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第一章 エディンとアルネ
夜明け前、まだ暗く夜風の冷たい中、男は小高い丘の上に立っていた。
闇夜に溶ける黒い髪を、風になぶらせて。
返り血でどす黒く染まったマントを、風にはらませて。
丘の下に広がる、王都・テミスアーリンを凝視していた。
彼の名は、フェリックス・エディン・ラヴィゲール。
内乱の起きたテミスアーリンを救うために、隣国・ネイトステフより派遣された武人だ。
その勇猛な戦いぶりから『竜将』と謳われる、ネイトステフ王国の第三王子。
民衆や兵士たちからは敬われ、そして恐れられてもいる、若き将軍だった。
その黒髪と同じく、黒い切れ長の瞳。
端正な面立ちは、どこか猛禽類の鋭さを併せ持つ。
引き締まった長身を軽装甲冑で覆い、寒さに震えもせず立っていた。
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