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第79話 始祖の再来
8ー9 町並み
『嫉妬じゃな』
俺を抱いて歩くリュートの肩の辺りをふかふかと漂いながらイキナムチがくくっと笑う。
『お主の達した後の余韻の残る顔を誰にも見せたくなかったのじゃろ』
はい?
俺は、こっそりとリュートのことを見上げる。
何事もなかったかのような普段とまったく変わらない表情。
ふと、下を向いたリュートと目が合い俺は、慌てて目をそらす。
胸が早鐘を打つ。
俺、どうしちゃったの?
こいつは、俺を理不尽にも愛人にして弄んでいる男なのに!
俺は、流されやすい自分の性格に腹が立っていた。
「なんと、美しい!」
ライゾさんたちの感嘆の声に俺は、はっと前に拡がっている町並みに意識を戻す。
そこには、明らかに日本の普通の町並みがあった。
というか。
俺が知ってる懐かしいちょっと昔の日本の風景だな。
色とりどりの瓦屋根に白壁の可愛らしい家の並びにみな、感心していた。
「しかし、変わった建物ですな。見たことない建築様式です」
一緒に着いてきていたロングィユがきょろきょろと町を見回す。
「あれは、なんなのですか?アンリ様」
ロングィユは、町のあちこちにたっている木製の電信柱を指差す。
なんと、町には、電線の張られた電柱があちこちにあった。
「あ、あれは」
俺は、困惑していた。
本来は、電気を各家庭に届けるためのものだが、この世界には、電気とかの考えはないし。
すべての魔道具は、魔石をエネルギー源にしているからな。
「将来的に、魔石なしで生活できるようにあれを使って魔力を各家に届けるようにできたら、と思って」
俺は、ほんとに適当なことを言ったんだが、みなは、すごく感心してくれて、俺は、ちょっと申し訳ないような気持ちになる。
「それから、通信の手段にもなるかも!」
「通信、ですか?」
ライゾさんが食いついてきたので俺は、驚いていた。
「う、うん」
俺は、リュートの腕に抱かれて運ばれながら言葉を濁した。
「その、ちょっとした連絡とかに使えたらと思って」
「どうやって使われるのですか?」
ライゾさんに聞かれて俺は、うぅ、っと呻く。
「それは、おいおい」
「通信手段に使うのであれば、それは、極秘事項にした方がいいな」
リュートが口を挟んだ。
「もしかしたらお前たちが思う以上に価値のあることかもしれん」
「そ、それは、確かに!」
ライゾさんが頷く。
俺たちは、俺を抱いたリュートを先頭にしてずらずらと並んで傾斜のある町を上まで歩いて行った。
町を見渡せる高台の上には、立派な洋館が建っていた。
といっても他の家と同じで屋根は、瓦屋根だし、壁も漆喰で塗られていた。
あくまでも昔の洋館っぽい。
屋根の上に風見鶏がついていて風に吹かれて回っていた。
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