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第91話 故郷
10ー1 田畑
翌日、俺は、リュートとクルシキの外へ出た。
そこには、レンガで舗装された街道が通り、その両側には、四角く区切られた田畑が拡がっていた。
「土地を改良したのか?」
リュートが俺を抱いたまま田畑の畦道を歩いていく。
俺は、郷愁を感じていた。
俺は、前世でこんな風景を見たことはなかった。
なのに、なぜか、懐かしい。
「これなら麦を作ることもできそうだが」
リュートが辺りを見回して言うので、俺は、うーん、と呻いた。
「それでもいいかもしれないけど、俺は、ここで米を育てたらどうかと思ってるんです」
畔道の脇をきれいな水が流れているのを見て俺は、ふっと口許を緩める。
この土地は、水が豊かだ。
「あれは、なんだ?」
リュートが水路のところに建っている小屋を示して訊ねる。
見てみるとそれは、水車小屋だった。
水の力でからからと水車が回っているのを見て俺は、ちょっと驚いていた。
こんなものを自分が造っていたことを俺は、知らなかった。
そうか。
俺は、上着の上から胸元の短剣に触れた。
これは、イキナムチの記憶だ。
かつて、アララギが造ったのであろうジポネスの光景。
今は、まだ、冬だが、これから春がくればこの場所で農作物を作ることができるだろう。
「この沼地にいた魔物は、どうなったんだ?」
リュートが俺を水車の横の畔に下ろし、自分も座り込む。
俺は、きらきらと輝く水流を見ていた。
「うん。魔物は」
俺が答えようとしたとき、遠くからのどかな動物の鳴き声が聞こえた。
目をこらすと田んぼの中で草を食んでいる黒い獣の群れがいるのがわかった。
あれは。
水牛?
俺は、魔物と共生できないかと思っていたが、まさか、魔物も造り変えることができたのか?
「魔物か?」
リュートが身構えるが、魔物らしきものたちが俺たちを攻撃しようとすることはなかった。
「田畑を耕すには、あれが必要になるから」
俺は、リュートに説明した。
リュートは、奇妙な顔をする。
「田畑を作るのに魔物が役立つのか?」
「あれに特殊な農具を取り付けて土地を耕すんだよ」
俺は、話ながらも首を傾げる。
俺には、農具の知識もない。
その辺りは、イキナムチに頼るしかないかも。
俺たちがのんびりとしていると町の方から人影が近づいてくる。
うん。
ライゾさんだ。
俺は、ライゾさんに手を振った。
ライゾさんは、畦道を走って俺たちの方へとやってきた。
「これは、いったい?」
きょろきょろと辺りを見回しているライゾさんに俺は、まず、座るようにとすすめる。
ライゾさんが俺たちの隣に腰を下ろすと俺は、ライゾさんに沼地の土地を改良したことを伝えた上で頼んだ。
「この田畑で米や野菜を作って欲しいんです」
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