15 / 43

第15話

文字1章 火のないところに煙は立たぬ  カーテンから差し込む光。眩しさに布団に顔を埋めると、彼の匂いが俺を包む。二度寝したいが、その香りは俺の頭を覚醒させる方向に進ませる。 『功祐』 『ん?』 『起きろ』 慣れ親しんだ彼の声で朝を迎える。うっすらと目を開けると、ぼんやりと彼の顔が浮かび自然と笑みが浮かぶ。 『おはよう』 そう言って笑うと、向こうも笑みを返す。布団から体を起こし欠伸をすると伸びをする。彼がカーテンを開けたのか、朝特有の眩しい日差しが俺を刺す。 『ん〜、朝ごはんはなんがいい?』 『パンがいいな』 『確かフランスパンがあったよな』 『あぁ、ベーコンもサラダもある』 『なら決定だな』 嬉しそうに微笑む彼に笑みを返し、朝ごはんを作るためにベッドから降りる。狭いそのベッドにギリギリ2人で寝ている俺達は、誰が見ても仲のいい同居人だ。 『ん』 『うん』 手を伸ばし、彼の左手を握る。利き手では無いその腕に握られたことにより、無意識に右腕に目線が集中する。 ピクリともしない右腕を、ゆっくりと俺の左手で撫でる。半袖のシャツから見える大きな傷の縫い跡。力なく垂れ下がるその腕は、俺が撫でても動く気配はない。 『くすぐったい』 『あ、あぁ、』 動かなくても感覚だけはあるその腕から、手を離し歩き始める。狭いアパートの一室では、寝室を抜ければ直ぐにリビング、キッチンと続く。リビングのソファに彼を座らせ、1人でキッチンに立つと包丁とフランスパンを手に取る。 左手を添え、フランスパンに刃を当て、力を入れるとサクッとした音が響いて切れる。 ———————————————————— 「んんっ」 重い、と思いながら目を開けると、目の前に見えるのは整った白人の顔。何度か瞬きをすると、頭は完全に覚醒する。 ジャック・ヴァン・マシューズ。意味のわからない奴らに追いかけ回され、これまた意味のわからないこいつに出会い酒を飲み、そのまま俺の処女を奪っていったこいつと同居し始めて早数週間。夜の営みも、昼間でも手を出してこようとするこいつの行動にも慣れてきた。 『何でも言うことを聞く』の対価としてジャックが求めてきたのもは、俺が女役になることだった。別に偏見はないし、自分が、となるとちょっと違ったが1度やってしまえば慣れ始めた。ムカつくことにこいつは上手いし、毎回意味が分からなくなるほど快感に付け込まれてしまう。最初の方は自分が嫌だったが、受け入れてしまえばそれまでだ。 「ん、まだ、早い」 若干ジャックが覚醒したのか、カーテンの隙間から光が差し込んでないことに気づいて、俺に乗せている手にさらに力を入れる。 この同居でわかったこと。ジャックは意外に朝が弱い。俺が起こしても起きないことなんてざらにあるし、休日なんか下手したら腹が減るまで起きてこない。  あと、手料理が好きだ。俺が料理している時に盛って来ようとした時はぶん殴ったが、別に料理をやめろと言う意味ではないらしくただふつーに手料理が好きらしい。作るようになってからは、手料理じゃないと不機嫌になる程だ。あと、右の首から肩、右の腰から太もも辺りにタトゥーも入っている。グレイよりも少ないが、なかなかの量と細かい絵がたくさん書かれている。 ベッドの端、結構遠い所にあるスマホを取って時間を見ると、時刻は5時30分。俺も大学は休み、ジャックも今日は練習が無いため、丸一日休みらしい。 予定を確認してもう一眠りするかと思うが、夢見が悪かっただけに少し悩む。このまま寝てもいいが、もう一度寝て同じような夢を見たら俺の今日のテンションは最低だ。それに機嫌を悪くしたジャックが明日チームメイトに当たる姿も目に見えるように分かってしまい、ため息を着くと寝ることを諦める。 「おい、寝らねぇ、のか.....」 今にも寝てしまいそうな声音で問いかけるジャックに、寝ろよと呆れた顔をする。 「別に、目が冴えただけだ。 おい、起きてんなら今のうちに腕を.....