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第94話 故郷
10ー4 救世主
俺は、まず、リュートとロロに頼んで収入の記された書類と支払いの記された書類をわけることにした。
その間に俺は、今の帳簿を見せてもらう。
うん。
収入も支払いも同じように書き込まれていてまったくわかりにくい。
これでは、今現在のグレイスフィールド伯爵家の資産状況もわからないし。
俺は、新しい帳簿を用意して欲しいとロロに頼む。
ロロは、ぶつぶつ言いながらも新しい帳簿を出してくれた。
この世界では、動物の皮から作った羊皮紙を使用している。
しかし、羊皮紙は、価格も高いし使い勝手があまりよくない。
「植物から作られた紙は、ないの?」
俺が聞くとリュートもロロも意味がわからないというような顔をしていた。
「植物から紙が作れるのか?」
マジですか?
植物から作られる紙は、この世界には、ないんですか?
俺は、ぽぅっと手に魔力を流した。
ふぅっと白い紙が何もない空間から現れた。
「これが植物から作られた紙」
俺が『創造』した紙は、どうやら和紙のようだった。
リュートとロロは、俺の渡した紙をまじまじと見ていたが、やがて、口を開く。
「これが、紙?」
「そうだな、確かに、紙だ。それに字が書きやすいし、薄くて軽い」
リュートがさらさらとペンで何か書きなぐる。
「これは、いいな。これは、どこから出てきたんだ?アンリ」
「イキナムチ様がっ!」
俺は、慌てて答える。
「昔、あの辺りでは、こういう紙が使われていたって」
「イキナムチ様?」
ロロがいぶかしむような顔をするので俺は、クルシキの守護者であるイキナムチの話をした。
「そんな、土着の神様がいたんですね。それの御子がアンリ様だと?」
ロロに問われて俺は、頷く。
ロロは、低く呻いた。
「ほんとに信じられない!あの災害からクルシキの人たちが守られていたこともですが、その後のアンリ様の魔法……『創造』ですか?それも、ちょっとすごすぎて信じがたいし。それに金鉱のことも!」
ロロは、興奮状態で部屋の中をうろうろと歩き回る。
「まったく信じられない!これが本当なら、アンリ様は、このグレイスフィールド伯爵家の救い主ですよ!」
ロロは、俺の手をがしっと握った。
「ほんとに、前伯爵様がどこの誰ともしれない、貴族学院も出てない男を嫁にするとか言い出したときは、また、いつもの奇行が始まったと思ったんですが、アンリ様!あなたこそは、我々の救世主です!」
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