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第4話

くっそ、と内心悪態をつきながらパーカーを絞る。 冷たい水を浴びたおかげでいくらかマシになった腰にムチを打ち、先程全身を洗い終えた。 しかしくっそいてぇ ブルブルと頭を振ってバスルームから出ると、脱衣場には一応端の棚にタオルが置かれていた。勝手に使って....いいな。 それを1枚とって髪の毛を拭く。 ガシガシと拭き終わると、次は全身を拭いて、ようやくさっぱりとする。 拭く時に見えた至る所にある事後の痕。特に太ももにつけられているそれに眉を寄せてため息をつく。 仕方ないと諦め切れるものでは無いが、ここまで来たら諦めるしかない。 悩んだり、怒りを続けたりするのが得意でない俺は早々に諦めた。 パーカーは無事ではないが、一応パンツとジーパンは無事なはずだ。 パーカーも仕方がないがこれを着て帰ろう、気が重くなる事だが諦めて着ようとすると、タオルの横にシャツが置かれているのに気付く。 .....着ていいのか? 真っ白で高級そうなシャツが雑に置かれている。パッ!っと広げると、俺の体格には合わない。むっちゃでかい。 オーバーサイズにも程がある。 着れるか!とたたき落としたい気分になるが、高級そうなので諦めて綺麗に畳んで元の位置に戻す。 なんで俺こんなことしてんだろ。 自分で自分につこっみながら腰にタオルを巻く。ジャックの体を見たあとに、自分の貧相な体を晒すのは嫌だが仕方ない。 貧相って言っても日本人の平均的な体重はあるからな! パーカーを片手に脱衣場を出ると、いい香りが漂ってきた。 匂いにつられてダイニングキッチンに向かうと、キッチンにはジャックが立って料理をしていた。 その香りのせいでグ〜っと素直になる俺のお腹の音に気づいたジャックは、俺の方を見た。 「あ?シャツ置いてただろ。」 ほぼ裸の俺を見て首を傾げる。 「あれでかいだろ」 「サイズねーんだから文句言うな」 「チッ」 一応俺のために用意したのか、と思い脱衣場にシャツを取りに行き着る。 .....でけぇ。 第二ボタンまで止めても肩が見えるほど首はデカいし、手は完全に隠れてしまった。足は太ももまでおおっており、身長とガタイの違いに何だかムカつく。 チッと舌打ちをこぼして脱衣場を出る。 キョロキョロと見渡しても俺のジーパンとパンツは無い。 仕方ないのでタオルを巻いたままにして、もう一度ダイニングキッチンへ向かう。 「.....デカイな」 「うるせぇ」 腕の部分を何重にも折る。 バカにするように言ってくるジャックを無視してリビングの方に行くと、俺のパンツを見つける。 なんでこんなところにあるんだよ。 ソファのすぐ横に落ちているパンツを拾い履く。 ジーパンを探すがリビングには無いので、キョロキョロと見渡し、寝室への方向じゃない扉を見つけてそちらへ行く。 すると廊下の途中に落ちており、またなんでこんな所に、なんて思いながらジーパンを回収し履く。 ブカブカのシャツをズボンの中に押し込む。 あと、スマホ見つけたら帰ろう。 廊下からいくつかの扉があるが、開いてないのでそれらは無視してリビングに戻る。 広いリビングを見渡しスマホを探すが見当たらない。 はぁ、とため息をついて行きたくないが寝室の方に行くとスマホを見つける。 サイドテーブルにジャックのだろうと思われるスマホと並んで置いてあるので、自分の分だけを取って画面を開く。 充電は8パーセント。 すくねぇ。昨日の夜までは70近くあったはずだ。なんでこんなに減ってんだよ。 使った覚えが無いのに減っているスマホを見てため息をつく。 