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第1話 僕達が餅麦畑です

大人気3人組アイドルユニット”餅麦畑(もちむぎばたけ)”の畑担当、1番人気のない最年長リーダーが僕、畠山(はたけやま)(みのる)である。 畠山はまあ、べつにしても、なかなかアイドルには見えない名前だ。 農家さんならめちゃくちゃ大成しそうだけど。 そして他の(いかれた)メンバーを紹介しよう。 人気No.1 The プリンスとも名高い茶髪の彼が、柏 茂知(しげとも)。 下の名前がモチと呼べるので”餅麦畑”の餅担当だ。 人気No.2の癒し担当でふわふわしたピンクが似合う彼が粟野(あわの) (むぎ)。 言わずもがな”餅麦畑”の麦担当だ。 3人組とはいえ、人気の99%は1・2の彼らだ。 俺に関してはなんでいるのかが分からない。 最年長でとっくにアラサー、今年で28歳になる。 他の2人はまだ22歳の代。 どう考えても、いるのがおかしい。 ファンからの言葉を見ても「もう畑いらんくね?」とか「もちむぎで十分」とか言われている。 全く以って、その通りだと僕も思います!! しかも、僕が172cm(別に全然小さくなくない?)なのに対し、2人が184cm(茂知)、180cm(麦)へと成長したせいで、バランスをとって毎度僕がセンターだ。 もちむぎに挟まる異物である。 何度もグループを抜けたい、とマネージャーや社長に言ってはみたが、「3人で1ユニットだから」と受け入れてもらえない。 グループが作られたのは6年前。 もちむぎが16歳、俺が22歳の時だった。 当時からもちむぎの顔は完成されていて、2人で十分な集客が見込めるほどだった。 が、あり得ないくらいに犬猿の仲で事務所は手を焼いた。 茂知はともかく、穏やかな癒し系だと思っていた麦があんな風にもめるなんて…、と当時はマネージャーが頭を抱えていた。 それで投入されたのが僕。 完全にサンドバックにしようとしていたらしい。 全く…、今でこそアラサーだが、当時22歳の青年をそんなところにぶち込むなんて鬼畜か? でも、何故か僕の加入により2人の仲は落ち着き、もちむぎの強い押しで僕がリーダーになった。 元々、グループのNo.1を張るようなタマではない僕は、リーダーという名のほぼプロデュース業に嬉々として従事した。 それでこの6年間をがむしゃらに突っ走って来たけど…、自分のあまりの人気のなさにそろそろ申し訳なくなってきた。 某5人組アイドルの彼がラップを勉強してキャラを確立させたって言うのは有名な話だから、僕も色々とキャラ変や人とは違う特技を磨いてみたが、てんでダメ。 彼には素質があった。僕にはない。 つまり、テコ入れをしてみたがどうにもならないので、アイドルを辞めようと思った次第です。 僕たちは有難いことに、地上波のテレビで番組を持たせていただいている。 バラエティー番組だ。 その番組の企画で使う子芝居を撮っていると、見るからに”偉い人”って感じのおじさんが来た。 動画を撮り終え、そっちに挨拶に向かう。 「お疲れ様です!」 誰かは知らないけれど、挨拶は大事だ。 「ああ、君、アイドルの…」 「はい。餅麦畑の畠山です!」 と僕が元気に挨拶をすると、おじさんはふっと口元を緩めた。 「そうだったね。私は矢島栄画という…」 とおじさんが言いかけたところで、僕は思わず 「ヴェネツィアの漁礁の矢島監督ですか!?」 と叫んでいた。 おじさん改め矢島監督は僕の勢いに驚いていたが、「ご存じだったかな」とほほ笑んだ。 「はい!僕、あの映画大好きで! 影響を受けて、オフの日にヴェネチアに行きました!」 これは本当。 その旅行にはなぜかもちむぎの2人もついてきたけど。 「そうかそうか。それで、ここに立ち寄ったのは、少しばかり君に用があったんだ」 そう言って矢島監督が言い出したことに、僕は仰天した。 たまたま見た僕たちのバラエティー番組「餅麦畑でつかまえて」の僕の子芝居が面白かったらしい。 「もしも俳優業に興味が合ったら、ぜひ私に連絡をしてきてくれ」と名刺を渡された。 僕は喜んで受け取った。 俳優業か… そろそろアイドル路線がキツイと思っていた僕。 お芝居で食っていけたらすごく良い! 勿論、甘い世界じゃないとは理解しているつもりだ。 せっかく映画やドラマに出れたのに、爪痕を残すどころか”演技が下手”みたいな印象がついて干される可能性だってある。 でも…、挑戦してみたい! だって、あの有名な矢島監督に目を付けられたんだから。 「他の2人は華がありすぎて、どう演技しても”アイドルの彼ら”を消しきれない。その分、君はいい意味で個性がない!素晴らしい!」 そう、監督は褒めて(?)くれた。

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