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覚悟 3
「雅ちゃん男の人なのっ?」
リビングにいた姉弟たちに裕司が事情を話すと、紗奈と颯太はかなり驚いた。そして目を真ん丸にした紗奈は雅の元に来ると、じっと顔を覗き込んできた。仰け反るような形で紗奈を避けると、裕司がそっと引き離してくれる。
兄にそんな仕打ちをされた彼女は不満そうな顔で、けれど納得したような顔で頷いた。
「確かに骨格が男の人ぽかった!」
「まじ?」
今度は颯太が裕司を防壁を掻い潜り、紗奈がしたのと同じように雅の顔を覗き込んできた。紗奈も裕司の腕から逃げてまた雅を見てくる。
かわるがわる顔を見つめられ、次第に雅が頬が紅潮するのを感じた。裕司はなんだかんだ言いつつ言葉では助け船を出してくれない。これがいつもの調子だからだろう。
「ゆ、裕司…ちょっと、ねぇ、ちょっと」
助けろと言わんばかりに裾を引く。裕司は笑って、まぁこういう家族だからと言った。
この後、母親まで雅の顔を見始めたため、雅はさすがに顔を覆って隠れた。裕司が何も言わない分父親がたしなめてくれてその場はどうにか収まる。しかし雅は裕司が助けてくれなかったことを根に持っており、少しの間おさわり禁止令をだすつもりだった。
「さぁさ、ご飯食べましょ!雅ちゃんお寿司大丈夫?」
「大好きです!ありがとうございます!」
「雅ちゃん、お姉ちゃんって呼んでいいっ?」
「む、むしろ、いいの…?」
「紗奈、雅はお兄ちゃんだ」
「んもー知ってるって!でもメイク術がすごくてほんっとにお姉ちゃんにしか見えないもん!」
「じゃあ俺が兄ちゃんって呼ぶ。みや兄とゆう兄」
「颯太かっしこーい!雅お姉ちゃん!」
「ふふ、なぁに」
兄弟のいない雅は急に家族が増えた気分になり、とても楽しい時間を過ごすことが出来た。
買い込んだ寿司以外にも母親が作った誕生日の時にしか作らない料理も出てきて、腹がはち切れるくらい食べさせてもらった。
そうしてお誕生日会もお開きになる時間になると、母親が雅にぽんっとタオルを渡してきた。
「はい、お風呂」
「えっ、そ、そんな、悪いです!ちゃんとドライシャンプーとかも持って来たので…」
「どんちゃん騒ぎで疲れたでしょ〜裕司とゆっくりしてらっしゃい!」
「ゆゆゆゆ、裕司とっ?」
ばっと振り返れば裕司は肩を竦め、嫌か?と聞いてきた。いや、嫌の前に、その、一緒にお風呂入るとか恥ずかしくて。
雅が声にならない悲鳴をあげている中、裕司は笑いながら雅の腰を抱いてそのままずるずると風呂場に連れて行ってしまう。
「ほんとに入るの…?」
「そんなに僕と入るの嫌?」
「嫌っていうか…」
明るいところで裸見せるのが恥ずかしいというか。もごもごとそう言えば、裕司はがばっとトップスを脱ぎ首を傾げてきた。
「もう何回も見てきたけど」
「言わないでよそういうこと!」
情緒もへったくれもないその物言いに、雅は恥ずかしがってる自分がおかしいのかと思いばっと服を脱ぐ。しかし最後の抵抗で、先入ってて…と言った。
大人しくそれに従ってくれた裕司を見送り、雅も全ての服を脱ぐとタオルを胸元に当て全身が見えないようにして風呂場に入る。裕司は勝手知ったる我が家のため既に湯船に浸かっていた。
「お邪魔、します」
一応声をかけて一歩踏み出した。
「雅、おいで」
椅子に座ろうとしたところ裕司に声をかけられる。ぶんぶんと首を振るが、裕司が手首を掴んできた。
「ひゃっ」
「ほら、あったかいから」
そう言われても、湯船に浸かるってことはタオルを退けなきゃいけないってことでつまりそれは裸を明るいところで完全に見られてしまうってことで…。
思考がぐるぐるして、訳が分からなくなり、雅は小さく、ほんとに小さい声で馬鹿と裕司を罵った。
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