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第38話 愛人契約
4ー8 伯爵領
翌日、俺が目覚めると、すでにリュートは、いなかった。
俺は、慌てて掛布の下を覗いて見た。
俺のそこには、しっかりとリュートの所有の証である銀色のリングがはめられていた。
俺ががっくりと力なくベッドに横たわってぼんやりと天井を見上げていると俺を呼ぶ声が聞こえた。
「アンリ様」
声の主は、伯爵家からつけられていたリトだ。
リトは、俺を心配そうに見つめている。
「お体の具合は、いかがですか?ラインズゲート侯爵様からは、ゆっくりと休ませて差し上げるようにとお聞きしていますが」
うん?
俺は、はっと気づいて起き上がる。
「リュ、じゃなくて、ラインズゲート侯爵は?」
「侯爵様なら一足先にグレイスフィールド伯爵領に向かわれました」
マジですか?
俺は、すぐにベッドから出た。
裸だったけどリトは、顔色も変えずに俺に着替えを差し出してくれる。
夕べ、いろいろあったけど俺の体は、ざっと見たところ汚れてもいなかった。
たぶん、リトか誰かがきれいに拭き清めてくれたのだろう。
そこは、精神衛生のためにもあまり深くは考えないことにした。
俺は、身支度がすむとすぐにリトが乗ってきていた伯爵家の馬車に乗り込みグレイスフィールド伯爵領を目指す。
アルディアの街からグレイスフィールド伯爵領までは、馬車で半日ほどの距離だった。
が、それからが長い。
グレイスフィールド伯爵領に入ると急に道が悪路になった。
隣のアルデナール公爵領は、レンガ造りの街道があったのだが、グレイスフィールド伯爵領は、道がレンガ造りではない上にぬかるんでいて馬車の進みが遅くなる。
俺たちがグレイスフィールド伯爵領の領都であるジルトニアの街についたのはその日の夕暮れのことだった。
俺とリトを乗せた馬車が伯爵家の屋敷につくと先についていたリュートが出迎えてくれた。
俺は、なんだか恥ずかしくてリュートの顔を見ることができずうつ向いていた。
リュートは、そんな俺の頬にそっと触れると小声で囁いた。
「待っていたよ、アンリ」
幸いにも溜まりに溜まった領地の書類仕事を片付けるためにリュートは、屋敷の執務室に詰めていたようですぐに執務官たちに連れていかれてしまった。
俺は、ホッと吐息を漏らしていた。
屋敷の執事であるジロウザさんが俺を部屋に案内してくれたが、旅装を解くとすぐに俺は、リュートの待つ執務室を目指した。
リュートに会うのは、すごく気が重かった。
俺は、執務室の入り口に立ってもぞっと腰を揺らす。
リュートの所有の証である銀のリングは、ずしりと重く、俺を捕らえている。
冷たい筈の金属のリングがなぜか、熱く感じられて。
俺は、もどかしいため息をついた。
だが、いつまでもドアの前で立ち尽くしているわけにはいかない。
俺は、思いきってドアを叩いた。
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