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【後編】壊れかけても、愛してる、なんて

「ーーッ!?ンぁ、ア、はぁっ…!い、挿れるなら、ちゃんと、慣らして…っ、さきに言え、ばか!」 突然内側を抉ってきたソレに、思わず悪態を吐く。 しかし悠真は悪びれる様子もなく、当然と言わんばかりに言葉を紡ぐ。 「大人気のショウくんなら、慣らす必要なんかないと思ってさ。あ、大人気"だった"、だね。じゃあ聞くけど…商夜、挿れていいかい?まだ、半分しか入ってないんだ」 今の悠真が商夜の答えなど待つはずもなく。そう問いかけながらも、悠真は己の欲の塊をズプズプと商夜の体内に押し込んでいった。 商夜の身体はそれを拒むようにぎちぎちと悠真自身を締め付けるが、もはやそれさえ、興奮剤にしかなってはいなかった。 「んうぅッ!は、はる、待っ、や…!」 「ほうら、最後まで挿入ったよ。分かるかい?」 商夜の静止の声すら届くはずもなく、悠真はエゴを押し付ける。 それから、すっかり根元まで挿入したその事実を突きつけるかのように、トン、トン、と優しくその肉壁の最奥を突いた。 「っあ゛、わかる、けどぉ…っはるま、おれ、くるしいっ…!」 挿入されたとはいえ、悠真の大きく張り詰めたそれの感覚を快感に変えるにはまだ時間がかかりそうだ、と悠真は思った。 商夜はその苦しさに息すらまともにできず、はーっ、はーっ、と荒く息を吐いていた。 しかし、運悪く──悠真にとっては良いことであるが──悠真に気付かれてしまった。 先程まで萎れていた商夜の下腹部が、また昂り熱を秘めているということに。 「苦しい、か。それはつらいね、よしよし。それじゃあ、こっちからにしようか」 悠真は躊躇なく商夜の熱に手を伸ばす。先端からは透明な粘液がトロリと流れ、商夜の腹部を濡らしていた。 それを利用して、ぬち、にちゃ、と音を立てながら扱けば、商夜は、耐えきれないというように肩を震わせ、目からは生理的な涙が零れた。 「やだ、それぇ…っだめ、ぅあ、!両方は、っだめぇ!」 優しく触れているだけなのに、商夜から悲鳴にも似た嬌声が上がるのは元から感度がいいのか、それとも──興奮しているのか。 考える必要などない、なぜならそれは商夜が自身の熱で証明しているのだから。 「苦しいとか、両方はだめだとか…なんてわがままな子猫ちゃんだ。いいよ、こっちだけにしてやるさ」 悠真はそういうと、自身を商夜から引き抜いた──はずだった。先端近くまで引き抜いた欲は、今度は勢いよく商夜の身体を貫く。 全身にビリビリとした感覚が走り、頭の中では電気が弾けているように感じた。 「っあ、ァ…?なに、っ、それ…っからだ変、だよぉ!」 一拍遅れて商夜が声を上げる。商夜の身体は、それが本当の快感だと、まだ知らなかった。 「はは、大丈夫だよ商夜。それも気持ち良いってこと、それから…これも、気持ち良い、だよ」 初めての感覚に、商夜の身体の反応は止るところをしらない。悠真はそんな商夜の様子に薄く笑みを浮かべながら、今度は商夜の腰を掴みぐちゅぐちゅと己の腰を打ち付けては商夜の感じる場所を探し始めた。 そして、とある一点を突き上げた瞬間。 「ぅああっ!そこ、や…っき、"きもちいい"……!」 やっと。強制ではなく、自分からつい漏らした言葉。喜びから口元が緩みそうになるのを抑えられない。 悠真は誤魔化すように商夜に軽いキスをすると、また同じ一点を、突き上げた。 「ここが、良いんだね?」 すると商夜は大袈裟なほどに身体を揺らし、小さく、しかし確かに、こくりと頷いた。 「ふふ、やっと素直になれたね。いい子は可愛がってあげなくちゃ」 悠真も、妖しげに笑うことを隠す余裕はもうなかった。 