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番外編 パティシエと獣人のこと3
花火を背中に俺たちは王城内に戻った。行き先はメリの部屋で、俺も望んで付いていった。
王城に隣接する宿舎で寝泊まりしている俺だが、獣人の部屋に入ったのはこれが初めてだ。思ったとおり家具どころか小物まで大きい。調理器具や食器類が大きめなのも人より体が大きい獣人用だからだろう。寝室に入るとさらに驚いた。ベッドがやたらとでかいからだ。どれだけ寝相が悪くても、この大きさなら床に落ちたりしないだろう。
「お風呂入る?」
背後からそう尋ねられて「当然だろ」と答えた。
「そういやおまえ、どっちがいいんだよ」
「どっちって?」
「突っ込むほうか突っ込まれるほうか」
「シロウったら直球だね。そうだなぁ……願わくば、抱くほうがいいかな」
「わかった」
「もしかして準備してくれるってこと?」
「じゃなきゃできないだろ」
酩酊していたような頭が段々はっきりしてきた。それでも部屋を出て行こうとは思わなかった。
「奥の扉の先が浴室だよ」と言われ、頷いてから扉を開けた。中にはいわゆる洗い場と湯船があり、湯船にはたっぷりの湯が張ってある。俺は向こうの王城で見聞きした情報を総動員して準備をした。
厨房が職場の俺だが、王城にいれば否が応でもそういう話は耳に入ってくる。とくに王子様の何人かは男の恋人がいたからか、そういう知識も噂話もあふれかえっていた。おかげで男同士でのやり方なんて知識も得てしまったが、「いまとなっちゃよかったってことか」なんて思いながら尻を洗浄しながら中をほぐした。
風呂から出ると入れ替わるようにメリが入った。「すぐ出るからベッドでくつろいでて」と言われたが、これから何をするかわかっていてくつろげるはずがない。椅子に座って花火の音を遠くに聞きながら部屋を見回していると、言葉どおりすぐにメリが出てきた。そして何も言わずに俺をベッドに促し、優しく押し倒した。
「ちょっと聞いておきたいんだけど」
「なんだよ」
いまさらできないとでも言うつもりだろうか。腰にタオルを巻いただけの俺はどこからどう見ても男だ。しかも二十八歳で若くもなければ細身でもない。パティシエっていうのは案外力が必要な仕事で筋肉だってそこそこついている。体毛は薄いほうだが下だってしっかり生えている。
(後ろで動いてるの、尻尾だよな)
揺れているのは緊張しているからか、それとも後悔しているからだろうか。獣人の尻尾を見るのは初めてだった。子どもは違うみたいだが、ある程度成長すると尻尾を服の下に仕舞うのが獣人らしい。同僚の尻尾も見たことはないし、もちろんメリのも初めて見る。
(耳と同じ茶色なんだな)
しかし耳よりフサフサしていた。毛が長いのかモコモコした感じはなくスラッと長い印象だ。「尻尾まで上品なのかよ」と思ったところで、着物の合わせ目からヌッと出ている存在に気がついた。
(……マジか)
見間違うことが絶対にないメリの性器だ。形は人と似ているが存在感が圧倒的に違っている。濃い肌色とは違い色は少し薄いものの、先端は朱色で太く長く逞しかった。思わず絶句していると「シロウって経験ある?」とメリが口にした。
「え? なに?」
息子のほうに気を取られていたせいで聞き逃してしまった。慌てて視線を上げると、珍しくメリが真面目な顔をしている。
「こういうこと、したことあるのか一応聞いておこうかなと思って」
「人に聞く前に自分はどうなんだよ」
「そりゃあまぁ……俺も一応王族だし?」
「そりゃそうか。王様の従弟ってことは許嫁とかいそうだもんな」
「いないよ。恋人は……まぁ、いたことはあるけど」
「いないほうが変だろ」
「俺のことはいいから、シロウは?」
