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番外編 真夏の冷たくて甘くておいしいこと

(※長男ポイニーが生まれる前の夏のお話)  獣人の国の夏は暑い。とんでもなく暑い。二年目だから平気かなと思ったけど、そんなことは全然なかった。 「あーつーいー」  口に出したらますます暑くなってきた。ソファの上でぐにゃりと背もたれにもたれかかる。王様の奧さんとしてこういう格好はどうかと思うけど、あんまりにも暑くてどうでもよくなった。  膝の裏を汗が流れるのを感じて足をヌッと延ばした。ピチャンと音がして水が少しだけ桶からこぼれる。 (足だけでもって思ったけど、やっぱり暑いや……)  足元を見る。少し大きめの桶には水がたっぷり入っていて、ぼくはそこに足を突っ込んでいた。獣人の国ではこうやって足を冷やしたり、寒い冬には逆にお湯につけて温めたりすることがあるんだそうだ。桶の水にはアルギュロスさんがスーッとするハーブ水を入れてくれた。たしかに気持ちよくはなったけど頭は熱いままだ。 「我が妃は相変わらず暑さに弱いな」 「お、王様!」  大好きな声が聞こえてきてピャッと背中が伸びた。慌てて足を拭こうとタオルを探していたら、「そのままでいい」と言って隣に王様が座った。 「ご、ごめんなさい」 「なぜ謝る?」 「だって……ぼくは王様の奧さん、じゃなかった、お妃様なのに、こんな格好で……」 「かまわん。それに俺はこういうおまえも好きだからな」 「す、すき」 「あぁ、好きだ」 「……ぼくも、こんなぼくでもいいって言ってくれる王様が、す、好きです」  もう何回も「好き」と言っているのに、顔を見て言うのがちょっとだけ恥ずかしい。窓の外が眩しいからか、たてがみみたいな王様の金髪もお日様みたいにキラキラ光っていた。ぼくを見ている蜂蜜色の目もキラキラで、その目を見ているだけでドキドキする。 「フリソス様、こちらに置いておきますよ」 「あぁ」  アルギュロスさんの声が聞こえてきて慌てて声のほうを見た。ぼくを見たアルギュロスさんはニコッと笑ったけど、王様に見惚れているのを見られていたのかと思うと顔が熱くなる。  アルギュロスさんの後ろにいた猫獣人の使用人が、ワゴンに載っていた器やコップをテーブルの上に並べていく。透明な器の中には色とりどりの四角い小さなものが入っていた。 「これってもしかして……」  一口で食べられる大きさのそれを昔見たことがある。ぼくが生まれ育った田舎町で、夏になるとお店で売っていたものによく似ていた。 「シャーベットというお菓子だ」  王様の言葉に「やっぱり!」と手を叩きそうになった。 「食べたことがあるのか?」 「お店のものはありません。でもおかーさんに味を教えてもらって、自分で作ったことはあります」 「といっても、シャーベットもどきですけど」と笑うぼくに王様が「すごいな」と言って頭をポンと撫でてくれた。 「暑いときはこうしたものが食べやすいだろうと思って用意させた」 「ありがとうございます」  ぺこりと頭を下げるとドアが締まる音がした。頭を上げたときにはアルギュロスさんも猫獣人の人もいなかった。テーブルにはシャーベットとスプーン、水差しとコップ、それに大きなタオルと小さなタオルが置いてある。 「食べるか?」 「はい! ……あ、」  テーブルに手を伸ばそうとして届かないことに気がついた。そりゃそうだ。桶に足を入れるためにぼくはテーブルから少し離れたところに座っている。小柄なぼくの腕じゃ伸ばしてもテーブルには届かない。先に足を拭こうと思って大きなタオルを取ろうとしたぼくに、「そのままでいい」と王様が言った。 「でも、」 「俺が食べさせてやろう」 「え?」  器を手にした王様が右手でスプーンを持った。そうして淡いピンク色のシャーベットをすくうと、「ほら」と言ってぼくの口に近づける。 「あ、あの」 「暑いのだろう? そのままでいい」 「行儀悪くないですか?」 「こういうのもたまにはいいだろう。それにここには俺たちしかいない」 「……そうですね」  本当は駄目なんだろうけど、ちょっと楽しそうな王様を見ていたらそういうのもいいかなと思えた。