って、おい!」 離せ、と言う前に、さらに抱き込まれてしまいギュッと圧迫感に包まれる。 「朝飯作れ」 「はぁ?」 ウトウトと目をさせながら言ってくるジャックに、なんでだよ。と思いながら見つめる。 「起きる」 「.....いや、寝ろよ」 今にも寝こけてしまいそうな顔を見ながら言うと、ジャックは首を振る。あぁ、もうひとつ知ったことがあった。ジャックは意外と幼い動きをすることがある。 「わかったわかった。じゃあ、朝飯作ってくっから腕離せ」 「ん」 素直に離されたジャックの腕を見て、モゾモゾと動くとベッドの端に座る。真っ裸で、足や手、体の至る所に付いている情熱的的な痕にため息をつく。昨日はヤッたあと一応風呂に入り、そのままジャックが乱入してきて風呂での一発だったから別に朝からシャワーを浴びる必要は無い。ただ、風呂場で力尽きた俺は、何も着てなかったせいでこの近くに服はない。 パンツすらも無いことにイラつきながら、近くにあったジャックのシャツを着てキッチンに向かう。 リビングできちんとパンツだけは取って行った。シャツは嫌がらせだ。どうせ直ぐに脱がされるかもしれないし、わざわざ外に出ない日に新しい服を出すのも面倒だ。 様々な予測を立てながらキッチンに立つ。よくよく考えればシャツにパンツ1枚とか誘っている、てか、ただの変態にしか見えないがそこは無視、というか気付かずにそのままだ。 キッチンに立つと朝の献立を考える。あれでも一応バスケットプレイヤーだし、NBAからも幾つも声がかかっている。今年で今のスポンサーとの契約が切れるらしく、それが切れ次第NBAと契約し、そっち方面のスポンサーと契約し直す予定らしい。 健康的で、タンパク質はしっかり!とジャックが通っているジムのトレーナーの方に言われたことを思い出して献立を立ててゆく。 30分程して結構な料理が出来てきた所で、ジャックがリビングとキッチンを区切る所に顔を出す。眠たそうな顔をしてノシノシと歩いてくる。 「おはよう」 「ん」 出来上がった料理をテーブルに並べ、ジャックが顔を洗いに行くのを見送る。 ジャックが帰ってきたところで一緒にお祈り、そして「いただきます」をして食べ始める。 「どっか行くか?」 「お前と行ったら目立つだろーが」 「この世で俺の誘いをそんな事で断るのはてめーだけだぜ」 断られた、振られたはずなのに嬉しそうに笑うジャックに眉を寄せると、ジャックはさらに笑う。 無駄に天気のいい朝日がジャックの髪を撫で、キラキラとした金色の髪の毛が光に反射して光る。天気がいいし、今日の昼はとても暑くなるらしい。外に出て汗をかくのは面倒だが、せっかくの天気なのだから外で遊んだりしてもいいかもしれない。 そこまで考えてあぁ、と納得する。ここはペイントハウスなのだ。他よりも少し部屋が狭い代わりに、とっても豪華なものが着いている。 「ジャック」 「あ?」 「泳ごう!」 は?というジャックの声を無視して、そうと決まればとばかりに食事を片してしまいプールの方向へと歩く。今はまだタイルは暑くなっていないため、素足のままタイルの上を歩き、芝生の上を歩いてまたタイルの上を歩きプールサイドへとたどり着く。 定期的に手入れ業者が入っているプールはとても綺麗で、水も澄んでいる。 「せっかくバカでかいプールがあんのに、入らねぇとか勿体ない!」 テラスに出るための窓に寄りかかっていたジャックが、俺の言葉に合わせて笑う。 「タオルとかはそこに置いててやるよ」 そのまま飛び込んでもいいぜ、というジャックに感謝の気持ちを伝え、ジャックのシャツを脱ぎ捨てるとそのまま飛び込む。まだ早い時間のせいで、水は冷たかったが久々のプールは気持ちが良かった。 ジャックは宣言した通りに、大きなバスタオルを何枚かパラソルの下にあるテーブルの上に置くと、自分はすぐそこの椅子に座る。 入る気は無いようだ。まぁいいか、と思い思いっきり水をジャックに向かって投げる。

ともだちにシェアしよう!