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第16話
「レポートが突き返されたァァァァ!!!!」
大学生の帰り道、いつも行く安っぽいバーに顔を出した俺達は、やけ酒とばかりにバカ飲みしたケニーの愚痴に付き合わされていた。
「あはっ、今回結構厳しかったもんね〜」
「再提出は?」
「明後日」
同情の意味を込めて、うわぁ〜とグレンと2人で呟くと、ケニーはさらに酒を飲む。いや、酒飲んでないでレポートやれよ。
泣く真似してテーブルの上で頭を抱えているケニーの頭をグラスで小突く。グレンはもうケニーに飽きて、他の女とアイコンタクトでなにかしている。おい、彼女いんだろお前。
自由過ぎる2人を眺めながら酒を煽ると、奥の女の人と目が合う。ウィンクをしてくるので微笑み返すと、向こうも微笑む。友人がいるのか、横から女の人に声をかけられている。
「お、いい女」
「お前の機嫌は女しだいかよ」
俺にウィンクした女の横に目を受けたケニーがその女に笑いかける。それだけで隣の女が赤くなるんだからイケメンって相当ずるい。
ジャックと一緒にいても思うことをケニーでも思いながら酒を煽ると、ケニーがおいで。っと口パクで女性を呼ぶ。
「あはっ、なら俺も遊んできていい?」
「お前は彼女に悪いと思わないのかよ。」
「俺の彼女は心が広いの」
クズな返しをして来るグレンに呆れながらシッシッと手を振ると、グレンは嬉しそうに歩いていく。近寄ってきた2人組の女は、どちらも美人でまさにモデル体型だ。
「ケニーだ」
「ニアって呼んで」
ケニーと女性が自己紹介し終わると、2人でどこかへ行ってしまう。その様子にため息をつくと、テーブルにウィンクをしてきた女性が肘をつく。
「おひさしぶり、でいいのかしら?」
覚えてる?と聞いてくる女性に、苦笑を返してもちろんと言う。
クリクリとした目に、キスを誘うような魅力的な唇。長いクルクルと巻かれた髪の毛は、綺麗に後ろに流されている。彼女は、初めて俺がジャック達と飲んだ時にいた女性だ。確かグレイの横にいた2人のうちの1人だったはず。
「あぁ、久しぶり」
「ふふっ、メアリよ」
「功祐だ」
挨拶の代わりにとばかりに、互いのグラスを当て乾杯を交わす。
「今日はジャックと来てるわけじゃないのね」
「セットにするな」
まるでいつも一緒にいるかのように言ってくる彼女にそう言うと、彼女はくすくすと笑う。
「あんたみたいな美人さんがこんな安いバーにいるなんて、意外だな」
何度かグレイ達と飲んだが、彼女はその全てでグレイの横を当たり前のように陣取っていた。グレイも彼女を見つけると直ぐに呼ぶし、なかなかのお気に入りのようだった。
「ふふっ、私達にもルールがあるのよ」
私達?ルール?意味が分からなくて首を傾げると、何が面白いのか彼女がまたくすくすと笑う。
「私達って言ったら、あれか?グレイの横にいる女性陣?」
「そうよ。グレイの周りにいるのにも条件があるし、しかもジャックたちファフニールのメンバーが集まるならさらに大変なのよ」
くすくすと笑う彼女を見ながら、じゃあ、メアリは特別な方なんだ。と納得する。
「例えば?」
「ファフニールのメンバーがいる時の条件としては、ジャックに簡単に鞍替えしない事ね」
「くっ、グレイはそんなこと気にすんのかよ」
あんな風に女を取っかえ引っ変えしてんのに、自分が捨てられるのはダメなのかよ。と笑っていると、メアリから苦笑が返される。
「違うのよ。私達のためよ」
「はぁ?」
意味が分からず首を傾げると、メアリはさらに笑みを深める。
「ジャックはあの顔で、しかも、全米に知られている大スター。彼と1度でも寝たら女として箔が付くのは当たり前。でも、それだけじゃ満足出来ないのよ」
女ってのはね。っと呆れたように話す彼女に苦笑する。
「ジャックは相当人気なんだな」
「当たり前じゃない。あの顔よ?
てか、ジャック、と言うよりファフニールが人気よ。ルールは沢山あるの、あのメンバーで飲んだ時の事は口外禁止、絶対に紹介制。そして紹介した人は連帯責任。それらをひっくるめて纏めるのが私ってこと」
「へぇ〜、女性の世界も大変だな」
「そうよ。だからいきなり連れてこられたあなたに、私達は警戒してるのよ」
肘をついて、手の上に置いていた顔が滑り落ちる。
「え?」
相変わらず美しい笑みでニコニコと笑っている。美人の笑みは目の保養だ。なんて思うが、直ぐに頭を切り替える。
警戒されてる?誰が?俺が?誰に?彼女達に?
ん〜?と考えて首をひねり、もう一度彼女を見る。凄い美人だ。体型もモデルをしてそうなほどスレンダーだし、彼女の為に1日何百という金が動いても不思議ではない。
彼女の顔を見て、自分の肩が揺れる。
「くっ、ははははっ!」
彼女を見て、下を向いて笑っていたが、堪えきれずに上を向いて大声で笑う。
グラスから手を離してひとしきり笑って彼女を見ると、キョトンとした顔をしている。それでも十分綺麗な顔だが。
「ど、どうしたの?」
笑いすぎて出てきた涙を拭いながら彼女を見ると、不安そうな顔をして彼女が聞いてくる。
「いや、だって、ぷはっ、くくくつ、俺そんなに警戒されるような人じゃねーし、第一、ははっ、ジャックからしたらただ毛色の違う猫を飼って見たかったってだけだろ」
あー、笑った笑った。と言いながら酒を煽ると、彼女は少しだけ不満そうな顔をする。
「もう!私達にこう言われたら、誰でも多少なりとも焦るものよ!」
「ははっ、むしろジャックと引き離して欲しいぐらいだ」
「え?」
くくくっと笑っていると、彼女は呆れたように笑った。
「無駄に心配してた私がバカみたい」
「ジャックを?あいつはそんなたまじゃねーよ」
けっけっけっとジャックをバカにして言うと、彼女は首を横に振る。
「違うわよ。貴方をよ」
「俺?」
彼女が心配しているのが俺だと聞いて、俺は驚いて彼女の顔を凝視する。たぶん、結構なアホズラだと思う。
「言ったでしょ。私たちの世界は厳しいの。下手に近づいたらジャックが気づく前に追い出されるわよ」
その言葉にキョトンとしてしまう。自分としては追い出してくれるならそれがいいし、家は困ることになるが、なんとかなる気がする。
かと言って、今更それを言ってわざわざ心配してくれた彼女の手をあずらわせる訳には行かない。
「ははっ、メアリさんはやさしーなー」
「はぁ!?」
「大丈夫。俺、これでも男だから」
いくら日本人で体格がヒョロいからといって、女性に守られるようなひ弱ではない。笑いながらそう言うと、彼女は呆れたように笑った。
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