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第54話 新しい町
6ー4 イキナムチ
俺とリュートの指揮のもと、土地が乾いている辺りを選んで領民たちも総出でテントを張ることになった。
俺たちは、夜営に選んだ場所の周囲に焚き火を炊き魔物を防ぐことにする。
領民たちの中の年取った者と子供が焚き火の担当になり、他の者たちは、テントを張ったり食事の準備をしたりしていた。
「少し、休憩したらどうだ?アンリ」
リュートに促されて俺は、夜営地を見渡せる小高い場所に腰を下ろした。
隣に座ったリュートが俺をそっと抱き寄せる。
ちょっと恥ずかしくて顔が火照る。
だが、日が暮れて辺りの気温も下がってきているせいか、リュートの温もりはありがたかった。
すぐに一緒に来てくれていたリトがお茶を用意してくれる。
「ありがとう、リト」
リトは、頬を染めて頷くとすぐに下へと戻って行った。
ほんと、気がきくよな。
俺は、リュートの腕に抱かれてお茶をすすってほっと一息ついていた。
まさか、町の住民が全員、無事だったとはな。
俺は、ふっと口許を緩める。
もしかしたらグレイスフィールド伯爵が命と引き換えにみんなを守ったのかもしれないな。
というか。
イキナムチ様って、何?
俺は、眉をひそめる。
神様なんて、ほんとにいるんだ?
「どうしたんだ?アンリ。何を考えている?」
リュートの声が側で響いて俺は、びくっと肩を震わせる。
この人、無駄にいい声してるな!
リュートは、俺の頬に触れるとつぅっと撫でる。
「よかったな、アンリ。領民たちが無事で」
「あ、ああ」
俺は、リュートから視線をはずして頷く。
顔が熱い。
丘の下からロングィユがリュートを呼ぶ声が聞こえてリュートが舌打ちして体を離した。
「すぐに戻る」
俺は、丘を降りていくリュートの姿をじっと見つめてため息をついていた。
ほんとに、普通に頼りになる人なんだけどな。
仕事もできるし、優秀だし。
顔も、いいし。
趣味があれでなければ、モテるんだろうな。
『趣味があれとは?』
「うん?」
俺は、こくっと手に持っていたカップの中のお茶を飲んだ。
「あの人、ちょっと、その、変態だから」
『ほう、そうなのか?』
俺は、慌てて背後を振り向く。
そこには、白髪の美少年が立っていた。
「イキナムチ!?」
俺は、ぎょっとして無表情な美少年を見上げた。
「なんで、ここにいるわけ?」
俺たちが岩穴を出てくるとき、イキナムチは姿を消していたので俺は、てっきりイキナムチは、あの場所から離れられないのだとばかり思っていたんだが、どうやらけっこう自由に動けるようだ。
イキナムチは、俺の隣に腰を下ろすとその赤い紅玉のような瞳で俺を見つめた。
「あの男は、お主の番なのであろう?」
はい?
俺は、口に含んでいたお茶をぶっと吹いてしまった。
慌てて口許を拭い、イキナムチに向かい合う。
「あの人、リュートは、ただの俺の」
そこまで言って俺は、黙り込んだ。
リュートは、俺の。
はっきり言えば、ただの愛人だろう。
だけど。
『ただの、なんじゃ?』
俺は、イキナムチに問われてうつ向いた。
「あの人は、俺のご主人様、だよ」
『ご主人様?』
イキナムチがふむ、と首を傾げた。
『お主は、あやつの性奴ということかの?』
性奴。
その言葉は、俺の心にずしっとのし掛かった。
確かに、俺は、グレイスフィールド伯爵家のために便宜をはかってもらうのと引き換えに愛人契約をしたわけだから。
リュートにとっては、俺は、性奴みたいなものなのかもしれない。
でも。
俺は、唇に触れて熱い吐息を漏らした。
リュートの俺に触れる指先。
唇。
あの熱は、それ以上の何かを感じさせて。
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