81 / 111

第81話 黄金の小都

 9ー1 始祖  最後に、部屋の角にちょこんとあったドアを開く。  そこは、どうやら隣の部屋と繋がっているようだった。  「続き部屋?」  俺が中を覗き込んでいるのを見てリュートがふっと口許を緩めた。  「領主の伴侶の部屋だ」  マジですか?  俺は、そっと扉を閉める。  うん。  よく考えたら、俺は、あくまでも伯爵代理、領主代理だ。  いつか、ロゼス君がグレイスフィールド伯爵になったらきっとこの部屋をロゼス君のお嫁さんが使うことになるんだろう。  俺は、なんだか寂しい気持ちになっていた。  ぽん、とリュートが俺の頭に手を置く。  「そんな顔をするな」  「うん」  俺は、弱々しく微笑んだ。  俺は、ロゼス君のために伯爵代理を引き受けたんだし!  欲を出したらあのロゼス君の叔父さんたちと同じじゃないか!  俺は、ぶんぶん、と頭を振った。  「お腹空きませんか?リュート様」  俺は、わざと明るく振る舞う。  「ちょっとリトに頼んで軽い食事を用意してもらいますね」  「それなら、私が頼んでくる。お前は、ここで休んでいろ」  そう言うとリュートは、大きな窓の前に自分が着ていた上着を脱いで敷いた。  「ゆっくりと腰かけて待ってろ、アンリ」  リュートは、俺の頭を優しく撫でると部屋から出ていった。  俺は、1人になるとベランダに面した大きな窓の前に歩いていく。  窓からはベランダに出れるようになっていた。  かなりの広さがあるベランダからは、クルシキの町が見渡せている。  俺は、窓を開けると外に出た。  爽やかな風が吹いてきて俺の長い銀の髪がなびく。  うん。  春の香りがする。  俺は、ベランダの手摺にもたれてのんびりと空を見上げた。  回りの山は、木の切り過ぎで所々が剥げているし、課題は、まだまだたくさんある。  当分は、忙しそうだな。  俺が考えているとイキナムチの声が聞こえた。  『これだけのことを成したんじゃもの。もっと、晴れやかな顔をしたらどうじゃ?アンリよ』  「イキナムチ様」  俺は、空に浮かんでいるイキナムチを見上げる。  「ほんとにこれでよかったんでしょうか?俺、不安で」  『魔法は、対価が伴うもんじゃ。お主の魔法は、魔力を対価としておる。この町のすべての物は、お主の魔力でできておるわけじゃ』  イキナムチが誇らしげに胸を張った。  『こんな見事な魔法を見たのは、彼の国の始祖である者以来のことじゃ』  

ともだちにシェアしよう!