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君と一緒に
―三年後。
「雅、ほら、落ち着いて」
「む、り。無理だって」
緊張した雅が震えながら首を振る。正直裕司も不安…というかかなり緊張していたが、近くにそれ以上に緊張している人がいると冷静になってしまうものだ。
今日は、結婚式。
日本の法律は去年、同性愛者にとってとって大きく進歩した。日本でも同性結婚が認められたのだ。裕司と雅はそのニュースを目にした瞬間、抱き合いキスをしあう。そして感動のあまり雅は目に涙を浮かべた。
それから一年。二人は確実にお金を貯め、この日を迎える。
季節は冬に近い秋。雅が裕司に自分の性別を告白したあの月だった。雅にとっても裕司にとっても様々な意味で思い出深いこの日に結婚式をしようと、同性結婚が認められる以前から決めていた。
少し寒いドアの前。このドアの向こうには雅と裕司の友達や親戚、会社の代表が椅子に座って待っている。
バージンロードは二人で歩こうと言い出したのは、裕司だったか雅だったか。今となってはそれが妙案だったなと裕司が思う。雅が緊張しすぎて、きっと一人じゃ歩けないからだ。
「ほんとに、ほんとに大丈夫?俺変じゃない?ネクタイ歪んでない?」
何回目の質問か。裕司はそれを気にした風もなく、毎回大丈夫だよと優しく答えた。
雅も裕司もタキシードを着ている。ウェディングフォトではウェディングドレスも着たが、やはり結婚式ではタキシードを着たいと雅が望んだ。裕司はもちろん雅の意見を尊重した。
「そろそろお時間です」
そう案内役の人が二人に声をかける。は、はいっと雅が声を裏返しながら答えた。
「さぁ、行こうか」
「待って待って。最後にもう一回深呼吸させて」
そう言って雅が最後の深呼吸をする。そして覚悟を決めたように、裕司の差し出す手に自分の手を重ねた。
「こけても、笑わないでね」
「大丈夫、君がなんであろうと僕は雅を愛してるよ」
―ドアが、開かれる。
拍手喝采の中、二人は周りに手を振りながら歩く。最前席の左側には裕司の家族と…右側には雅の祖父がいた。
祖父母に会いに行った時、最初は大いに歓迎してくれていた祖母だった。以前電話が繋がらなかったのは祖母が入院していたかららしい。…余命宣告を、受けたそうだ。そのため雅が男性を連れてきたことにより、より一層性転換への道を切り開いてあげようという話になってしまう。だが、祖母は雅の告白を聞くなり二人を追い返してしまった。それでもめげずに何度も、何度も会話を重ねた結果、祖母はそれでも納得せず祖父だけが結婚式に参列する形になる。
祖母は未だに雅を宮子として生かすことを諦めきれていない。きっと死ぬまで彼女は変わらないだろう、そう雅は言った。
せめてもの救いを、と雅は祖母にウェディングドレス姿を見せた。その時の祖母は泣いていてとても弱々しく、彼女に何年も支配され続けた雅は、祖母はこんなに小さかったのかと心の中で驚いていた。
きっとこの先、祖母のように考え方が変わらない人間などいくらでも出てくるだろう。しかし二人は変わらない。二人だからこそ、周りには変えられない。この愛を二人は一生変えることはない。
たとえ姿かたちが変わろうと。君がなんであろうと。
君がなんであろうと。 終。
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