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第50話 領主代理
5ー10 絶対、はずさない
翌日、俺とリュートは、ラインズゲート侯爵家の馬車でクルシキへと向かった。
俺たちの馬車の後ろを救援物資を積んだ荷馬車が続く。
騎士たちに先導されて俺たちは、馬車を走らせた。
クルシキまでは、領都ジルトニアからおよそ半日ほどの距離だ。
一刻も速く町へ向かいたい。
そう俺は、思いつつ熱い吐息を漏らした。
「どうした?アンリ」
リュートが俺の顔を覗き込んでくる。
俺は、思わず涙目になっていた。
昨夜。
俺は、リュートに抱かれるのを拒むためにリトからもらったラトグリフさんの用意してくれたという薬をリュートに盛った。
その結果。
俺は、リュートに抱き潰されていた。
なんで?
「すまなかった、アンリ」
リュートは、俺に謝った。
「初めてのことだし、手加減するつもりだったんだが、できなかった」
早朝、リュートは、まだぐったりとしてベッドに横たわっていた俺を抱き上げてキスをした。
「お前があまりにもかわいくて」
嘘です!
俺は、ぎりぎりと歯軋りしていた。
絶対にあの薬が怪しい!
何が俺が慣れない旅で眠れなかったら、だ!
絶対、あれは、怪しげな薬だったに違いない!
俺は、朝一で薬の小瓶を窓から外へと投げ捨てた。
こんな怪しい薬を盛ったなんてばれたら、どんなことされるか!
俺は、生まれたての小鹿のようにぷるぷるなりながらもなんとかリトに頼んで身支度を整えようとした。
けど、それをリュートが阻んだ。
リュートは、自ら俺の体を清め服を着せると馬車まで俺を抱いて運んでくれた。
というか、みんなの目が痛いし!
被災地への救援に向かうっていう日に歩けないとか!
それも、前日、抱き潰されて!
恥ずかしすぎて!
俺は、静かに怒っていた。
リュートは、俺に妙に優しくて。
馬車の中でも俺を離すことなくかいがいしく世話を焼いてくれた。
けど!
俺は、誤魔化されはしない!
これは、リュートが悪い!
俺がふて腐れてリュートを無視していたらリュートがしゅんとしてしまった。
「すまない、アンリ。ほんとに私が悪かった。許してくれ」
リュートに素直に謝られて俺は、ちょっと驚いていた。
なんか。
大型犬?
というか犬じゃなくて狼っぽいけどな。
でも、必死に反省している姿がなんだか憎めない?
「はずしてくれたら、許してあげます」
俺は、ぼそっと呟いた。
リュートは、飛び付いてくる。
「何をはずして欲しいんだ?アンリ」
何をって!
決まってるじゃん!
「あ、の、リング、を」
俺が思いきって言うと、リュートは、すげぇいい笑顔になる。
「ダメだ」
はいっ?
なんで?
リュートは、俺の唇にキスをする。
ちゅっと音をたてて俺の唇を吸うとリュートは、俺に囁いた。
「絶対、はずさない」
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