 「まさか!本当に可愛くて、今すぐに抱きたくなっちゃいました」  あけすけに語る矢田を見て、長谷の目が大きく見開かれる。どこまでも読めない恋人に振り回されるのも、悪くないと感じていた。  夕飯をさっと済ませ、一緒に湯船へと浸かる。身を寄せ合っていると、湯とは違う温度に心を溶かされる。 「はあ……こんなに幸せでいいんですかね、俺」  そう呟いた矢田の唇を、長谷は口づけで塞ぐ。その感触に浸っていた矢田の目尻に、湯の水滴とは違う光が輝いた。  髪を乾かすのもそこそこに、二人はベッドへなだれ込む。横向きになって向かい合うと、互いの頬に手を這わせた。 「譲さん。本当に、愛してます」 「恵介くん……僕も、愛してるよ」  誓うように口づけた二人を、月光が優しく照らす。  まるで天が祝福しているような気持ちになりながら、二人はそっと唇を重ねるのだった。

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