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第68話 領地再建

 7ー8 整地※  「魔法で整地するって!?」  リュートは、驚愕を隠せない。  無理もない。  この世界における魔法は、そんな強大なものではない。  もちろん戦場で使用されるような魔法もあるけれど、それだって何人もの魔法師が協力して魔力を集めることで発動するものだ。  だから、俺がこの窪地の整地を1人で行うなんてことは、考えられないことだった。  俺もまったくできる気がしないんだが、イキナムチがやれる、っていうから。  「イキナムチ様がお力を貸してくださるとのことだし、できるかどうかは、わからないけどやってみたいんだ」  俺は、その場にいたみんなに訴えた。  もし、俺がこの町を整地できなければ、ここの人たちはどうなるんだ?  いつ、魔物が来るかもわからない場所でびくびくしながら生活しなきゃいけないなんて、ダメだ!  いくらイキナムチの守護があるにしてもこのままここでテント暮らしとかしてたらきっと疫病の温床になりかねないし!  それに。  俺の魔法の先生であるイキナムチは、俺を欺いたりしない。  イキナムチができるというのだから、きっとできるのだ!  俺は、いったん全ての町の住民と救援にきた人々をこの山地に囲まれた窪地の外へと退かせた。  回りを山に囲まれた土地の1ヵ所だけ山の途切れている辺りは、広い沼地になっていて足場が悪い。  この沼地を挟むように2つの川が流れていてこの沼地の端で合流する。  そこまで行けば安全な町があるんだが、この人数で魔物が多い沼地を町まで行くのは難しい。  イキナムチの守護が行き渡るのは、この山地に囲まれた窪地だけなので、窪地の入り口辺りにみなが集まっている今は、とっても危険な状態だった。  「1日……いや、半日だけ、みんなを守ってください!」  俺は、リュートとロングィユたちに頼んだ。  「お任せください、アンリ様」  ロングィユが笑顔を見せたが、リュートは、相変わらず渋い顔をしている。  「いいか、アンリ。異国の神がなんと言おうと無理はするな!」  「わかってます、ラインズゲート侯爵様」  俺は、半日分の食料と水をいれた鞄を背負うと1人、土砂に流された町の跡地へと向かって歩き出す。  と。  リュートが俺の腕を掴んで引き留める。  「侯爵様?」  「リュート、だ」  リュートが金色に輝く月のような瞳で俺を見下ろす。  「な、」  リュートは、いきなり俺の唇を奪った。  深い口づけに俺は、足が震える。  リュートは、俺を抱き締め俺の舌を吸いながら遠慮なく魔力を送り込んできた。  「ん、ふぁっ」  ようやくリュートが俺を離した時には、俺は、もう、リュートの魔力に反応して体が熱く猛っていた。  「しっかり自分がするべきことをやってこい、アンリ」  リュートが俺をぎゅっと抱き締めた。  俺は、いろいろ言いたいことがあった。  今さらだけど、町のみんなも見てる前でこういうことしないで欲しいし、魔力が溢れるほど入れないで欲しい。  だけど。  俺は、リュートの背をぽんぽん、と叩くとこくりと頷いた。  「了解、しました……リュート、様」  

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