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番外編 パティシエと獣人のこと4

 前戯で十分ほぐれていた俺の尻孔は、メリの無茶な侵入にも問題なく応えた。入り口をこじ開けたかと思えばそのまま一気にズンと入り込み、何度も中を擦り上げる。そうやって中に入ってきてどのくらい経っただろうか。トンと突き上げられ息が止まった。そんな俺に「シロウ、声出して」と言いながらメリがまたトンと奥を叩く。 「んな、の……っ」  出した声は掠れていていつもより高い。こんなのは俺の声じゃない。抱かれる側なんだと突きつけられるような声にはどうしても抵抗があった。 「シロウってば強情だなぁ。……ねぇ、シロウ」 「んっ」 「ほら……もうこんなところまで入ってるよ」  メリの指がへそのすぐ下あたりを思わせぶりに撫でた。その瞬間、下腹部がビクビクと震え「んぁ!」と声が漏れた。 「ははっ、すごいね。中が、もっと子種がほしいって言ってるみたいだ」 「んぅ、んっ、んんっ!」 「ほら、きゅうって俺のに絡みついてくる」 「んあ!」 「シロウの体はシロウよりずっと素直だね。ほら、抜こうとしたら嫌だっていうように絡みついて……んっ、奥にいこうとすれば、呑み込むように動いて……はっ、やばい、もってかれそう」  恍惚としたメリの声に腰が震えた。ゾクゾクとしたものが尻から腰、背中を振るわせ、それがみっともない声へと変わる。 「言葉に、すんなって、言って、っ! んっ、んぁっ、ぁぁあああっ」 「奥、気持ちいいでしょ? っと、ははっ、ちょっと出ちゃった。これで何度目だろう。シロウの中、もう俺でいっぱいだね。ほら……ちょっと動かすだけですっごいグチョグチョだよ」 「おく、もう、それ以上、無理、入らない、って、ぁ、ぁ、ぁあっ!」 「大丈夫だから、ほら……っ」  信じられないほど深い場所を硬くて熱いものに貫かれ背中が反り返った。ベッドから浮き上がった俺を押し潰すようにしながら、メリがさらに奥へと腰を進める。 「ひ、ひぅっ! んぁっ!」  目の前がチカチカし始めた。太ももがガクガク震えている。尻孔の感覚はないのに腹の中は妙にはっきりしていて、メリのとんでもないものが中を擦るのも奥を突くのも嫌というほど感じた。それを俺の体がうれしそうに受け入れているのもわかった。 「もう少しで……ほら、入った。あぁ、やばい、すっごい、気持ちいい……。ふは、シロウ、いっちゃった? お腹、すごいビクビクして、うわ、やば、俺も、我慢できない……っ」 「ひっ、ぃや、も、奥は、むり、おく、だめ、ぁあ! ぁ、あ、あぁ、あんっ、んっ、ひ、ひう、ぅあ、ぁ、ぁあああ……っ!」 「ね、奥、いっぱい感じて? やば、またたくさん、出そ……っ。ぅあ……やばい、気持ちよくて、止まんない、かも」  これでもかと突き上げられ、思い切り射精された。すでに何度も出されているからか、尻孔からコプコプとあふれ出ている。 (どんだけ……だよ)  メリが何歳かは聞いていない。獣人王は三十代らしいからそれよりは年下なんだろう。もしかして俺より若いんだろうか。 (それなら、こんだけ出るのも納得がいく)  しかし、まさか俺なんかでこんなに興奮するとは……思わず笑った俺だったが、その後もうつ伏せで奥を抉られ、抱き合うように座りながら突き上げられ、最後はベッドに仰向けの状態で押し潰されるように抱かれた。  翌朝、顔に当たる朝日で目が覚めた俺は、昨夜の醜態を思い出しなんとも言えない気分になっていた。「今日は遅番で助かった」と思いながら体を動かそうとして失敗し、「マジか」と右手で目元を覆いながらため息をつく。 「あ、起きた?」 「……おまえ、元気だな」  どうやら風呂に入っていたらしい。しっとり濡れた髪や耳が朝日に眩しく輝いている。 「そりゃあ抱くほうだからね。受け入れる側のほうが体力奪われるし、体動かないでしょ」 「……抱き潰しやがって」 「煽ったのはシロウだよ?」  そんなことを言いながら俺を覗き込むメリはご機嫌らしく、湿った耳がピクピクと動いている。 「だからって、初めてのやつにここまでするか?」 「そりゃあ、ちょっと加減できなかったとは思ってるけど……あ、じゃあ次はシロウが抱く側になってみる?」 「はぁ?」 「だから、今度はシロウが俺を抱いてみるかって聞いたの」 「……獣人の夫婦ってそういう感じなのか?」 「どうだろう? そういうつがいもいるとは思うけど。それに元々両方してみて決めてもいいかなと思ってたからね」  そういえばそんなことを言っていたなと思い出した。 「どこをどう突っ込んでいいかわからなくなってきた」 「俺はシロウが抱きたいっていうなら喜んで受け入れるよ。そのくらいシロウのことが好きだってこと」 「……はいはい」  受け流すように答えたものの、妙に顔が熱い。 「それで、気持ちよかった?」 「んなこと聞いてんじゃねぇよ。