いい子、と商夜の頭を撫でる。そして今度は激しく突き上げるでなく、一番感じる箇所をノックするように、先端で優しく触れ始めた。 その度に商夜の身体はひく、ひく、と反応を見せるがまだ決定的なそれには至っていない。 「ア、は……っはるま、おれ、」 「うん、分かってるよ」 ──足りないんだろ? しがみつくように抱きついてきた商夜にそう囁けば、その身体はふるりと期待に震えた。 「ン…もっと、もっとシて…っ」 拒絶ばかりだった商夜がこんなにも自分を求めている。こんなに嬉しいことが他にあるだろうか。 悠真は分かったよ、と口にする代わりに商夜の背中に腕を回した。 そしてまた先程のようにずるりと自身を引き抜くと、より一層激しく商夜の肉壁を突き上げた。 「んん、ンっあ、アァっ!」 商夜は大きく身体を揺さぶられながらも、耐えきれないというように大きく喘ぐ。 しかし悠真が動きを止めることはない。こんなにも、自ら悠真を求めるほどに壊れてしまった商夜。悠真の心は歓喜に打ち震えていた。 「き、気持ちいいっ…はるま、お、れ…ッア、!きもちいい、よぉ…っ!」 「素直に言えて、いい子だね。俺も、っ気持ちいいよ…」 商夜の内側の肉襞がうねり、締め付けが強くなる。 正直、悠真にはまだ体力が有り余っている。しかし快感を享受し続けた商夜の身体はどうだろう。 その反応は、商夜の限界が近いことを悠真に知らせるようだった。 「このまま、イってしまおうか。見ててやるからさ」 ずんずんと突き上げながら言えば、商夜はもう声すら出せなくなったようで、はくはくと口を開いては快感を逃がそうとするばかりだった。 「ほら…こっちももう苦しそうだよ、一緒にイこう」 言葉と共に商夜の肉棒を指で撫で、同じ場所をぐちゅぐちゅと突く。 商夜は苦しそうな呼吸を何度も何度も繰り返し、そして── 「ーっ…!ぁ、は…っ」 触れてもいないその昂りから、欲を吐き出した。 悠真はそれを愛おしそうに見つめ、よくできたね、と呟くように言うと、まだ熱がこもったままの自身を引きずり出した。 「ごめんね、少し、付き合って」 果てたばかりで力の抜けた商夜の手を、多少強引に引っ張る。そしてその手に自分の手を重ねたかと思えば、まだ滾ったままのそれを触れさせる。 「…は、っ……」 商夜の手に強く握らせ、そのまま何度かストロークさせたかと思えば、悠真もまた、商夜の腹の上に熱を迸らせた。 「ふぅ…ごめんね、勝手に借りてしまって。このままだと、俺も苦しくて」 一瞬目を伏せたかと思えば、悠真の顔にはいつもの優しい笑顔が浮かぶ。 そしてベッドサイドテーブルからティッシュを取り出すと、商夜の腹で溶け合うお互いの精液を丁寧に拭った。 「…なんで、俺の中でイかなかったの」 その仕草に商夜は不服そうな表情を見せる。 商夜は最初から、自分の方がテクニシャンの自信があり、自分が優位に立つべきだと心から思っていた。自信があった部分までへこまされては、自分の寄る辺がなかった。 「ああ、それは、ね…俺がイくまでして、本当に商夜が壊れたら、俺が後悔するだろ?」 困ったように眉を下げる悠真に、商夜は恥ずかしげに口を噤むばかりで何も言えなかった。 ──これから、何回だって壊すつもりのくせに。 そう思っても言葉には出せない。もう商夜の身体は、心は、悠真に支配されている。悠真が言うことには、きっと自分は逆らえない。 だから、もし肯定されてしまえば、本当に何度だって壊され、狂わされるだろう。 そんな夜もあっていいのに、と少しだけ期待する自分の気持ちに蓋をして、商夜は悠真の腕の中で静かに目を閉じるのだった。 「─おやすみ。愛してるよ、商夜」

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