替え時、いや、そんな金ねーし。 はぁ、とため息をついて振り返る。 ビクッ!と体が驚いた。 寝室の入口に寄りかかり、ジャックがパンツ1枚の状態で俺の方を見ていた。 なんでパンイチなんだよ、なんて突っ込みたかったが無視をしてそのまま横を通り抜ける。 「寝室に入ってったから誘ってるのかと思ったぜ」 「スマホを取っただけだ」 「あぁ」 納得したように頷きジャックが俺の後を着いてくる。 着いてくんな! 俺は、キッチンには向かわず廊下の方に足を向けると、ジャックはキッチンのに向かう足を止めた。 「どこ行くんだ?」 「帰る」 「飯あるぞ」 「要らねぇ」 「....そうか」 あっさりと引いたジャックに気味悪さを感じるが、廊下の突き当たりにある扉を開く。 .....まじかよ。 部屋から出ると目の前にはエレベーターの入口があり、他の部屋の扉は見当たらない。 マジモンの金持ちかよ、と思いエレベーターのボタンを押そうとすると下に行くボタンしかない。 いや、下にしか行く気ないからいいけどさ、いいけど、いや、ここ最上階かよ。 は?まさかのペイントハウス? 一生縁がないと思っていた高級マンションのペイントハウスに微かに動揺しながら下のボタンを押す。 すると、直ぐに来たエレベーターに乗り込み1階を押す。 ぐんぐんと減って行く数字を見ながらスマホをポケットから取り出す。 まずここがどこだか分からない。 てか、俺の家の近くにこんな高層ビルは無い。 ちょっと離れたあそこか?なんて予想をつけながらスマホ画面を操作していると、直ぐに1階に着いた。 ホテル並みのロビーが俺を向かい入れ、あいつやべぇな、なんて思いながら外に出る。 カラッと晴れた青空は、サンサンと俺に光を降り注ぎ、眩しくてつい目を細める。 目が慣れてきて、ようやく辺りを見渡す。 ........は? 辺りを見渡しついスマホを落としそうになる。慌てて手に力を入れてスマホを支えるが、目の前の光景は変わらない。 目の前には片道4車線の大きな道路、反対側の歩道の奥には大きなビルが立ち並んでいる。 .....冗談だろ。 未だにズキズキと痛む頭を抱えながら後ろを振り返る。 そこには大きなビルで、本物の高級マンションだということがわかる。 あと、俺の家の近辺では無いことも。 持ち物、スマホ。以上。 着てるもの、ジャックのシャツと俺の服ⅹ2 ........帰れるか? 思った以上に見覚えのない所で少し頭が混乱するが、大人しくスマホの地図アプリを立ちあげる。 .....いやいやいやいや、嘘だと言ってくれ。 地図に表示された場所は、俺の家から電車バスを使っても2時間半近く離れた場所。 日本で言うなら県から県を跨いでいる。 嘘だろ。と思いながら交通手段を確認するが、生憎俺の家の近くにはバスも電車も通ってない。 まぁ、まず金がねぇけど。 乗り逃げって言うのも考えたが、どっちを使っても遠いことに変わりはない。 詰んだくね? あ、グレンに連絡しようそうしよう。ケニーは昨日の奴らに捕まってたら使えないのでグレンにしよう、そうしよう。 あいつなら車を持ってるはずだ、と思い通信アプリを開く、前に電話がかかってくる。 .....は?なんで? 画面に表示されたのはジャック・ヴァン・マシューズの文字。 は?俺登録した覚えねぇし、てか俺このスマホ鍵かけてんだけど?え?勝手に登録なんて出来ねぇよな? 混乱したまま通話ボタンを押し耳に当てる。 《「おう、帰れそうか?」》 くすくすと笑い声が聞こえてきそうな声に、ピキっと青筋が浮かび上がりそうだ。 「なんでてめぇが俺の電話番号知ってんだよ」 《「まぁな」》 人の個人情報をまぁなですませんな。 《「帰る手段ないだろ」》 「あ"ぁ"?