「女は経験ある。男はどっちもない」
「そうなんだ」
メリがホッとしたような、それでいて残念そうな顔をした。もしかして童貞だと思っていたんだろうか。
「言っとくが、俺は抱くのうまいぜ?」
「いまそういうこと言うかなー」
眉尻を下げながら苦笑するメリにニヤッと笑いかけ、髪の毛ごと首に両手を回し引き寄せた。
「気持ちよくなかったら結婚はお預けだ」
俺の言葉にピクッと反応した耳に、思わず笑ってしまった。
メリの指はパティシエの俺よりずっと器用だった。風呂でほぐし足りなかった尻の奥を丹念にほぐし、潤滑液を塗り込めるのもうまいと思う。本当に尻で気持ちよくなれるのか半信半疑だったが、少しずつ気持ちがいいような気までしてきた。
丁寧な前戯のおかげで体が段々熱くなってきた。メリからは甘い蜂蜜の香りがひっきりなしに漂い、それがなぜか鼻を通り抜けると酒のような匂いに変わる。おかげで呑んでもいないのに再び酔ったような感じになっていた。
(いや、いっそそのくらいのほうがいいか)
これならあの馬鹿でかいものを突っ込まれても平気そうだと思ったところでメリが尻から指を抜いた。「ついにか」と覚悟を決めたところで「うわ」と妙な声が聞こえてくる。
「……なんだよ」
みっともなく開いた股の奥を見ながらメリが「うわ」とまた口にした。ますます眉間に皺を寄せる俺に気づいたメリが「違う違う」と慌てて弁解し始める。
「想像してたよりずっとエロくて、どうしようって思っただけだから」
「なんだそれ」
「だってシロウのここ……ほら、指で触るだけでパクパクさせて……うわ、やらしい」
撫でるように尻孔に触れられた俺は、敏感になっていたからか「んっ」とみっともない声を出してしまった。慌てて右手の甲で口を押さえたが、しっかり聞き取ったらしいメリが満面の笑みで俺を見下ろしている。
「シロウって、もしかしなくても敏感?」
「知らねぇよ」
「そうかそうか、敏感かー。それは楽しみだなぁ」
メリの背後で茶色の尻尾がパタパタと揺れている。
「初めては優しくしようって思ってたけど、俺も余裕なくなってきた」
「余裕とか、笑わせる」
「まーた、そんな煽るようなこと言って」
「だって、余裕ないくらい俺のこと好きなんだろ?」
そう言った途端に蜂蜜酒のような甘くて強い匂いがした。強い酒を一気にあおった後のように頭がグラグラし始める。
「シロウってば、俺のことそんなに煽ってどうするの? 大変になるのはシロウのほうだよ?」
「ばぁか、俺を舐めんなよ」
仰向けの俺を見下ろすようにメリが体を起こした。開いた股の奥にビンビンに勃ったメリの性器が見える。ニヤッと笑った俺は片足でゆっくりとそれに触れた。ビクッと大袈裟に体を震わせる様子に笑いながら、先走りでぬめっている性器を足の指でかわいがるように撫で擦る。
「こんなにして、全然余裕ねぇじゃねぇか」
「……っ、シロウ、駄目だって」
「我慢なんてしてんじゃねぇよ。おまえの気持ち、そんなもんじゃねぇだろ?」
もっと本気で俺を欲しがればいい。生まれたときに両親に捨てられ、孤児院で孤独に育ち、大人になっても煙たがられた俺を欲しいと言ったのはおまえくらいだ。師匠からの愛情は感じていたが、俺がほしかったのはそういうものじゃない。
「おまえが本気で愛してくれるってんなら、俺も愛してやるよ」
「言ったね? 男に二言はないよね?」
「ねぇよ」
緑色の目がギラッと光ったように見えた。
「俺がどれだけシロウのこと想ってるか、体で示してあげる。一晩で孕むくらい、体の奥の奥まで愛してあげる」
男の色気たっぷりに笑ったメリは、ペロッと唇を舌で舐めると俺の太ももをグイッと持ち上げた。
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