1 / 372

第一章 エディンとアルネ

 夜明け前、まだ暗く夜風の冷たい中、男は小高い丘の上に立っていた。  闇夜に溶ける黒い髪を、風になぶらせて。  返り血でどす黒く染まったマントを、風にはらませて。  丘の下に広がる、王都・テミスアーリンを凝視していた。  彼の名は、フェリックス・エディン・ラヴィゲール。  内乱の起きたテミスアーリンを救うために、隣国・ネイトステフより派遣された武人だ。  その勇猛な戦いぶりから『竜将』と謳われる、ネイトステフ王国の第三王子。  民衆や兵士たちからは敬われ、そして恐れられてもいる、若き将軍だった。  その黒髪と同じく、黒い切れ長の瞳。  端正な面立ちは、どこか猛禽類の鋭さを併せ持つ。  引き締まった長身を軽装甲冑で覆い、寒さに震えもせず立っていた。

ともだちにシェアしよう!