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第55話 新しい町

 6ー5 魔法  イキナムチは、俺のことをまじまじと見つめていたがやがてふいっとそっぽを向いた。  『つまらんの』  はい?  俺は、なんのことかもわからなくてキョトンとしていた。  「何が?」  『お主、気づいておらんの?』  イキナムチがつまらなさげに唇を尖らせる。  『そんなにもあやつの魔力を体に纏わせていながらその使い方もしらんのかぇ?』  「あやつの、魔力?」  俺が聞き返すとイキナムチが信じられないものを見るような目で俺をじっと見つめる。  『あの、お主のご主人様とやらのことじゃ!』  俺は、昨夜のことを思い出して顔が熱くなる。  そうだった。  あいつは、俺の感度がよくなるとかなんとか言ってずっと俺の中に魔力を注ぎ込んでいた。  リュートが俺に注ぎ込んだ魔力量は、俺の受け止めきれる量を超えてて。  きっと、溢れ出た魔力がまだ、俺にまとわりついているんだろう。  俺は、そう、理解していたが、イキナムチがはぁっとため息をついて頭を振った。  『お主なぁ。そんな身の上で生まれていながら己の力の使い方も知らんのかぇ?』  俺の力の使い方?  俺は、ぱちぱち、と瞬きした。  確かに、俺は、アンギローズだし、神殿でもかなりの能力を秘めていると言われたかもしれない。  でも、俺は、魔法をあまり知らないし!  昔から自分がアンギローズだということを隠すためにできるだけ魔法は使わないようにしてきたし、ほんとなら15歳で入学するはずだった貴族学院にも入学できなかったからな。  ほぼほぼ魔法を使ったことがない。  まあ、うんと簡単な生活魔法ぐらいなら知らないことはないんだけど、それすら普通と違うことがばれないようにって使わないようにしてたし。  「俺、魔法の使い方を知らないから」  俺がうつ向いて呟くと、イキナムチがふん、と鼻を鳴らした。  『なんじゃ、使い方も知らんのか。なら、我が教えてやろう』  「マジで?」  俺は、ぱっと顔を上げてイキナムチを見つめた。  イキナムチがにかっと美少年らしくもない笑顔を見せる。  「まずは、ちょうどいい的がおることじゃし、攻撃魔法からいくかの」  うん?  俺は、首を傾げた。  ちょうどいい的って?  「アンリ!」  下からリュートが呼ぶ声が聞こえた。  「逃げろ!」  はいっ?  俺が何から、と聞こうとしたとき、イキナムチが俺の肩を叩く。  『まずは、あれを倒してみるがいい』  えっ?  俺は、イキナムチが指差す方を見た。  「なんでっ?」  俺から100メートルほど離れた天空から巨大な赤いドラゴンが迫っていた。  俺は、腰が抜けて!  だって、そうだろう?  生まれて初めて見る魔物があんなのって!  どうすればいいわけ?  「あ、あっ……」  俺は、恐怖のあまり声もでなくて。  涙が溢れて。  もう、だめかも。  俺が覚悟を決めかけたとき、イキナムチがはぁっとため息をついた。  『何をびびっておる?』  「あっ……でも、こんな、の」  俺が泣きながらちらっと横目でイキナムチを見ると奴は、やる気なさげに俺を覗き込んだ。  『よいか?お主には、身体中に溜め込んだ魔力がある。それをこう』  イキナムチが片手をドラゴンに向けて差し伸べる。  『的に向けて放てばよいのじゃ』  ええっ?  俺は、ぶるぶる震えながらイキナムチに言われるように手のひらをドラゴンの方へと向けて叫んだ。  「お願いしますぅ!」

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