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第53話 新しい町

 6ー3 神霊  『その者がお主の守り主かぇ?』  どこからか声が聞こえる。  俺は、リュートの背中越しに鳥居もどきの方を見た。  そこには、長い白い髪の美しい少年が立っていた。  うん?  白い着物に赤い袴?  巫女さんみたいだな!  『応えよ!異郷の者よ!』  「ふぇっ!?」  俺は、リュートにぎゅっと抱き締められていて身動きがとれなくて。  唯一自由になる右手でぽんぽん、とリュートの背中を軽く叩く。  「アンリ?」  「もう、大丈夫、です」  俺は、リュートの腕の中から離れると鳥居の前へと進み出た。  「あなたは、何者なんですか?」  『我は、イキナムチ。この地を守護する神霊じゃ!』  イキナムチ?  なんか厄介そうなの出てきたな!  俺が思っていると、背後からリュートが声をかけてきた。  「アンリ、そこに何か、いるのか?」  うん?  俺は、イキナムチを指差した。  「そこにいますよね?」  「いや。私には、何も見えない」  リュートに言われて俺は、ロングィユの方を見たが、ロングィユも首を振る。  「私にも何も見えません」  マジですか?  俺がぱちくりと瞬きしているのを見てイキナムチが口を開いた。  『普通の者には、我の姿は見えぬ』  そうなの?  俺は、とにかくイキナムチに礼を言うことにした。  「うちの領民たちを守ってくれたのか。ありがとう、イキナムチ」  『イキナムチ様じゃろうが!』  イキナムチがぴしゃっと俺に告げた。  『あと、守ったわけではない!この者たちが勝手に入り込んできただけで、迷惑しておったんじゃ!』  イキナムチは、俺たちがみんなを助けにきたと認めてすぐに障壁を解き、みなを解放した。  泥だらけの人々の中から一人の初老の男性が進み出てきた。  「グレイスフィールド伯爵の代理の方ですか?」  俺が頷くとその初老の男性は、俺に膝をついた。  「わたしは、クルシキの町の町長ライゾと申します」  ライゾが話すには、土砂崩れがあった日、町の人々は、全員、イキナムチの神の祭りのため、この岩穴の付近に集まっていたらしい。  そのおかげでクルシキの町の人々は、土砂崩れから守られた。  「クルシキの町の守り神であるイキナムチ様が我々を土砂崩れと魔物から守ってくださったのです」  マジか!  とりあえず俺たちは、この岩穴から出ることにした。  ライゾの話では、怪我人とかはいないらしいが、食料が足りずみな飢えているようだ。  リュートがすぐに手配し、食料と清潔な衣類が人々に配られた。  俺は、服を着替えて乾いた場所に集まって配られた保存食を分けあっている領民たちの様子を伺いながらリュートに相談した。  「この人たちに安全に過ごしてもらうためにも近くの町に移動する方がいいのでは?」  「それは、無理だ」  リュートが首を振る。  「ここから隣の町へ行くには山を越えなくてはならない。もうそろそろ日も暮れるし、今夜は、ここで夜営した方がいいだろう」    

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