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第17話
「あいつらぁ〜〜〜!!!」
今日は帰らねぇ!というメッセージを送って来たグレンとケニーにムカつきながら酒を煽る。
「はぁ、帰るか」
「あら、帰るの?」
意外そうに聞いてくるメアリに肩をくすめる事でこたえる。俺の中でメアリはグレイの女だ、知り合いの女に手を出す趣味はないし、後からグレイに色々言われてもめんどくさい。
「送ってく」
「あら、日本人が紳士って本当なのね」
くすくすと笑う彼女に俺も笑う。
「悪い日本人もいるから気をつけろよ」
「えぇ、当たり前じゃない」
彼女なら、俺よりも悪人には鋭そうだ。嘘が上手な女性陣をまとめたりしている彼女。俺よりも絶対嘘に気づきそうな彼女に、無駄な心配だったかもな、と思いながら酒代を払う。もちろん彼女の分も。
「あら、いいのに」
「有益な情報くれたから」
「なら、次は私のおすすめを奢るわ」
「ははっ、なら俺はグレイの好きな物でも聞き出しどこうか?」
聞く限りグレイとは長い付き合いであろう彼女が知っていて、俺が知らない事があるわけないと思いながらそう言うと、意外なことに彼女は肯定を示した。
「そうね。ぜひとも知りたいわ」
「へぇ、知らないのか。意外だな」
「ふふっ、私達女の役目はグレイを満足させること。決して恋をしたい訳じゃないのよ」
意外すぎる返しに、パシパシと何度も瞼を閉じる。普通、好きな物とかは知っててもいいんじゃねーの?なんて思ったが、彼女達のルールなら口出し無用だ。
そう自分で納得し、彼女を連れて店を出る。もう夏が来るといっても、夜は肌寒くブルりと体を震わせふと2人で並んで歩き出す。
たわいもない話、でも、確実に俺の為になるような話を聞きながら歩いていると、騒がしい夜の街のはずなのに、さらに騒がしく聞こえる場所があった。
何気なくそちらを見ると、数人の男に路地に引っ張られながら連れていかれる女性が1人。髪を引っ張られ、足元にはまともにはけていない靴が落ちている。至る所にアザがあり、大声で何かをまくし立てているが、周りにいる人達は傍観するばかりで助けようとはしない。
「だめよ」
一歩そちらに踏み出した瞬間、メアリの腕が俺の腕に絡まる。
「話を聞くだけ.....」
「だめよ」
ハッキリと首を振って否定を表す彼女の姿に、またまた意外な一面を見たことで俺が驚く。むしろ彼女なら、こういった場面で率先して突っ込んで行きそうだと思っていた。
やはり、会って数時間で人を判断するのは難しいと思っていると、彼女が真剣な表情をしていることに気づく。あまりにも真剣な表情の彼女が俺を見つめてくるので、降参とばかりに手を挙げて彼女に向き直る。
「理由を聞いても?」
そう聞くと、もう女性が路地に連れ込まれてしまった道を見て辺りを見渡す。既に人々は野次馬を止めまばらになっている。
メアリは驚いた顔をして、少しだけ不安そうな顔をする。
「あなた、良くこの街で生きていけたわね」
肩をくすめて応えると、メアリはため息をついて俺の腕に腕を絡める。
「歩くわよ」
「ん、あぁ」
メアリの歩幅に合わせて歩き始めると、ようやくメアリは話始める。
「この大通りはまだ安全だけど、路地に入ったら父親がアメリカ最大のマフィアの娘がおさめているチームの溜まり場なの」
「チームの?」
「えぇ、ここだけじゃないわ。州を飛び越えて隣接する州なら半分近くが彼女のチームの傘下よ」
女がおさめているチーム、しかもこの州をおさめていると聞いて驚く。女性がおさめるのも珍しいし、何より規模がデカい。父親がマフィアなら、バックにマフィアがいるのと同義だ。
「マフィアが付いてるなら、彼女は安泰だな」
名も知らないチームのボスのことを言うと、メアリは首を振る。
「彼女はマフィアのボスの愛人の娘なの。だから正直どこまで助けて貰えるか分からないらしいわよ」
驚いた。マフィアのボスの愛人の娘ぐらいなら、普通は簡単に人はついてこない。なのに、州の荒くれ者達をまとめる程となれば、彼女自身にカリスマ性があるのだろう。
ただの七光りかと思っていたが、違う事が分かり感心する。
「へー、じゃあ、彼女は随分と素晴らしい人なんだな」
「そう、なの?」
分からない、と首を傾げる彼女に笑ってあぁと返す。
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