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覚悟 4
結局雅は裕司と湯船には浸からず物凄い勢いで髪と体を洗い終わると裕司と湯船を交代しさっさと風呂を出た。逆に疲れた、と雅がリビングの隅で疲れ果てていると、母親がアイスを差し出してくれる。ありがとうございますと言いそれを受け取った。
「これ裕司の好きなアイスでねぇ」
「そうなんですね!あ、美味しい…」
「この時期しか売ってないやつで、他の時期に食べたいーって小さい頃はよく泣かれたわぁ」
懐かしむ母親に、裕司が後ろから要らないこと言わないでと彼女の言葉を制した。
「あ、そうだ。裕司の卒アル見る?」
「っ見たいです!」
「母さん…」
裕司がため息をついたが、母親は止められないと分かっているのか静かに行先を見守っている。
母親はさっそく二階に行き4冊分の本を持ってきた。小中高大と並べられた一冊の生徒紹介ページが開かれる。そこには随分幼い顔立ちの裕司がいた。
「〜かわい!」
思わず膝立ちになってそう言うと、裕司がはあぁとため息を着く声が聞こえる。
「可愛いでしょお。小さい頃はこんなに無表情な子じゃなくてね、よく笑う子だったのよー」
「そうなんですね!」
「そうそう、それからこれが…」
ページを送りながら母親が説明してくれる。その度に裕司はため息をついていた。そして最終的にはもういいだろ、とアルバムを閉じ雅の目を覆ってしまった。
「えー!もっと見たい!笑う裕司かわいいー!」
「僕は恥ずかしいからやめて欲しい」
ええーと雅が文句を言うも、裕司が本気でやめて欲しいと思っているのを感じ取ると大人しく見るのをやめた。
「なんでいまの裕司は無表情なことが多いの?」
「なんでって…面白いことがないのに笑う必要ないでしょ」
「私といるときはよく笑ってくれてるね。嬉しい」
素直にそう言えば、裕司はすこし頬を赤らめぷいとそっぽを向いてしまう。その姿すらかわいいなと雅は笑った。
その後母親に言われるまま二人は眠りにつき、次の日を迎えた。
「雅お姉ちゃんもう帰っちゃうのー?」
「みやにぃまた来てね」
「ゆうにぃへの挨拶はなしなんだな…」
しょげたように裕司が言うと、雅はくすくす笑いながら肩をぽんぽんと優しく叩いて労った。
雅は少し腰を折って二人に目線を合わせると、また来るからねと言う。
「いつでも来ていいからねぇ」
「…」
母親は頬に手を当てふふとほほ笑む。父親は裕司の話の通り無口な方で、昨日の顔合わせからほとんど言葉を発していなかった。それでも敵意や無関心な風はなく、ただ言葉にするのが苦手なだけなようである。今も、口にはせずともまた来ていいという雰囲気が漂っていた。
「ありがとうございます、お世話になりました」
雅がお辞儀をすると、裕司がそっと手を差し出してくれる。雅はその手にそっと繋ぐと、外へと歩き出した。
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