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「あなたも、支度をなさい。軍がここへやって来てからでは、手遅れですよ」 「はい。母上」  振り向き、返事をした少年は、薄暗がりにも浮かび上がるような、白い肌を持っていた。  均整の取れた体に、絹のような栗色の髪。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  彼の名は、アルネ・エドゥアルド・クラル。  国王の、第二夫人の次男だ。  正妻である王妃は、クーデターが起きてすぐに、我が子を連れてさっさと亡命した。  王と王妃、そして王太子と、主権者の消えたこの国を混乱から救おうと、アルネの兄が仮王として頑張っている。 「兄上は、大丈夫でしょうか」 「今は、信じなさい。そして、私たちも急いで亡命しなくては」  母の言葉に、アルネは顔を曇らせた。 (兄上が命を懸けて戦うのに、僕は逃げ出すなんて)  だが、母の言う通り、今は身の安全を図るしかない。  それが歯がゆい、アルネだった。  夜明けが、近づいていた。

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