スプーン目がけてぱかっと口を開ける。口の中に冷たいものがするっと入ってきた。噛むとシャリシャリといい音がする。甘酸っぱい味はイチゴとミルクだ。 「おいしいです」 「そうか。ではこっちはどうだ?」  今度は薄緑色のものがスプーンに載っている。あーんと口を開けると、またするっと冷たいものが入ってきた。しゃくしゃくと噛むとメロンの味がした。 「これもおいしいです」 「そうか」  それから王様は薄い黄色いものや真っ赤なものを食べさせてくれた。黄色はすり下ろしたリンゴが入っていて、真っ赤なのはなんとトマトだった。どれもおいしくてパクパク食べてしまう。獣人の国ではこうした果物や野菜を凍らせて保存し、暑い夏に食べることがあるんだそうだ。お城の地下には保冷庫があって、そこには冬の間に作る氷をたくさん入れてある。そこで凍らせて作ったシャーベットだと教えてもらった。 「……あ、」 「どうした? 足りなければまだあると聞いている。持って来させるか?」 「お腹いっぱいになったから大丈夫です。そうじゃなくて、王様のぶんがなくなってしまったなぁと思って」 「かまわん。おまえがおいしそうに食べているのを見られればそれで満足だ」  王様はあまり甘い物が得意じゃない。でも、トマトやキュウリ味のはきっと食べられたはずだ。それなのにおいしいからってぼくが全部食べてしまった。  器には淡いピンク色のシャーベットが一つしか残っていない。ぼくにはとてもおいしいイチゴ味だけど、きっと王様には甘すぎる。だから「どうぞ」と言うこともできない。 「最後の一つだな」 「……はい」  スプーンに載っているピンク色をじっと見る。せっかくなら王様にも食べてほしかった。おいしくて冷たくて幸せだった気持ちが少しずつしぼんでいく。ぼくがあーんと口を開けないからか、王様が「気にするな……と言っても気にするんだろうな」とつぶやいた。 「ご、ごめんさない」 「怒っているわけじゃない。そうやってみんなで楽しみたいと思えるのはおまえのいいところだ」  そう言った王様がスプーンをぱくっと口に入れた。驚いて見ていると、かっこいい王様の顔がグンと近づいて来る。「え? え?」と驚いているぼくの唇に王様の唇がぶつかった。 「ん……っ」  口の中に王様の舌が入ってきた。一緒に冷たいシャーベットも入ってくる。王様の舌と一緒にシャーベットが口の中でグルグルと動くのがわかった。甘くて冷たいのと熱いのがグルグルするのが気持ちよくて口の中がトロトロになってくる。 「んむ、んふ、ふ、んん」  王様の熱い舌が気持ちいい。いつの間にか大きな手がぼくの頬を包み込んでいた。顔も口の中も、それに冷たい水に浸かっているはずの足の先まで熱くなってくる。首や背中も熱くなってきたけど感じはしない。それよりも熱い王様の体に触れているのが気持ちよくて頭までトロトロになってきた。 「んふっ」  うなじを汗がツーッと流れ落ちた。耳の後ろから流れ落ちていく汗の感触がちょっとだけくすぐったい。その汗が鎖骨に当たって、さらに下に流れていく。 「んむ」  汗の感触がくすぐったくて変な声が出た。それでも王様はキスをやめなかった。ぼくもやめたいとは思わなかった。口の中にあったシャーベットはとっくに溶けてしまっていたけど、王様の舌が甘くてぼくは必死にチュウチュウと吸いついた。  たくさんキスをした王様の口が離れていく。それが寂しくて王様のかっこいい口をじっと見た。赤い舌がペロッと唇を舐めたのがちょっとエッチでドキドキする。 「うまいとは思うが、俺には甘すぎるな」  トマト味のなら王様でも平気だと思います、そう言いたかったのに舌がジンジン痺れてしゃべることができない。 「どうした?」  ペロッと舐めた口から目が離せない。もう一度キスをしたくて、ぼくは思い切り腕を伸ばして王様に抱きついた。金色のたてがみのような髪の毛ごと首を抱きしめて、それからちょんとくっつけるだけのキスをする。本当はがぶっと食べるみたいなキスがしたかったけど、なんだか照れくさくてくっつけるだけしかできない。 