今から友達呼ぶんだよ」 《「そんな事しなくても、俺が送ってやるよ」》 「要らねえ」 《「遠慮すんな。5分待ってろ」》 「は?」 いるか!と叫ぶ前に通話が切れる。 ぜってぇ乗らねぇ。そう決めてグレンに連絡を入れようと連絡先を開く。 グレン・ルイス・ライナーを開き、電話番号を押すが、かからない。 ? あれ? 画面が一時停止し、首を傾げるのと同時に画面が消える。 え? 電源ボタンを押してもうんともすんとも言わなくなったスマホに、あれ?とさらに首を傾げる。 もしかして、電池きれた? ........まじ? え、やばくね?俺詰んだ? 知りもしない街で俺1人取り残されて、ポツンとぼっちになる。 とりあえず充電、いや、金がない。 いや、ひとまずここを離れて..... 目の前に高級車が滑り込んでくる。 ランボルギーニの高級車で、車を全く知らない俺でも一目で最高級と分かるような作りをしている。 オープンカーに乗って運転しているのはさっきまで話していたアイツ。 ジャック・ヴァン・マシューズだ。 ヒクッと口の端がひきつるのが分かる。 高級すぎる車もそうだし、何より登場が派手だ。サングラスにオープンカー、そしてそれが似合っているのにめちゃくそムカつく。 カチャン、と音を出て内側からドアが開かれる。もちろん高級車の登場と、その乗っている人物のせいで歩行者の視線をいっぱいっぱいに集めいている。 「乗れよ」 「えんりょ.....」 「足ねーだろ?」 見透かされていることにチッと舌打ちをすると車体の低いそれに乗り込む。 ブウォォンと音を立てて車が走り始める。 見た目にたがわず素晴らしい速さで走り出すそれに、高級車に乗った感動よりも嫌すぎて膝に肘を着いて頭を抱える。 「んな感動すんなよ」 「してねぇよ!くそ、スマホの充電さえ持てばてめぇなんかの車に.....」 「あ?もうきれたのか?あぁ、昨日のの夜で10パーきったもんな」 「あぁ、そうだよ、だから充電が.....っては?なんで俺のスマホの充電知ってんだよ」 「ふっ、いいから充電しろ」 鼻で笑われてイラッときたが大人しくスマホを充電に繋ぐ。 見た目にたがわぬ素晴らしいスピードの車は、あっという間にビル街を抜け、少しずつ住宅街に入っていく。 「そういえば、どこ向かってんだ?」 「あ?お前の家に決まってんだろ」 「.....お前に教えた覚えがねぇ」 どうゆう事だ、ということで睨むと、ジャックは楽しそうに笑う。 嫌な予感しかしねぇ。 「知りたいか?」 「いや、いい」 「遠慮すんな」 「チッ」 楽しそうに笑うジャックに、いやいやながらジャックの手元のスマホを見る。 ........//////!!!!! 「てめぇ!な、それ!」 そこのスマホに写っている俺は、ジャックの部屋のベッドの上でパーカー1枚で寝っ転がっているものだった。 「いい写真だろ?」 「ふざけんな!貸せ!消してやる!」 「ははっ、あぶねぇって」 ジャックに掴みかかるが、ジャックがハンドルを切り、グラン!とゆらされる。 「いてっ!」 揺さぶられたことで俺の方の扉に頭をぶつけて蹲る。 なかなか痛い。 いってぇ、とうずくまっていると、嫌な声がスマホから聞こえる。 〈はっん、うん、あぁん〉 微かに漏れる喘ぎ声と、肉と肉がぶつかり合う音が聞こえてくる。 恐る恐る顔を上げると、ジャックは楽しそうに笑いながら右手でハンドルを持ち、左手でスマホを俺の方に見せていた。 そして、そのスマホの画面に移るのは、裸の俺で、ガッツリケツに何かが刺さっている。

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