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第62話 領地再建
7ー2 守り神
「まさか、ご領主様がイキナムチ様の御子であられたとは!」
ライゾさんは、ひれ伏したまま顔も上げずに俺に話した。
イキナムチの御子?
俺が?
なんのことやらわからずに俺が途方にくれているとそっと肩口で誰かが囁く。
『まあ、間違えではないの』
「イキナムチ様!」
俺が小さく声を上げるとライゾさんがびくっと体を震わせる。
俺は、イキナムチを指差してライゾさんに呼び掛けた。
「ほら、ここ!ここにイキナムチ様が!見えますか?」
ライゾさんは、すっかり怯えた様子でふるふると震えている。
俺は、ため息をついた。
「あんた、この人たちに何をしたんだよ?」
『ああっ?』
イキナムチが心外というように眉をひそめた。
『ちょっと木を切りすぎたらいかんぞと教えてやっただけじゃが?』
「どうやって?」
俺の問いにイキナムチは、ふいと視線を外す。
『話すほどでもなかろう』
いやっ!
町の人がこんなにびびるほどのことをしたんでしょうが!
俺は、そっとライゾさんの肩に触れた。
「もう、大丈夫ですから。イキナムチ様ももう、悪さはしません」
「本当ですか?」
ライゾさんががばっと顔を上げるとまた涙を流すので俺は、優しく微笑みながらその背を擦る。
「本当です。イキナムチ様は、もう、暴れたりされませんからね、ライゾさん。町の他の人たちにもお伝えください」
「はいっ!」
ライゾさんが泣きながら微笑むとだっとテントから駆け出していった。
俺は、その様を呆気にとられて見送るとため息をついた。
「で?なんで町の人たちは、こんなにイキナムチ様のことを恐れてるんですか?」
『恐れてなどおらぬわ!』
イキナムチがぷんすか怒って俺に力説する。
『我は、このジポネスの守り神じゃからの。この地の住人は、みな、我にとってはかわいい子じゃもの。なんで怖がらせるものか!』
うん。
それからじっくりと聞き出したところ、イキナムチは、クルスキの人々が山の木を切りすぎたことにより土砂崩れがおこることを予想し、木を切るのを止めさせようと使い魔を使っていろいろな嫌がらせをしていたらしい。
不幸なことに、町には、今、イキナムチの声が聞ける巫女がいなかった。
そのため、伝承から山で暴れている魔物がイキナムチの使い魔であるだろうことはわかるがなんで暴れているのかは、まったく理解できなかったのだ。
そして。
実際にイキナムチが恐れていたことは起こった。
幸いだったのは、町の人々がイキナムチを静めようとイキナムチのもとに集まっていたこと。
そのおかげでイキナムチは、災害からも、その後の魔物たちからもみなを守ってくれることができたのだった。
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