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第39話 愛人契約
4ー9 伯爵領の危機
「入っていいぞ」
中からリュートの声が聞こえて俺は、どきん、と心臓が跳ねる。
震える手でドアを押して中へと入るとそこは、書類の山だった。
「5年前の夏の書類は、どこだ?」
「自分で探して下さい!」
書類を前に頭を抱えている黒髪のメガネをかけた青年が半ギレで応じている。
リュートは、諦めたように自分が座っている執務机の上に積まれた書類の山の中から何かの書類を探し始める。
「あの、すみません。みなさん、今、何をされているんですか?」
俺が聞くとリュートとメガネの青年が顔をあげる。
「アンリ!」
リュートがにこにこしながら立ち上がって俺の方へと近づいてくる。
「これは……どうなっているんですか?」
俺が聞くとリュートは、俺にソファに座るようにすすめつつ自分も俺の隣に腰を下ろした。
すかさずメガネの青年が部屋の隅に置かれていたティーセットを持ってきてお茶を入れてくれる。
「お茶をどうぞ、アンリ様」
「ありがとう」
俺は、お茶のカップを受けとるとちらっと横目でリュートを見た。
リュートもメガネの青年からお茶を受けとると一口飲んで顔をしかめる。
「冷えてる」
「仕方ないでしょう。僕は、魔法が使えないんですから」
メガネの青年は、俺たちが座っているソファの前の椅子に腰を下ろした。
「はじめまして、当主代理殿。僕は、このグレイスフィールド伯爵家の執務官をしているロロ・ターロスと申します」
「はじめまして、アンリです」
俺は、ロロにぺこりと頭を下げた。
ロロは、一瞬、はっと目を見張ったが何事もなかったかのように話を続ける。
「このグレイスフィールド伯爵領であるジーニアスは、今、深刻な危機に陥っています」
ロロが俺にざっと説明してくれたところによるとグレイスフィールド伯爵領は、今まで主に林業で成り立つ領地だったのだという。しかし、それも近年では、材木をとりつくしてしまい、代わりとなる産業の育成に励んでいたが、なかなか、それも進まずにいたところに洪水がおきて山あいの街が一つ土砂に流されてしまったのだという。
この街に向かう途中にグレイスフィールド伯爵は、事故にあって亡くなった。
つまり、街は、まだ復興されるどころかどんな有り様かもわからないらしい。
マジですか?
「あの、書類のことは、皆さんにお任せしますので、俺は、まず、明日にでも土砂に流されたという街に行ってみようと思うのですが」
「それは、辞めた方がいい」
リュートが目を細める。
「今、クルシキの街は、魔物の群れに襲撃されていて恐らく生存者はいないだろう。王都の騎士団に救援を要請したから彼らが来るまで待った方がいい」
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