気配りのねぇやつだな」 「だって気持ちよかったら結婚してくれるって言ったの、シロウでしょ」 「気持ちよくなかったら結婚しねぇって言ったんだ」 「一緒だよ」  無言になる俺にメリが「ねぇ、どうだった?」とさらに覗き込むように尋ねてきた。目元を覆っていた手の隙間からちろっと視線を向けると、メリの背後で茶色の尻尾がブンブンと大きく揺れているのが見える。 (まるで待てをしてるワンコじゃねぇか)  しかも血統書付きの超大型犬だ。そう思うと無性におかしくなってきた。 「予想してたよりは気持ちよかった」 「じゃあ……」  メリの顔がパァッと明るくなった。期待に満ちた顔に思わず笑ってしまいそうになる。 「考えとく」 「えぇー。そこは了承するところでしょ」 「たった一回しかしてねぇのに決められるか」 「だってシロウ、めちゃくちゃイッてたでしょ。最後なんて中だけでイッてたの気づいてるからね? それってすごく気持ちよかったってことでしょ?」 「まぐれかもしれねぇだろ」 「そんなことないから! 俺、絶対にうまいから! これからも大事に大事にシロウのこと気持ちよくするから!」 「そりゃどうも」 「もー、シロウって意地悪だよね。ま、そんなシロウも好きだけどさ」  メリがギュッと抱きついてきた。それを抱きしめ返しながら「あぁ、幸せだな」なんて柄にもないことを思う。 (でも、王子様と孤児じゃつり合わない。しかも人と獣人、それに男同士だ。俺たちに未来なんてない)  そのときの俺は本気でそう思っていた。ところが後日、そうでもないことがわかった。  メリがポロッと漏らした「獅子族」という獣人は、なんと相手が男でも孕ませることができるらしい。メリ自身は四分の一しか獅子族の血を引いていないそうだが、俺に子どもができる可能性は高いとの話だった。  だから相手が男でも問題ない。もし俺が生む側が嫌なら自分が生めないか考えるとまで言われて拒絶するのは男じゃない。それに獣人は貴族だの王族だのという身分ではなく血族を重視するんだそうだ。その点俺は人だから獅子族の血が濃い子どもを生むことができるとかで、メリどころか親族も喜んでいるのだという。あれこれ考えていたことは呆気なく乗り越えることができてしまった。  こうして俺はパティシエをしながらメリの婚約者になった。そろそろ正式なつがいになってもいいかと考えていた冬のある日、王妃様になった王子様が獣人王の子どもを生んだ。獣人王は獅子族で、生まれた子どもも獅子族だという。 (マジか)  心底驚いた俺は、自分もそうなる可能性があることを真剣に考えるようになった。だが、考えれば考えるほど自分が赤ん坊を生む想像ができない。そんなとき、菓子作りを教えてほしいという王妃様に呼ばれ、気がつけばあれこれ話をする間柄になっていた。これ幸いと思った俺は、男の体で妊娠する感覚や出産したときのことを王子様に聞くことにした。 (向こうにいたときには想像すらしなかった展開だな)  王族の婚約者になり、王妃様と一緒に菓子を作る日が来るなんて誰が想像できただろう。しかも、もしかしたら赤ん坊を生むことになるかもしれない立場だ。 (人生何が起きるかわかんねぇな)  そんなことを思いながら夕食用のチョコレートムースを保冷庫に仕舞ったところで、いつものようにメリが厨房に現れた。人のシェフたちは国に帰ったためヒソヒソ囁く声は聞こえない。一方、獣人の料理人たちの生温かい眼差しはそのままだ。 「ねぇシロウ、いつ結婚する?」  いつもの言葉を飽きることなく今日も口にしている。獣人王と王妃様の間に子どもができたからか、最近はより一層そう言われるようになった。 「ねぇ、シロウ~」  甘えるような声を無視して調理器具の片付けを進める。俺がこうして作業をしている間はメリも口しか出さない。 「ねぇ、シロウってば」  最後に手を洗ったところで背後から抱きしめられた。「おい」と一応注意するが、「だって無視するから」と若干口を尖らせながら文句を言う。  体が触れ合っているからか、メリから蜂蜜のような匂いがふわりと漂うのを感じた。そういえばメリという名前は獣人たちの古い言葉で“蜂蜜”を意味するんだそうだ。「俺にぴったりでしょ?」と笑うメリは、匂いだけじゃなく笑顔も蜂蜜みたいに甘かった。 (ま、いつ結婚してもいいとは思ってるけどな)  俺だってそう思うくらいメリを想っている。俺がほしいものをくれたメリに、俺もメリがほしがっているものを与えてやりたい。そうやって二人で生きていきたい。そんなことを思いながら、口では「さぁ、いつだろうな」なんて意地悪なことを言う。 「えぇー。シロウったら相変わらず意地悪だなぁ」  そう言いながらメリの両手は俺の腹に回り、しっかりと抱きしめていた。 「でも、そんなシロウも大好き」  耳元で囁く声ににやけそうになった。「俺だってそういうメリが大好きだよ」なんて答えたら、きっと服の下で尻尾をブンブン振って喜ぶんだろう。そんなメリを想像しながら俺を抱きしめる愛しい手をポンと撫でた。

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