「かわいい口づけだな」  そう言って笑った王様ががぶっと食べるようなキスをした。痺れている舌をはむっと噛まれてお尻がゾワゾワする。 「……あぁ、いい匂いだ」 「お、さま」 「そうじゃないだろう?」 「ふ、りそ、す」 「アカリはどこもかしこもいい匂いがする」 「んっ」  首をクンと嗅がれて顔が熱くなった。そのまま王様の頭が下りていき、脇に鼻を突っ込むようにしながら匂いを嗅ぎ始める。王様が来る前も汗をかいていたしキスしているときも熱かった。きっとたくさん汗をかいているはず。そんな場所を王様に嗅がれるのは恥ずかしくてたまらない。それなのに嫌だと言えなくて、王様の頭をギュッと抱きしめた。  金色の耳がピクピク動いている。それが頬に当たって少しだけくすぐったい。 「フリ、ソス……ぼく、もう……」  キスをしただけなのに体がウズウズしてどうしようもなかった。汗の臭いを嗅がれているのにそういう気分になるなんて、ぼくはちょっとおかしいのかもしれない。  すっかりそういう気分になってしまったせいか股間がムズムズしてきた。お腹の奥がジンと痺れて落ち着かない気持ちになる。お尻の奥のほうがソワソワして勝手に腰がカクカク揺れた。 「つがいに誘われて断るほど俺は無粋ではない」 「フリソス、んっ」 「口づけだけで健気に勃起させて……アカリは本当にかわいいな」 「やっ。擦ったら、でちゃ、からっ」 「ではこっちはどうだ?」 「んぅっ」  いつの間にか膝のあたりまでズボンを下ろされていた。下着の上からアレを撫でられて腰がピクンと揺れる。そのまま王様の指がスルスルと後ろに回り、下着の隙間から中に入ってきたかと思えばお尻の奥をちょんとつついてきた。 「んっ」  腰を突き出すように動かしてしまった。孔をトントンとされるだけでニチャニチャと恥ずかしい音がする。同時に孔がヒクヒクと動くのがわかった。 「んふ」 「すっかり濡れているな」 「んぅ、」 「指なら一本、いや二本ならすぐに入ってしまいそうだ」  孔をふにふにしていた指がヌクッと中に入ってくる。お腹がビリッとしてぼくのアレからぴゅくっと漏れた気がした。それに気づいたのか、ちょっとだけ笑った王様が指をヌクヌクと動かした。「あ、あ」と声が漏れるけど、ぼくの体はもうそれだけじゃ満足できなくなっていた。 (指じゃなくて、もっと熱くて太くて大きいものでいっぱいにしてほしい)  そうして指じゃ届かないお腹の奥までいっぱいにしてほしい。  気がついたら王様の頭を左手でギュッと抱きしめながら、右手で王様の股間を一生懸命撫でていた。ギュンと大きくなった王様のコレを入れてほしくて先端をクルクルと何度も撫でる。  王様が唸るような声を出した。そのままぼくを膝に載せるように引っ張り上げる。ビチョビチョに濡れていた足が気になったのは一瞬で、すぐにぼくの頭の中は王様のことでいっぱいになった。 「発情の匂いが濃くなっている。もしかしたら……」 「フリソス……?」  下着の股のあたりをグイッと引っ張られた。脱ごうと足を動かす前に尻たぶを掴まれてグワッと拡げられる。「あ、くる」と思ったときには王様の熱くて硬いアレがズボッと入ってきていた。 「ん……!」  そのままズブブと入ってくる感触に体がブルッと大きく震えた。腰が砕けそうになるのを必死にこらえながら王様の頭をギュウギュウに抱きしめる。それでも気持ちよすぎるのに耐えられなくて仰け反ると、大きな手がぼくの腰を掴んで一気に引っ張り下ろした。 「ひ……っ!」  見開いた目の前で星がチカチカした。下着の中でぼくのアレがピュピュッと勢いよく吐き出している。 「あぁ、アカリの中は温かくて気持ちがいいな」  そうつぶやいた王様が顔を上げた。そのままぼくの唇にかぷっと噛みつく。 (王様の口、甘くておいしい)  ほんのりイチゴの甘い味がする。ぼくは王様の口をチュウッと吸いながら、お腹のもっと奥に入ろうとしている王様のアレをぎゅうっと抱きしめるように力を入れた。

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