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第17話 継母は、難しい
2ー7 キス
俺を部屋に招き入れるとリュートは、1人がけのソファにさっさと腰を下ろし俺を見た。
「で?話とは?」
「あ、の……」
俺は、うつ向いてもじもじしていた。
しかし、明らかにリュートは、イラついているようで、俺は、きっ、と顔を上げるとリュートを見つめた。
「侯爵、見ましたよね?」
「何を?」
リュートは、興味なさそうにしている。
こっちがこんなに必死なのに、なんかムカつく!
俺は、じっとリュートを睨んだ。
「とぼけないでくれます?」
リュートは、声を荒げる俺に口許を緩める。
「お前がアンギローズだとは、知らなかったが、そんなことは、私には関係ないことだ」
やっぱり、ばれてる!
俺は、目の前が暗くなるのを感じた。
よりにもよってこんな奴にばれるなんて!
きっと、酷い目にあわされる!
あんなことや、こんなことをされて、ボロボロになるまで虐められるんだ!
「……どうしたら黙っててもらえますか?」
俺は、崖から飛び降りるつもりでリュートに訴えた。
「黙っててもらえるなら、その、(できることなら)なんでもしますから!」
「ふはっ」
突然、リュートが吹き出した。
笑い出したリュートを俺は、呆然として見ていたが、なんだか腹が立ってきた。
「な、何がおかしいんです?」
「すまないな」
リュートがその金の瞳で俺をとらえる。
「これからグレイスフィールド伯爵の妻になろうというのに、そんなこと、言うものではないよ?」
「でもっ!」
俺は、怒りで涙が滲む。
リュートは、俺に優しく微笑んだ。
「心配しなくても伯爵にも他の誰にも黙っていてやる」
「信じられません!」
きっぱりと俺が言うと、リュートは、くいっと指で俺を呼び寄せた。
「では、沈黙と引き換えにキスをもらおうか。伯爵夫人、キスをしてくれ」
はいっ?
俺は、かぁっと頬が熱くなる。
キスですと?
俺の今までの全ての人生が走馬灯のように脳内に再生されていく。
だが、今までに俺がキスをした記憶は、ほぼほぼなかった。
前世では、彼女も彼氏もいなかったし、今生でもそんな余裕はなかった。
いや!
俺の脳裏に兄であるギードとのことが思い出されたが、俺は、ふるふるっと頭を振る。
あんなのなし、だ!
あれは、違う!
第一、キスはしてないし!
「どうした?なんでもするんじゃなかったのか?」
「そ、れはっ!」
俺は、からかうように笑っているリュートにムカついて。
ずかずかとリュートのもとに歩み寄ると俺は、ぐいっとリュートの顔を覗き込んで唇を合わせた。
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