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第4話

それからしばらくして、奏ちゃんママが階下から俺たちを呼んで、豪華な料理が並ぶ”奏ちゃん卒業おめでとう会”が開かれた。 美味しい料理を食べながら、皆の話に耳を傾ける。 我が家は比較的、皆無口だから横田家の食事はにぎやかだ。 俺はほとんど聞き役に徹する。 「つーか、奏二、いっちょ前に帰ってくるの遅かったな。 朔ちゃんが1人で帰るなんて珍しい」 と、お兄さんが言う。 「本当は朔と帰りたかったけど、皆写真撮りたいって五月蠅くて…、ごめんね」 奏ちゃんが俺に謝る。 「いや、別に大丈夫だけど」 っていうか、無理して毎日俺と帰らなくて良かったのに。 「そんな悲しいこと言わないでよ」 と、奏ちゃんが頬を膨らます。 そんな顔をしたいのは俺の方だ。 俺は顔が可愛くないからやらないけど。 「俺だって…、奏ちゃんと写真撮りたかったな」 と、呟くとママが「やだ~」と声を上げた。 キモイのは分かってるけど、俺だって思い出が欲しい。 「朔~。 朔とならいつだってどんな写真だって撮るよ~! でも、朔が撮らせてくれないから嫌なんだと思ってた」 「それはっ…」 それは、奏ちゃんが、キキキキキスしてる時とか、寝顔とか、俺が着替えしてるときとか、そういう恥ずかしい写真ばかり取ろうとするからじゃん! とは、奏ちゃんの家族の前では言えず、口籠る。 「朔ったら、照れ屋さんだな〜」と、奏ちゃんが言う。 そんな写真、誰だって照れるよ!と思いつつ俯く。 そうして、食事は和やかに終わった。 「明日休みだし、もうちょっと僕の部屋で遊んでいこう?」 と誘われ、俺は頷く。 だって、今日が最後かもしれないし。 なんなら、今から別れ話の可能性だってある。 奏ちゃんは部屋に着くなり、ベッドに倒れ込んだ。 傍らに立つ俺に「おいで」と奏ちゃんが言う。 確かに関係性は”恋人”だけど、今までの俺たちは、同じベッドに入ったことはない。 「え」と、戸惑っていると「早く」と奏ちゃんが急かすので、ベッドの端に遠慮がちに寝転ぶ。 「遠いってば」と、奏ちゃんに抱き寄せられ、あり得ないくらい心臓がバクバクと鳴った。 「あ~、朔可愛い」 と言われ、俺は身を固くした。 前からそうだけど、付き合ってからはずっと「可愛い」と言われる。 全然そんなことないのに。 弟として可愛いとか、家族愛的な感じなんだろうか。 「あ、あのね…」と俺が切り出すと、俺の匂いを嗅いでいた奏ちゃんが「うん?」と顔を上げた。 「奏ちゃんは遠くの大学に行くでしょ?」 「うん。来年には朔もくるでしょ?」 「あ、いや、ええっと…、俺は行かない、かも」 「…、なんで?他に行きたい大学があるの?」 急に空気が冷えた気がして、俺は緊張する。 「それは別に…。 っていうかさ、奏ちゃんだってそろそろ俺が鬱陶しいでしょ?」 「なにそれ?なんで恋人が鬱陶しいの?」 「それだってさ、奏ちゃんの優しさでOKしてくれたんだよね? 俺から別れたいって言うの、許せないと思う。 でも、意地張ってる場合じゃないよ、そろそろ…、いっ」 俺がそう言うと、彼が俺の二の腕を痛いくらい掴む。 あまりに痛さに顔が歪む。 「別れ話しようとしてる?」 冷えた声で問われ、俺はぎこちなく頷いた。 「前も言ったよね? 二度と別れ話すんなって…、なんで朔は学ばないわけ?」 「だって、ずっと実家から離れて一人暮らししたかったんでしょ! 俺、引っ越し先の住所聞いてないし、やっぱり俺のこと邪魔なんじゃないかって…」 「離れたかったよ、実家は」 はぁ、とため息をついて奏ちゃんが言う。 ほら、やっぱり… じわじわと視界が涙で滲む。 「だって、朔のこと抱けないじゃん。 クソ兄貴に朔の声とか聞かれたくないし」 「へ?」 抱く?抱くって…、ハグじゃなくてあの先輩が教えてくれた…、確か… セックs… 「セッ!?えっ!!?えええ!?」 俺が言葉を無くして、ただただ「え」を繰り返していると、奏ちゃんがまた溜め息をつく。 「当たり前じゃん。 朔のこと好きだし、俺も男だし、 抱きたいだろ普通に」    俺が口をはくはくさせていると、奏ちゃんがにっこり笑った。 「まだ朔は高校生だから手は出さないよ。 大切だもん。 でも、大学生になったら速攻で俺のものにするからね。 だから、同じ大学に行って、同じ部屋に住むの」 「良いでしょ?」と奏ちゃんは小首を傾げて、怪しく微笑む。 優しい奏ちゃんじゃない! なんか、セクシーで危ない感じがする! 「だ、だめだよ!そんなの爛れてる!」 「ふふ。そんな清廉潔白な朔を堕とすの、楽しみだな〜」 と言って彼は俺の唇を奪う。 最近、キスをされることもある。 手を出してるじゃん!! と、いう俺の思惑が透けて見えたのか 「キスはセックスじゃないよ〜」 と、奏ちゃんがわざとらしくその単語を言う。 俺はその単語を聞くだけでキャパオーバーだった。 ------------ 「俺はね、朔以外に『うん、いいよ』なんて言わないんだよ。 朔に告白された時だって、嬉しすぎて夜眠れなかったんだからね」 「…、そうなの?」 「それとね、朔の隣に俺以外が立つなんて絶対許せないからさ、朔に友達がいないのは俺のせいなんだよ」 「ふーん…、ん?え? 待って、どういうこと?」 「んー?秘密〜」 それから俺の受験まで、俺は勉強を頑張り、奏ちゃんも結構帰省して勉強を教えてくれた。 無事、大学に合格したのは言うまでもない。 そして同じ賃貸に引き摺り込まれたのは、もっと言うまでもないし、大学でもなぜか俺の友達はできなかった。 〜了〜

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