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第24話

事が終わったあと少し横になって話していると颯斗くんは眠ってしまって、僕はその寝顔を見つめている。 長いまつげ。いつも僕を見つめる黒い瞳。はっきりとした二重にほんの少しつり目で。 顔も声もかっこよくて好き。 なにもかもが大好きで、愛おしくて胸がぎゅっとなる。 「…颯斗くんすきだよ、大好き…」 起きてるときには恥ずかしくてあんまり伝えられないけど、寝てる今なら言えるから。 颯斗くんの首元に顔を埋めながら抱きつくと、寝てるはずの颯斗くんが抱きしめ返してくる。 「…んぇ、起きてたの?」 「ん、今のでぎゅーってやつで起きた。俺も優紀大好きだよ。」 「なっ、もう!聞いてたんじゃん!」 はは、と軽く笑って颯斗くんは起き上がると床に脱ぎ捨てた制服に手を通した。 時計を見るともう19時を回っていて、あっという間にお別れの時間で。 僕も慌てて服を来てマンションの下まで送りに行く。 駅まで着いていくと言っても、颯斗くんはいつも僕のことを可愛い女の子みたいに扱ってきて「危ないから」と送らせてくれない。 「そんな寂しそうな顔しないで、明日も来るから。ね?」 頭をぽんぽんと叩くように撫でて、人がいなくなったタイミングでぎゅっと抱きしめてくれる。 なんとか笑顔を作って、颯斗くんが見えなくなるまで見送って部屋へ戻る。 この時間がいつも寂しくて嫌い。さっきは一緒に乗ったエレベーターも帰りは一人。 部屋へ戻ると颯斗くんの残り香がする。 ベッドは特に顕著で、自分でも気持ち悪いと思うけど目を閉じて横になると颯斗くんがそこにいる気がしてしまう。 最後に颯斗くんが果てるタイミングで、僕の肩に痛みが走ったのを思い出して洗面所へ確認しに向かうと、嚙みあとが赤くなっているのが見えた。 噛まれてもそれすら快感にかわるってもしかして僕はMなんだろうか。 恥ずかしいのも痛いのも颯斗くんからなら許せて、全て受け入れてしまうなんて本当に僕はどこまで彼が好きなんだろう。 *** 次の日も結局雨でまた僕は教室で長谷部とご飯。 長谷部は上機嫌で昨日のことを報告してきた。 どうやらまいちゃんと少し進展があったようで、とても嬉しそうだった。 「こんなうまくいくなんて、立浪くんにお礼言わなきゃなぁ。」 長谷部は昨日のことを思い出すように、目尻を下げて言う。 僕はというと、長谷部にいつ颯斗くんと付き合ってることを言うかタイミングを計っている。 「ねぇ、あのさ。」 パンを口に入れたばかりの長谷部は口を閉じたまま、おそらく なに? と言った。 「僕、颯斗くんと付き合ってるんだよね。」 長谷部は一瞬動きを止めて、僕の机に置いた紙パックのミルクティーでパンを飲み下した。 「はぁ、まじ?じゃあ何、昨日のガチのやつってこと?」 「いや、まぁ、んー、そういうこともあるにはある、けど…」 長谷部は口に手を当てて一言「まじか、えっろ…」とだけ呟いて、もう一口ミルクティーを飲んだ。 曲がりなりにも友達なんだからえろいとか言うなよ、と頭で思いながら多分長谷部は自分が何を呟いたか気にも留めてない。 長谷部は僕と颯斗くんがそういう関係なのを嫌がりもしないし、嫌悪する訳でもない。 ただ本当に事実として受け止めて、認めてくれる。 「…あれ、なら俺すごい嫌なこと言ってない…?  辰巳で練習とか言っちゃって立浪くん絶対嫌だったでしょ、ごめんって謝っといて!」 長谷部が思い出したように少し大きな声で謝る。 「分かったから静かにね。」 そう言うと頷いてまたパンを食べ始めた。 あの後のことはさすがに言えない。 やきもち妬いてる颯斗くんが可愛くて自分から誘ったなんて。 携帯が振動して確認すると颯斗くんからメッセージ。 <放課後、久しぶりに図書館いきませんか?> 了承の返事を送るといつものひよこスタンプ。それが踊ってるスタンプが送られてきた。 携帯を置くと長谷部と目が合う。 「今の立浪くんからでしょ」 「うん、放課後図書館いこって。なんでわかったの?」 「いやー、辰巳って分かりにくいって思ってたけど、立浪くんのことになると分かりやすいね。」 なんで、ときくと頬をツンとつついてきて、何?と聞くと長谷部は笑う。 「今は表情かえてないじゃん?立浪くんから連絡きたとき口角あがってたよ。」 長谷部はそう言ってニッと笑うと、ちょうどチャイムが鳴って長谷部は自分の席へ戻って行った。 言い逃げされたみたいで何も言えないまま消化不良で終わる。 図書館へ入ると颯斗くんはもう着いていて、いつも座っていた場所で本を読んでいた。 集中しているのか僕に気付くことはなく、本をめくるときにやっと隣にいることに気付いて気まずそうに笑う。 僕は僕で本を開いて読み始めて、久しぶりにこういう雰囲気なのが少し嬉しい。 久しぶりに集中して本を読んでいたせいか肩が痛くなってきて伸びをする。 外の雨は相変わらずひどい降りで、こんなときに図書館へ来る物好きは僕らしかいない。 暗い空を見上げて、まだ遠くで鳴る雷にすこし恐怖する。 図書館の照明は集中して読めるように明るすぎず、ほんのりと暗い。 大きい窓があるから晴れてる日は全体的に明るくなるけど、今日みたいな日はさらに薄暗くなる。 「雷近くにきそうだね。大丈夫?」 本から顔を上げて颯斗くんが言う。 大丈夫、と返事はしたものの雷鳴で集中できないほどにはこわい。 遠くで光る稲妻を見ながら告白された日のことを思い出す。 あの日もこんな天気だった。 あのときはまさか告白されるなんて思ってなかったし、今みたいに付き合うことなんて考えたこともなかった。 幸せだったけど、もどかしくて苦い日々がずっと続くのかと思っていた。 今は顔を見れば目を合わせてくれて、近くに行けば抱きしめてくれる。 僕のしてほしいことを全部してくれて、不安に思うことを一つずつ消していってくれる大好きで大切な人。 雷が近くに落ちて思わず耳をおさえて机に突っ伏すと、近くにきて手を握ってくれる。 入口から死角になる場所へ連れていかれて、立浪くんと唇を重ねた。 雷はあっという間に近くにきて、あっという間に過ぎていく。 図書館の時計は18時を指していて、気づけばもう閉館時間。 図書館の扉を開けると雨はあがっていて、空が青色とオレンジでグラデーションになっている。 どちらからともなく手を繋いで笑い合いながら、虹のかかる空を見て校門をぬけた。

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