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第88話 黄金の小都
9ー8 米を作る?
「でも、これは、ロゼス君から預かった大切なものなので俺の一存では依り代とかにはできかねますが」
俺が言うとイキナムチは、ちっと舌打ちした。
『けちじゃのう。ちょっと神が入るぐらいよいではないか』
うん。
俺は、考え込んでしまう。
グレイスフィールド伯爵家の宝剣がアララギの剣であり、なおかつ、イキナムチの依り代となりうる物であることは、すごく意味のあることなのかもしれない。
それによって今は、このクルシキのみを守護してくれているイキナムチがグレイスフィールド伯爵領全体を守ってくれるならそれは、いいことなのかも。
「わかりました」
俺は、イキナムチをじっと見つめた。
「この剣をとりあえずイキナムチ様の依り代(仮)としてお使いいただいて、共に王都に行ったおりに本来の家長であるロゼス君に相談してみましょう」
『よいのか!』
イキナムチがぱぁっと顔を輝かせる。
『ならば、善は急げじゃ!』
イキナムチは、さっそく宝剣に宿ったので俺は、短剣を手にどうしたものかと考えていた。
「あの、イキナムチ様、実は、まだ、お話があったのですが」
『なんじゃ?』
手に持った短剣からイキナムチの声が聞こえる。
俺は、短剣を捧げ持ったままで話した。
「このクルシキ、ひいては、伯爵領のことなんですが」
俺は、このグレイスフィールド伯爵領がなんの特産物もない貧乏な領地であることをイキナムチに話した。
金の鉱脈があったとしても、それだけでは心もとない。
なにしろ金は、そのままじゃ食べられないからな。
「これまでは、なんとかクルシキで伐採した木材を売って暮らしてきましたがそれも、ここ数年は、商品になる木々を伐採しつくしたため、売れなくなっていました」
『で?』
イキナムチが問う。
『何がいいたい?』
「はい。つまり、これからこの領地の人々が生活していくために、どうしたらいいかと思いまして」
俺が言うとイキナムチがふん、と鼻を鳴らす。
『まったく人間と言う奴ばらは!そんなことも自分でなんとかできんのか?』
「いえ、その」
俺は、イキナムチの剣幕に怯んでいた。
「ただ、ちょっと、そのことでご相談がありまして」
『なんじゃ?』
警戒するようなイキナムチの声に俺は、にっこりと微笑んだ。
「たいしたことじゃないんですが。ただ、このクルシキの辺りの沼地を土地改良して米を作れないものかと思いまして」
『米、か?』
イキナムチがむっと黙り込む。
俺は、イキナムチの答えを待った。
しばらくして、イキナムチが答える。
『実は、あれは、もともとこの世界のものではないのじゃ』
イキナムチが言うには、米をこの世界に持ち込んだのはアララギなのだという。
『我は、アララギに望まれて米が育つ環境を整えてやっただけなのじゃよ。もし、お主が米を育てたいというなら我も協力してやらんことはないが』
イキナムチが呻く。
『一応、ラザに米を備えて報告する方がよいじゃろな』
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