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第13話 湿る独影

目が覚めると、静かな室内で冷房の稼働音が耳に届く。 気怠い身体を起こし、周りを見渡す。いつもと同じ部屋の光景が寝起きの視界に広がる。 静也は起き上がると夏布団を捲ってソファベッドから降りる。机の上には洗い忘れたマグカップが乾いてコーヒーのシミができている。ニルスの姿はない、多分貸してる部屋にも居なさそうな雰囲気。 静也は机のカップを持ち、流しにカップを置く。 着替えるのも億劫で、部屋着のまましばらくぼーっとしていると昨日の事を振り返ってふと気付く。 (あれ、俺っていつ着替えた?) 自分の視界には着た覚えのない部屋着を来ている自分の腕。静也は昨日の寝る前の事を考え直す。ニルスと話したあと、特にシャワーも浴びてなければ着替えた記憶もない。確かあの後色々ごちゃごちゃ話して疲れて、いや正確には不貞腐れてニルスが色々言ってきたけどそのまま寝た気がする。 静也は気になって2階に上がると昨日着ていた服が物干し竿にぶら下がっていた。朝ニルスが洗濯機を回すのが日課、取り込むのは自分だったりニルスだったりする。 静也はそれを確認すると、色々考えるのが面倒になってまた1階のソファベッドに横たわる。 TVのリモコンを取りスイッチを入れ、朝の挨拶も終わったニュース番組を意味もなく眺めることにした。 ー 「ただいま、生きてる?」 玄関が開く音とともにニルスの声が室内に届く。冗談交じりの声色に多分今日は機嫌がいいようだ。 「生きてるね、ご飯食べた?」 ニルスは朝出かけた時と何ら変化のない室内に微笑を浮かべる。 ソファベッドに転がってる静也、半分だけ飲み物が入ったカップにPCや資料、スマホなどがぐちゃっと机に寄って置いてある。静也が昼に食べたのか、乱雑な机にパンのゴミが増えてる。 普段は物が多いとはいえ片付いてる部屋だが、主がこうも憔悴してるとこうも変わるもんかとニルスは関心する。 「食べてない」 静也は気怠げにニルスの質問に答える。 ニルスは「じゃあ、何か作るけど……冷蔵庫何かあったっけ?」と言いながらキッチンへ入る。最近外食だったり買ってくることが多かったから、冷蔵庫の中身を把握してないニルス。静也も殆ど自炊しないため、買い足してるなんてことは無さそう。これは買い出しに行かないと何も無いかな、と思いながら冷蔵庫を開ければ案の定卵と調味料以外は不在で殆ど空間しか無かった。 「あー……今から買い物行ってくるよ」 「じゃあ別にいらない」 ニルスがリビングに顔を出しながら、ちょっと待って欲しいと提案すると静也はそれなら別に食べなくてもいいと布団を被る。 多分昨日振られた事を引き摺って伏せているんだろうとニルスは勘づくも、流石に昼は大して食べてないだろうから夜くらい食べた方がいいと食い下がる。 「昼だってこれだけでしょ、待ってて俺もお腹減ったし何か買ってくるついで」 このままゴリ押ししたところで多分断られるので、ニルスは自分が食べたいからと付け加えた。 「……そう言えば、お前腹とか減るんだな」 静也は嫌味なのか本気なのか、廊下に差し掛かるニルスに聞こえる程度にボソッと口を開く。 今更すぎる言葉にニルスが笑い出す。 「今更過ぎるでしょ、減るよっていうか、俺だって電池で動いてる訳じゃないからね無機物じゃないんだから」 ニルスの笑い声が廊下に響く。買い物に行く足を止めて静也を見れば、向こうは笑っていなくて自分だけ笑ってるのが虚しくなってくる。 「……じゃあ、そろそろ行くよ、待っててね」 ニルスは笑い止むと先程通った玄関に再度向かうと靴を履き直す。静也は聞いてはいるだろうが返答はない。ニルスは夕飯の買い出しに玄関を潜る。 外を出ればまだやや明るい、夏至は過ぎたが日はまだ長い。日が暮れきらない道では蝉が喧しく鳴きたてている。

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